安藤なつさんのポジティブ介護術「介護は人間観察、人に寄り添う面白い仕事です」
お笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさんは、今年3月に介護福祉士の国家資格を取得し、20年以上に渡り介護の仕事と本気で向き合ってきた。そんな安藤さんが長年、介護の現場を経験して感じてきた仕事の楽しみ方について語ってくれた。介護をポジティブに捉える心の持ち方を学びたい。
介護施設に行くのが楽しみだった子ども時代
「“介護の仕事って大変ですよね~”って、よく言われるんですけど、ライターさんの仕事のほうが私からみたら大変に見えますよ。だって、こうやってぼそぼそっと私が喋ったことを記事にするなんて、めっちゃ大変じゃないですか」(以下、安藤さん)
今年3月には悲願だった介護福祉士の資格を取り、「介護業界を変えたい!」と熱い想いを抱く安藤さん。介護の楽しさを初めて感じたのは小学1年生のときだった。
「叔父の経営する介護施設に、夏休みに遊びに行くのが楽しみだったんですよ。利用者さんと一緒におやつを食べたり、公園に行ったり。普段、友達と遊んでいる時間と同じように、ただただ楽しかったんです。幼い頃に、介護施設は楽しい場所と感じたこともあって、私にとって介護にネガティブなイメージは一切ないんですよ」
認知症のおばあちゃんと心が通じた合った瞬間
「介護施設=楽しい場所」という気持ちは、さらに安藤さんを介護の現場に向かわせることになる。中学1年生からは、毎週末、泊りがけでボランティアとして通うようになった。
「中学生のときに、介護の仕事を通じて、豊かな気持ちや喜びを味わえたんです。
ある認知症のおばあちゃんの朝の着替えの担当になったんですけど、毎朝、なかなかうまく着替えをしてもらえなくて…。パジャマを脱いだと思ったら、また着ちゃうとか、そもそも脱いだり着たりするのが難しかったり。なかなか意思の疎通ができませんでした」
――四苦八苦すること数か月。安藤さんにとって忘れられない瞬間が訪れる。
「散々苦労してきたんですが、ある日の朝、なんの問題もなくすんなり着替えてくれたんです。『あ、私のことを受け入れてくれた』と。利用者さんと初めて通じ合えた瞬間でした。
着替えをして一緒に食堂まで行けたことに、すごく感動したんですよ。あの光景は今でもはっきり覚えています」
介護の仕事の面白さ「人間観察が好き」
「介護の仕事は、大変そうだっていうネガティブなイメージが勝手に膨らんでしまっている気がしますが、大変かどうかは、実際にやってみないとわからない。どんな仕事でもそうじゃないですか」
安藤さんはほかにもいろんなアルバイトを経験してきた中で、介護の仕事だけは離れることはなかった。
「コンビニや牛丼チェーン店とか、色々アルバイトはしてきたんですよ。だけど、レジ打ち面倒だな~、私には合ってないな~と思ってどれも長続きしなくて。
唯一、介護の仕事は私の性に合っていたんですよね。楽しいから続けることができた。
それじゃあ、介護の仕事の楽しさってなんですかってことなんですが、1番は、いろんな人の人生に寄り添えること。
人によって、性格も生き方も違うじゃないですか。それぞれの人たちの表情や口調、その日の態度などを観察して、どうしたら一番心地よく生活ができるかなって考えるのが面白いんです」
介護の仕事の醍醐味は、「人間観察」にもあると安藤さんは語る。
「人の行動を観察するのが好きなんです。介護をしていると、そのかたの生き方や本音が見えてくることがあるんです。
利用者さんの状況を想定して、表情や口調、テンションを見て、『あ、この人、無理してるな、本音ではないな』とか、観察して推理して、正解を探っていくんです。
会話やケアを通して、自分なりに正解を導き出して、利用者さんの快適な状態を作り出すことができたときに、『ありがとう!』と言ってもらえるのは最高に嬉しい瞬間ですね」
→安藤なつさん「介護福祉士」を取得!国家資格に挑戦した理由「介護職のネガティブイメージを変えていきたい」
安藤なつ流「排せつケア」のメソッド
介護の仕事を楽しみながら続けてきた安藤さんが、心がけていることがあるという。
「利用者さんとの距離感は、よく考えないといけないなと感じていますね。
中学生や高校生のときは、利用者さんと友達感覚で、『トイレ一緒に行こうぜ~』なんて声のかけ方をしていたんですが、さすがに大人になった今は、敬語を使うとか考えながらやっています。
こういうキャラなんで、何を言っても大丈夫と思われている節はあって、かなり気軽に話しかけてくれる利用者さんも多いんですけどね。あんた、相撲取りなのか?とか(笑い)」
また、安藤さんがとくに注意しているのが、排せつケアなどデリケートな部分。
「介護脱毛が流行っているとか聞きますけど、私自身は排せつケアで毛が気になったことは一度もありません。そういうことよりも、排せつケアであれば、相手の抵抗感をいかになくすのかということに気を配ります。
認知症が進んでいたとしても、寝たきりのご高齢のかたでもあっても、人には必ず羞恥心があります。だから、オムツを交換するなどの排せつケアのときは、タオルをかけてこちらの顔が見えないように配慮するとか、不快な思いをさせないように気遣いを忘れないようにしたいですよね。
長年介護職を経験している人でも、『なんで漏らしちゃうの?』とか、本人を一番傷つける言葉を使ってしまうことがあるんです。
『なんで〇〇なの?』とか『どうしてできないの?』というフレーズは、介護現場ではタブー。排せつケアに限らず、介護は相手との信頼関係があってのこと。利用者さんとの距離を縮めて、この人なら安心だと思ってもらえる人間関係を作っていくことを意識しています」
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プロフィール
安藤なつさん
1981年東京生まれ。中学時代から介護施設でのボランティアを経験。高校時代から本格的にお笑い芸人を目指し、女子プロレスラーとしての活動経験も。2012年にメイプル超合金を結成。以降も介護に関する仕事を続けている。2023年介護福祉士の資格を取得。共著『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)。
撮影/市瀬真以 取材・文/氏家裕子
●引退力士が選んだ第2の人生 「新たな土俵は介護職。力士のセカンドキャリアサポートも」