進行早い胃がん「低分化型腺がん」も腹腔鏡による低侵襲手術が可能
胃がんは減少傾向にあるとはいうものの、依然として死亡率は高く、男女合わせて年間約5万人が命を落としている。40歳代から発症が増え、50〜60歳代に一度、ピークを迎える。
胃がんは低分化型腺がんと高分化型腺がんの2つに大きく分けられる。低分化型腺がんは細胞分裂する余力が大きく、増殖力が高くて転移しやすいが、早期なら腹腔鏡による低侵襲手術で治療可能だ。
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進行の早い胃がんでも負担の少ない治療が可能に
胃がん原因の約60%はヘリコバクターピロリ菌の感染といわれ、ほかにも喫煙、塩分過多、ストレスなど複合的要因で発症する。約95%は胃液を分泌する腺組織から発生する腺がんで、低分化型腺がんと高分化型腺がんの2つに大別される。一般的に低分化型は細胞の増殖が活発なため、進行が早く転移しやすい。逆に高分化型は進行が穏やかだ。
昭和大学江東豊洲病院消化器センターの井上晴洋教授に話を聞いた。
「胃がんの大きな原因であるピロリ菌の除去が進んでいることと内視鏡検査の普及により、胃がんの約70%は早期で見つかっています。適切な治療を受ければ、胃がんは治る可能性の高いがんとなっているのです。早期胃がん治療の第一選択は手術ですが、内視鏡や腹腔鏡による低侵襲治療も可能です」
2cm以下で潰瘍のない高分化型腺がんは、胃壁外のリンパ節に転移がなければ、内視鏡での治療が行なわれる。現在、世界的に最も普及した治療法の1つである早期がんの『透明キャップによる内視鏡的粘膜切除術』は、井上教授が開発した手術方法だ。
一方、低分化型腺がんは進行が早く転移しやすいため、早期であっても、腹腔鏡による胃切除を行なう。がんの場所や大きさ、深さ、広がりによって切除の範囲が異なる。
その場合、手術前に拡大内視鏡で胃の中のがんの広がりを正確に把握し、切除範囲を厳密に選定し、切除する場所に印を付けておく。
がんの位置から、胃全摘を選択せざるを得ない場合にも、少しでも胃を残せる可能性について精査する。胃全摘の対応症例でも、転移がなければ、腹腔鏡による低侵襲手術が可能だ。
痛みをコントロールしながら手術し、術後の回復も早い
腹腔鏡の手術に際し、事前に硬膜外麻酔の針を留置する。これは脊髄の周囲にある硬膜外腔(こうまくがいくう)に針を留置、そこから局所麻酔薬を注入して脊髄に出入りする神経を麻痺させるもので、術後の痛みを継続的にコントロールできる。
胃切除後の消化管吻合(しょうかかんふんごう)についても、完全に腹腔鏡下で行なっている。安全かつ確実な消化管の吻合を行なうために、手術中に口から内視鏡を挿入し、消化管の内側からも確認しながら施術する。
「消化器センターでは外科と内科が連携、一部の進行胃がんを除いたほとんどの胃がん手術を腹腔鏡下手術で行なっています。腹腔鏡下手術の場合、おへそを含め、5か所に小さな創(傷口)をあけ手術します。腹腔内を観察するカメラのほか、手術操作を行なう鉗子などを挿入してモニターを見ながら進めます。創が小さいので、術後の回復が早いのも、患者にとってのメリットといえます」(井上教授)
腹腔鏡下手術後は2〜3週間で退院可能だ。ピロリ菌がいる場合、菌除去治療を開始する。退院後も内視鏡による定期的な検査が欠かせない。
消化器センターは土日も内視鏡検査に対応している。
※週刊ポスト2019年3月1日号