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ヤングケアラーがケアの話をできるLINEコミュニティ『けあバナ』ってどんなもの?

 ヤングケアラーという言葉が徐々に広まりつつあるが、ケアラー当事者はケアの話することにためらいを感じている人も多いようだ。幼いころから母のケアをしてきた元ヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さんも自分のケアを話すことが難しかったという。そこで注目なのが、LINEコミュニティ『けあバナ』だ。どんなものなのか、運営者にインタビューした。

ヤングケアラーが気軽に話をできる場の必要性

 筆者が今のように自分のケアのことを話せるようになったのは、ここ数年のことだ。ヤングケアラー時代の筆者は、「そもそもケアのことって誰に話せばいいの?」と思っていた。

 学校の同級生にいきなりケアのことを話したら、せっかくテレビの話や恋バナで盛り上がっているところに水を差してしまいそうだし、先生たちも忙しそうで学校の業務以外のことで負担をかけたくなかった。近所の人にも「娘さん、大変なのね」と思われたくなくて話せなかった。あてもなくネットの掲示板にケアのことを書いてみたり、ブログを作ったりもしてみたが、ほとんど閲覧されることもないままやめてしまった。

 ヤングケアラー支援が注目を浴び始めた今、各自治体や民間団体による相談窓口が続々と開設されている。かつての筆者の問い「ケアのことは誰に話せばいいの?」についに答えができたのだ。

 東京都ヤングケアラー相談支援等補助事業として運営されている公式LINEアカウント『けあバナ』もそのひとつだ。

『けあバナ』を運営する一般社団法人ケアラーワークスは、元々、若年認知症の親と向き合う子ども世代のつどい「まりねっこ」を運営していたボランティア団体を法人化して設立された。

 代表の田中悠美子さんは、これまで一般社団法人日本ケアラー連盟理事としてヤングケアラーの研究や啓発、政策提言などを行ってきた。筆者との出会いも、2018年に同連盟が主催するヤングケアラースピーカーズバンク育成講座を筆者が受講したことだった。その後も、ヤングケアラーに関するイベントでは、なにかと気にかけていただいている。

 新たなサービス『けあバナ』を起ち上げた経緯や想いについて、田中さんに教えていただいた。

『けあバナ』とは?

田中さん(以下、田中):『けあバナ』は、LINEによる無料相談サービスです。利用対象者は東京都内在住・在学のヤングケアラーとその保護者の方となってはいますが、自分がヤングケアラーかどうかわからないという方や、ただ興味があるという方も登録大歓迎です。

 オンラインは匿名でアクセスがしやすいという利点があり、このような公式LINEアカウントを作りました。課題解決というより、出来事や思いの共有をしていくことから始めたいと考えています。相談ではなく、ケアの話をするという意味合いで『けあバナ』と名づけました。

 今年の1月から運営を開始して、現在、90名の方々にお友だち登録をしていただいています。そのうち、学生の方は1割弱くらいです。元ヤングケアラーの方も多く登録してくださっていて、とても嬉しいです。 保護者の方からのメッセージもいただいています。

「相談」ではなく、ただ「ケアの話」ができる場をつくりたい

田中:これまでに高齢の祖母のケアをしているお子さんや、日常的に家事が自分の役割になっているお子さんたちとやりとりをしてきました。

 親ときょうだいをケアしていた女の子は、お話をするうちに「誰かに相談したところで家族の病気や障害がなくなるわけではないし…」という思いを抱えていたという事情を教えてくれました。

 その子は、たまたま予備校の先生に話を聞いていてもらう機会があり、受け止めてもらって安心した、自分の中で変化があったと話してくれましたが、オンラインでも誰かに話をすることで気持ちが少しでも晴れることがあると思うんです。

***

 筆者自身も、ケアについて相談したいことがあるかと言われると、少し考えてしまう。別になにか解決策を紹介してほしいと思っているわけではないのだ。「こうしたい」という明確な意思がないのに誰かに相談をするのは気が引けてしまう。

 思い返せば、筆者も大学時代に他学科の教授によく話を聞いてもらっていた。なんとなく自分の学科の教授には話しにくかった。いつもアポ無しで突然研究室に行き、言いたいことを一方的に言って帰っていく私を、毎回嫌な顔せず迎えてくれた。今思えばかなり迷惑をかけていたはずだが、いつでも話を聞いてくれる存在に救われていた。

 24時間メッセージ送信可能な『けあバナ』も、相談とまではいかないけれどちょっと話を聞いてほしいという時にいつでもヤングケアラーを受け止めてくれる場になりそうだ。

オンラインコミュニティであることの利点

田中:オンラインコミュニティだけでなく、学校とか教師とか、リアルに話せる場ももちろん必要だとは思います。特にヤングケアラーにとって役立つ情報を学校で知ることができるのは、意義のあることだと思うのですが、ある男の子が学校でケアの話をしたくないと言っていたことがとても印象に残っていて。

 その子は学校で個別に呼び出されたり、保健室に行ったりして話をするのは周りの目が気になるので、学校以外のところで理解してもらえる人に話したいと言っていました。LINEであれば学校の知り合いにも見られずにすむというのは、強みだと感じますね。

***

 筆者も高校生の頃にスクールカウンセラーさんのところへ話を聞いてもらいにいこうとしたことがあったが、相談室に入っていくところを誰かに見られたくなかった。「わざわざ相談に行く」といった緊張感もあり、敷居が高いと感じていた。その点、LINEであれば友達にも知られず、使い慣れているツールなので敷居も低い。今後、学校外の安心できる居場所としても機能する存在になりそうだ。

新たな可能性を広げていく

田中:LINEでのやりとり以外にも、ヤングケアラー経験者や支援者であるスタッフとじっくりお話したい方向けにZoomを使用した個別相談“ゆっくりトーク”や、ヤングケアラー・若者ケアラーの皆さんが集まって楽しむオンラインサロンも開催しています。

 サービスを開始して約2か月、まだまだ周知が足りていないので、必要な方に『けあバナ』の存在を知っていただく工夫をしなくてはならないと感じています。

 最近は、InstagramやTikTokを見て『けあバナ』を知って登録してくれた高校生もいるんですよ。オンラインはいろいろな可能性がありますね。今後とも様々なチャレンジを続けていきたいです。

***

 感染症対策のための規制が緩和され、リアルな場での活動も増えてきた。しかし、オンラインにはオンラインの良さがあり、特にケアによって時間を作りづらかったり、周りの人に知られたくなかったりといった事情をもつヤングケアラーとは相性が良いと感じる。

 身近なLINEを使うことで、ヤングケアラーがケアの話“けあバナ“をすることがより気軽にできるようになることが期待される。

『けあバナ』利用方法

『けあバナ』公式LINEに登録すると、元ヤングケアラーや支援者のスタッフとチャット形式で会話ができる。

チャットの利用時間:平日17:00~22:00(メッセージの送信は24時間受付)

LINE登録→ https://lin.ee/C5zlydz

ケアばなのチラシ

教えてくれた人

田中悠美子さん/一般社団法人ケアラーワークス代表理事として『けあバナ』の立ち上げから運営までを手がける。日本ケアラー連盟理事なども務め、ヤングケアラーに関する講演や活動を幅広く行っている。

一般社団法人ケアラーワークス https://youngcarer-salon.com/?page_id=994

一般社団法人日本ケアラー連盟 https://carersjapan.com/

文/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名でブログやSNSで情報を発信中。本名は、高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。第57回「NHK障害福祉賞」でヤングケアラーについて綴った作文が優秀賞を受賞。
https://twitter.com/withkouzimam  https://ameblo.jp/tarobee1515/

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