PTとOTのいる老人ホームを選べ!「理想の高齢者施設」選び方完全チャート
入居金の安さやアクセスの良さ、あるいは食事や設備の充実を吟味したうえで〝理想の老人ホーム〟を選んだつもりだったのに、いざ入居してみたら自分の健康状態に適さない施設だったら、まさに悲劇。病気にかかりやすく体力や筋力も落ちていく年代だけに、入居先選びには自分の健康状態に合致しているかどうかという考え方が重要になってくる。
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都内の会社員・佐々木邦俊氏(42・仮名)は、実父(80)のホーム選びで失敗したとうなだれる。
「父は脳梗塞の後遺症があり、歩行が困難でした。それでも本人は『まだ自分は頑張れば歩ける』という思いが強かったんです。ところが、入居したホームは医療には強いもののリハビリに関しては、専門職員がいなかった。仕方なく、父は自己流でリハビリをしていたのですが、その過程で膝関節を痛め、かえって症状を悪化させてしまいました」
万全のサポートを求めて老人ホームに入居したものの、思うような生活ができなかった…そんなケースは少なくない。
介護アドバイザーの横井孝治氏が言う。
「多くは、入居者と介護施設のミスマッチによるものです。“充実した医療態勢”を謳う施設でも、得意・不得意がある。どのような病気や症状に対してのサポートが充実しているかを事前に調べてから決めなければ、最も必要としているケアが受けられず、最悪、別のホームを探さなければならない事態も起こり得ます」
「PT」から「OT」へ
佐々木さんの父親のようにリハビリを必要とする場合、「理学療法士(PT)や作業療法士(OT)のいる施設を選ぶべきだった」(前出・横井氏)という。
あまり耳慣れないPTやOTという言葉だが、持病がある人が高齢者施設を選ぶ際に、注目すべきキーワードだという。
PTは理学療法士、OTは作業療法士のことで、どちらも国家資格が必要なリハビリテーションの専門職だ。
介護施設紹介を行う、ネクストイノベーション社企画部長の佐藤恒伯氏が解説する。
「PTは、筋力アップや関節の可動域を広げる訓練をして、歩く、座る、立つなど生活の中で基本となる身体機能を回復するリハビリをします。一方のOTは、食事やトイレ、着替えといった日常生活に即した応用動作を回復するリハビリを行ないます。たとえば、脳梗塞の後遺症で利き手の右手で箸が持てなくなったという人に、『左手でスプーンで食べられるようにする』といった目的でトレーニングを指導するのがOTの役割です」
PTとOTのどちらがいる老人ホームを選ぶかは、入居者の健康状態によって判断が変わってくる。
「筋力が低下して立ち上がれないような人にOTが指導するのはミスマッチです。まずは機能回復のためにPTがサポートし、その後に、現実の生活動作を回復するためにOTが関わるという順番が望ましい」(前出・佐藤氏)
PTとOTの両方が常駐するホームも少なくない。そうした施設では両者の連携によって、より理想的なリハビリプログラムが期待できる。
誤嚥性肺炎なら「ST」の元でリハビリ
OT、PTでは対応できないリハビリもある。
「たとえばものを飲み込むことができなくなったり、誤嚥性肺炎で『これ以上、在宅介護は無理』と判断されるケースです。そうしたときに頼れるのが言語聴覚士(ST)です。これも国家資格のリハビリ専門職。舌の動きやのどの状態を見ながら、ゼリーなどを用いて少しずつ食べる訓練をしていきます」(前出・佐藤氏)
他にも、耳が遠くなった場合や、脳卒中などで言葉がうまく発せられなくなった状態から回復を目指す場合も、STの元でのリハビリが鍵を握る。
糖尿病、人工透析を受けている人は看護師常駐を
糖尿病でインスリン注射が必要な人や、重度の褥瘡(床ずれ)のある人は、医療サポートが充実した老人ホームを検討する必要が出てくる。
「自分でインスリン注射を打てない場合、代わりに注射できるのは医師か看護師だけです。そのため看護師が24時間常駐しているホームがいい。褥瘡がある入居者への薬の塗布も医療行為となるので、こちらも看護師常駐のホームが理想です。
腎不全などで人工透析を受けている人は、透析クリニックと連携していたり、入院可能な病院を併設している施設を選びたい」(前出・佐藤氏)
新潟大学の研究によると、透析患者の急性感染症死亡率は一般の7倍に達する。透析患者が急な発熱をした場合、一刻を争う事態になることも考えられるため、入院が可能な病院併設型が安心だ。
認知症患者の場合はどうか。
「24時間態勢で看護師が常駐する認知症対応型ホームが望ましく、かつ症状別にフロアや棟を分けている施設がいい。軽度の人が重度の人と一緒のフロアにいると、認知症を悪化させる要因になりかねないからです」(前出・佐藤氏)
手厚くても料金はさほど変わらない
手厚い医療・リハビリのサポートのある老人ホームは、その分、料金も高くなると思いきや、必ずしもそうとは限らない。
「入居者にとってどんなサポートが必要なのかを見極め、その条件を備える施設を絞って探せば、料金はさほど変わりません」(前出・佐藤氏)
ホーム選びの鉄則は、入居前に施設側に健康状態を正確に伝えることだ。
「求められているリハビリに必要な体制が整っていないとホーム側が判断した場合、PTやOTが充実した別の施設を紹介してもらえることもある」(前出・佐藤氏)
正しい知識と明確な目的意識が、ホーム選びの際には重要だ。
【完全保存版図解チャート】老人ホームの選び方
※週刊ポスト2018年11月2日号
●全国の老人ホーム今年の神7を紹介。ナンバー1は?高齢者住宅のプロが厳選