隣家の解体工事が始まって認知症の母の行動に問題が!困った息子が感動したプロの神対応
作家でブロガーの工藤広伸さんは実家の岩手・盛岡と東京の自宅を行き来し、認知症の母を遠距離介護している。帰省中のある日、隣家の解体工事が始まると、母に困った問題が発生して――。認知症介護における環境の変化への対策とは?
認知症の母の環境の変化による混乱
介護者はほんの少しの環境変化と思っていても、認知症の人にとってはものすごく大きな変化に感じるケースがあります。
わたしは母のために、良かれと思って虫歯予防効果のある少し高い歯磨き粉に替えました。しかし母にとっては、いつもの歯磨き粉ではありません。歯磨き粉を使い切るまで、前の歯磨き粉はどこへ行ったと毎日言われ、正直参ってしまいました。
ちょっとした日用品ですら母は混乱するのに、50年以上住んでいる家の環境が大きく変化し、再び混乱するようになったのです。
隣の家の解体工事が始まった!
わたしが幼稚園の頃には、隣の家はありました。なので少なくとも46年以上は経っていると思いますが、その家が急に解体されて更地になってしまいました。
距離にして10mもない場所で、フォークリフトを使って家を解体したので、1日中解体工事の音が鳴り響きました。わたしも音が気になるレベルでしたから、母が気になるのは当然です。何度も繰り返し勝手口の扉を開けて、解体工事の様子を眺める母。
解体した家の木材などが周りに飛び散らないよう、防護ネットが張られていました。それだけ危険な工事だったわけですが、母は一度見たことを忘れて、また様子を見ようとするので、わたしが何度も制止しました。
解体工事が終わると、家の台所にも変化が。今まで暗かった台所が、急に明るくなったのです。光を遮っていた家がなくなったためで、50年近く見慣れた台所の明るさではないことは一目瞭然です。
認知症が重度まで進行すれば変化に気づかないかもしれないと思ったのですが、この変化は母にも分かるようで、1日に何回も勝手口の扉を開けて、隣の空き地を見るようになってしまいました。
遠距離介護が終われば、わたしは東京へ帰らなくてはなりません。母はひとり暮らしなので、わたしが居なくなると好きなだけ隣の様子を確認できるようになります。好きなだけ見てもらえばいいと思うかもしれませんが、家の構造上大きな問題があったのです。
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勝手口から母が落下する危険性があった
大きな問題とは、勝手口の扉の高さです。地面から20cmの位置にあって、扉は開き戸。レバーハンドルを押して開くタイプで、勢いでそのまま母が落下する可能性があります。
たまたま母の担当ケアマネジャーさんが新しいケアプランの件で家に来たので、隣の家の解体工事の影響で、母の行動が心配だという話をしました。
わたし:「母が勝手口の扉を何回も開け閉めするようになって。ひとりの時、誤って転落してしまったらと思うと、不安になります。
次回帰省したときに福祉用具専門相談員(以下、専門相談員)さんを呼んで、どうしたらいいか聞くつもりです」
するとケアマネさんが、
ケアマネ:「次の帰省まで1か月ありますよね? それなら今呼んで対応してもらいましょう、すぐ来てくれますから」
わたし:「でも、お忙しいですよね」
ケアマネさんは勝手口の写真を撮って、すぐ専門相談員さんへ送信してくれました。すると30分後、専門相談員さんからわたし宛に電話があり、2時間後でよければすぐ伺いますとのこと。
亡くなった父が病院を退院して自宅に戻ったときも、翌朝には介護ベッドやポータブルトイレの福祉用具が自宅に準備してありました。緊急で福祉用具を必要とするかたも多いので、専門相談員さんは対応が迅速です。
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専門相談員さんの仕事が早かった!
専門相談員さんが家に来るまでの間、母は勝手口の扉を開けて、隣の空き地を何度も眺めていました。わたしはスマホで母が扉を開け閉めする様子を撮影し、専門相談員さんに見てもらうことにしました。
2時間後、専門相談員さんが到着。早速、母の動きを確認してもらいました。納得した専門相談員さんは、勝手口の扉の幅を測ったあと自分の車に戻り、積んでいた手すりを下ろして設置してくださったのです。
ケアマネさんが送った写真からサイズを推測して、わずか2時間で手すりの選定までして持ってきてくださったのです。仕事が早いうえに、サイズもぴったりでした。
ただ設置された手すりを見て、ある疑問が湧きました。わたしは踏み台のついた手すりを用意してくださると思っていたのですが、踏み台がなかったのです。
理由を聞くと、踏み台のある手すりを設置したら、お母さまが外に出てしまうからと言われました。踏み台があると、母は気軽に外へ出られるようになってしまいます。20㎝の高さのおかげで、母は外に出なかったのかと改めて気づかされました。
では何のための手すりなのかと聞くと、母が万が一転落したときに反射的に捕まって、落下のダメージを軽減するためということでした。確かに勝手口の構造上、落下したときに反射的に捕まるとすれば、この手すり以外はありません。
今回の手すりは介護保険を使って、月400円程度でレンタルできました。再び隣に家が建って母の行動が落ち着いたら、この手すりは返却するつもりです。
手すり設置まで2時間、プロの仕事ぶりに感動。福祉用具専門相談員さんには遠慮せず些細なことでも相談してみるのがいいと思った出来事でした。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。
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