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暮らし

高齢者の「できない」を「できる!」に変える自立支援のためのアイテムスイッチ5選【福祉用具専門相談員が解説】

 高齢になり足腰が弱ってきたり、介護が必要になると、日常生活の中で、できないことや不便なことが増える。しかし、環境の工夫やアイテムを変える(スイッチ)することで「できない」を「できる」に変えることができると専門家は語る。そんな自立支援のための「アイテムスイッチ」の実例と使い方をご紹介する。

教えてくれた人

福祉用具専門相談員・山上智史さん

山上智史さん

福祉用具貸与事業所にて介護福祉士として介護現場を経験。現在は福祉用具貸与事業所「K-WORKER」と便利屋事業(住まいるサポート)の管理者を務める。福祉用具専門相談員としての現場経験をいかした「高齢者在宅の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした介適環境づくり」を実践している。
https://k-worker.co.jp/

「できない」を「できる」に変える”アイテムスイッチ”

 記者の母は、90才を超えてから、ちょっとした段差でつまずくことが増えてきた。歩くのが億劫なのか、家の中で座っている時間が増え、ますます足腰が弱くなるという悪循環に…。

 記者の周囲の介護中の人たちからも、「家の中でもすぐ転びそうになる」「食事を食べるのに時間がかかる」といった声も聞く。

 高齢の親が要介護となり、体が弱ってくると日常生活で困ったことが増える。しかし、「道具や環境をスイッチすることで、できるようになることもあるんですよ」

 こう話すのは、福祉用具専門相談員の山上智史さんだ。介護福祉士や行動心理士の資格も持つ山上さんは、生活環境やそのかたの状況に合わせた道具の使い方をアドバイスしている。

「できないからとあきらめて、何でも手助けするのではなく、なるべくご本人にやってもらうことで、自信にも繋がりますし、自立支援になるんです」(山上智史さんさん、以下同)

 こう話す山上さんが提案しているのが、環境や道具を見直すことで「できない」を「できる」に変える「アイテムスイッチ」だ。

 介護シーンの悩み別に、5つの事例を紹介していこう。

お悩み1「ちょっとした段差でつまずきやすくなった」

・アイテムスイッチ「薄い色のシューズ」→「赤いシューズ」で視認性アップ!

「つまずきやすいのは、足腰が弱っているという原因のほかに、もしかすると足元が見えにくくなっている、視力の低下も考えられます。

 たとえば、薄い色のシューズは階段や段差との距離感が認識しにくく、つまずきや転倒のきっかけになる場合も。そこで、赤など目立つ色のシューズにスイッチ(変更)することで、足元を認識しやすくなってつまずきにくくなった事例がありました。

 ただし、床の色が暗い、濃い色の場合には、白のシューズのほうがはっきり見えることもあるので、環境に合わせて視認性の良い色を選ぶといいでしょう」

お悩み2「時間感覚が鈍り、昼夜逆転しがちに」

・アイテムスイッチ「普通の時計」→「音の鳴る時計」で意識を変える

「認知機能が衰えたり、生活習慣が乱れて昼夜逆転してしまったり、時間の感覚がわかりにくくなっている高齢者のかたもいます。そんな場合には、時計を『音が鳴る時計』にスイッチすることで、時間を認識しやすくなることがあります。

 1時間ごとに音が鳴る時計に変えたことで、だんだん時間感覚を取り戻し、昼夜逆転が解消したというかたもいらっしゃいました」

お悩み3「食事が食べにくそう、食べるのに時間がかかる」

・アイテムスイッチ「いつものお皿」→「食材が見やすいお皿」で認知UP!

「食事のスピードが遅い原因は、噛む力やのみ込む力が弱ってきていることのほかに、視力の低下や認知機能の低下により、食べ物が認識しにくくなっていることも考えられます。

 普段使っている食器を見直すことで食べ物が見やすくなり、食事がスムーズになることも。たとえば、柄付きのお皿や、白い色の食材を白いお皿にのせると見えにくいこともあるため、食材によってお皿の色を変える工夫をしてみてください」

お悩み4「玄関の段差が認識できず転倒が危険!」

・アイテムスイッチ「床」→「滑り止めマット」で踏み外しを防止

「床の材質とは異なるマットを敷くことで、目視できなくても足の感覚で危険ゾーンを回避できた事例もあります。

 たとえば、玄関の段差で転倒を防ぐには、長めの滑り止めマットを廊下に引いておくことで、歩いたときの足の感覚で玄関の段差が近いことを認識でき、転倒防止に繋がります。

 なお、マットは、はっきりした色のほうが認識しやすく、つまずきを防止するためにも厚みがないタイプのものを選ぶといいでしょう」

お悩み5「トイレの場所がわからない」

・アイテムスイッチ「文字」→「絵柄やマーク」で認識しやすく!

「認知機能が低下してトイレの場所がわからなくなってしまったかたに、ご家族が『トイレはここです』などと文字の貼り紙をすることがありますが、文字よりも絵柄のほうが認識しやすいケースも。

 文字は読めなくなっていても見慣れたトイレのマークなら認識できる可能性があります」

「また、トイレ以外でも、開けて欲しくない扉には『立ち入り禁止マーク』など貼るほか、引き出しの中身を絵で描いて表示しておくといった使い方もできます」

 紹介した事例のように、普段使っているアイテムを見直すことで、不便だったことが解消できることがある。

「まずは何が原因でできなくなっているのか、状況をよく観察してみてください。自分でできるということが、ご本人も家族にとっても前向きに暮らせるきっかけになります」

イラスト・写真提供/山上智史さん
写真/イメージマート 取材・文/本上夕貴

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