介護専門弁護士が明かす「こんな介護施設は危険」|実例で学ぶ「ブラック老人ホーム」の見極め方
高齢者施設に入居してトラブルに巻き込まれたり、事故にあったりするケースも少なくない。大切な家族だからこそ利用者に寄り添った優良な施設を選びたいが、中にはブラック介護施設もあるという。介護現場に詳しい弁護士の外岡潤さんに「ブラック介護施設」を見極めるポイントを伺った。
実際にあったブラック介護施設の実態
介護職員初任者研修の資格を持ち、施設での経験もある弁護士の外岡潤さん(以下、外岡さん)は、今までさまざまな施設を見てきた中で、「親を入居させるのはおすすめできないブラック施設」もあるという。
いったいどんな施設なのだろうか?実例を教えていただいた。
・営業トークが派手な施設
「親の施設を探していたかたが、施設の営業の人に『看護師が常勤し医療的ケアが充実しています!点滴のかたでも大丈夫です』と言われ、入居を決めたそうなんです。
しかし、実態は、働いている看護師たちが高齢で退職間際の人ばかり。点滴の処置ができる職員は少なく、ご家族からご相談を受けて、施設を移る手続きをさせていただきました」
・不明瞭な請求をする施設
「おむつ代を水増し請求されたり、外出のレクリエーション代をスタッフ分ものせられて請求されたり、不正請求のご相談を受けました。施設にいる本人に聞きたくてもコロナ禍で面会ができないので確認がとれないとのことでした。
施設からの請求書は必ず精査してください。不明瞭な請求があった場合は、施設側に聞いて説明してもらってください。誠意がない場合は、監督機関である市区町村、都道府県に苦情申し立てする方法があります。
また、利用者の様子や話を聞いたりして、心理的・身体的虐待につながる行為がないかも確認してほしいですね。顔や身体にアザなどができていたら、早急に施設長や行政に相談することが必要です」
→介護施設で実際に起きたトラブル事例 施設内トラブルを回避する5つのポイントを弁護士が解説「トラブルから5~7日以内に動くのがベスト」
ブラック施設は五感で見極める「チェックポイント」
「ブラック施設を選ばないためには、なるべく多くの施設を見学すること、これに尽きます。
実際に見て感じることが重要で、パンフレットを見るだけではわからない点がたくさんあります。
営業トークや宣伝などが素晴らしくても、実態が伴っていない施設も実際にはあります。できれば親御さんと一緒に自分たちの目で確かめてほしいです。
個室から叫び声や大声が聞こえるとか、何か落ち着かない雰囲気がしたら要注意です。利用者ご本人や家族がしっかり見て聞いて、五感をフルに使って確かめてください」
【目】施設の衛生面が保たれているか?
「衛生面は大切。とくにトイレを見ると施設の姿勢がわかります」
【耳】不穏な音や会話がないか?
「個室から利用者のうめき声など聞こえないか、スタッフの暴言がないかチェックしてください」
【鼻】汚物などのニオイがないか?
「施設全体に尿臭や汚物などのニオイが漂っていたら、要注意です」
【口】食事はどんな状態か?
「温かいものが温かく出されているか、栄養管理はどうなのか、実際に試食をして確認してください」
できればほかの利用者さんの食事風景も見ておくことで、食事介助の様子などもチェックできるという。
見学時に聞いておくべきこと
「見学時に施設長などとお話するときに、病気やケガの対応や看取りなど、オーダーメイドの対応をしてくれるかどうか聞いてみてください。個々の家族に寄り添った姿勢があるかがわかります。
『これがうちの決まりです』などという通り一遍の回答しか得られない場合は、あまり誠意のある施設とは言えません。
また、高額な施設が必ずしも良いとは言い切れません。数多くの施設を見てきた経験から、ホテルのような施設だからといって、スタッフの人柄やサービスがいいとは限りません。
施設を運営している会社の理念や姿勢を見極め、実際の施設を見学して確かめることが大切です」
介護施設でのトラブルを防ぐ2つのチェックポイント
「介護の世界は、人と人が接することが基本です。なので、どうしても小さなトラブルも含めて起きてしまうことがあります。それは介護施設でも在宅介護での家族同士でもトラブルは多かれ少なかれ避けられないでしょう」
・健康観察や服薬はしっかりしているか?
とくに面会に行ったときには、健康観察や服薬・医療的ケアがきちんとなされているかを確認すること。
「実はそのあたりが手薄な施設もあるのです。家族が健康診断に連れていくとか、薬が合わないようでしたら薬を見直すように病院に相談するなどしてください。
健康・医療に関しては、施設に頼り過ぎずもっと家族が積極的にかかわった方がいいと思います」
・事前にトラブルの相談先を確認する
「介護施設は、事前のリサーチは大切ですが、やはり入居してみないとわからないこともあります。
トラブルに遭遇したときの対処法や相談先は調べておくことをおすすめします。
また、入居した施設がトラブルに誠意を持って対処してくれない場合は、施設を転居することも考えたほうがいいでしょう。
有料老人ホームであれば、クーリングオフ制度が活用でき、入居一時金は90日以内に退去すれば全額返ってきます。
介護をビジネスとしてだけではなく、人に寄り添いケアを提供するという理念や教育が行き届いた施設やスタッフに出会えることが望ましいですね」
→「こんな介護施設は避けるべき」6つのポイントをベテランケアマネが座談会で提言!
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記者が親のために施設見学したとき、その施設の入居者の娘さんに声をかけてみたところ、「実は要介護5の母が入所しているがスタッフに対して不審なことがある」と話し始めた。実際の入居者のご家族に話を聞くのも参考になるだろう。
介護施設でトラブルに遭遇しないためにも、事前のリサーチが重要なのだと改めて感じた。
教えてくれた人
弁護士・外岡潤(そとおかじゅん)さん
「弁護士法人おかげさま」の代表であり、ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)の資格を持つ介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命としている。著書に『弁護士が教える親の介護で困ったときの介護トラブル解決法』(本の泉社)、『60分で分かる!障害者総合福祉法超入門』(技術評論社)ほか多数。
ホームページ「介護・福祉系弁護士法人 おかげさま」https://okagesama.jp/
YouTubeチャンネル「知らないと損する介護の落とし穴」
https://www.youtube.com/channel/UC1UcAqSlMExxc6bmVbL6Zeg
取材・文/本上夕貴