疲労、肩こり、筋肉痛、目の充血ほかケース別「体の冷やし方・温め方」を医師が解説
今年の秋は晴天に恵まれたと思ったら急に真冬のように寒くなり、天候が不安定だ。ただでさえ体調を崩しやすい季節の変わり目に、どう体温調節をするのがいいのか? 体を温めるのか冷やすのか、専門医に解説してもらった。
体は温めるべきか冷やすべきか?
日中はまだ暖かく過ごしやすい日が多いが、朝晩は連日冷え込む。体温調節に悩む秋は、体を「温める」か「冷やす」か、毎年頭を悩ませている人が多いだろう。
日本人の休養事情に詳しい、医学博士で日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹さんは、寒さや暑さなどの外的な刺激は、自律神経に影響を与えると話す。
「自律神経は、体をゆるめてリラックスさせる『副交感神経』と、体を緊張させて活動的にする『交感神経』からなります。暑さを感じると副交感神経が優位に働いて血管が拡張して熱が放散されます。一方、寒さを感じると交感神経が働いて血管が収縮し、体温を逃がさないようになる。このようにして、自律神経は血管や体温、呼吸、臓器の働きなどを24時間管理しています」
入浴後など、体が心地よく温まっているとリラックスできるのは、この自律神経の働きによるものでもある。副交感神経が働くと、血管のほか筋肉などもゆるみ、緊張がほぐれてリラックスできるのだ。
また、血管が拡張して血流が促進されることで、老廃物や疲労物質、痛み物質なども流れ、疲労感や慢性的な痛みの緩和につながる。だがもちろん、冷やした方がいい場合もある。典型的なケースが熱中症だ。
「人間の体には、常に体温を37℃前後に保とうとする『恒常性』があります。ところが、熱中症になると、体温が37℃以上になっても正常な体温調節ができなくなる。そのため、体温が上がり続けてしまうのです」(片野さん・以下同)
広く知られているように、熱中症になったら、首、わきの下、そけい部の3か所を冷やすことで、冷えた血液が全身をめぐり、効率的に体温を下げることができる。また、ねんざや筋肉痛など、発熱と炎症がある場合は、その部分を冷やすべきだ。
「患部で炎症が起きており、数日間は、患部の血液の流れや細胞の働きを抑制して、炎症が広がらないようにする必要があります」
冷やすことで、痛み物質が血液に乗って流れるのを抑えることができ、痛みの軽減にもつながる。
「温熱」「寒冷」で得られる効果
《寒冷(冷やす)》
●交感神経を活発に働かせることで血管や筋肉を引き締める。
●血管を収縮させることで出血や炎症性物質を抑え、急性の痛みや炎症が広がらないようにする。
【熱中症や発熱のときに。炎症や熱感、充血のある痛み(ねんざや筋肉痛)などに。 】
《温熱(温める)》
●副交感神経を活発に働かせることでリラックス。血管や筋肉をゆるませる。
●血管を拡張させることで血流がよくなり、老廃物や痛み物質を流し、細胞の修復を促進する。
【肩こり、充血のない眼精疲労、慢性的な痛みなどに。】
日本人の8割は体が冷えている
片野さんによれば、炎症には「急性炎症」「慢性炎症」の2種類がある。
「短期間で治るねんざや筋肉痛など、発熱や痛みを伴うものは急性炎症といい、炎症を抑えて休息を取れば回復します。長期間続く炎症は慢性炎症といい、症状が軽いため見落としてしまいがちですが、放っておくと疾患につながったり悪化させてしまう原因にもなるので、注意が必要です」
基本的に、熱中症のような緊急時と急性炎症の発熱があるとき以外は、冷えた体は温めておくのがいい。
「日本リカバリー協会の調査では、8割の人が疲労感を抱えていました。疲労感があるということは、交感神経が優位で過緊張の状態が続いているということ。つまり、体や手足が冷えていて、寒いときのように血管が収縮しているのです。そのため、温めて緊張をゆるめることで疲労感が軽減されるほか、血行が促進されてリラックスできるようになります」
疲れが取れない人は、体が冷えているのかもしれない。特定の部位に痛みや炎症などがない場合は、まずは体温が37℃前後になるよう、温めてみるべきだ。肩こりなども、慢性的な緊張が一因。そのため、温めることが先決だ。
「筋肉のこりは、血流不足によって起こることが多い。そのため、温めて副交感神経を優位に働かせることで血行がよくなり、酸素や栄養が充分に行きわたって細胞の修復が促進され、こりの改善につながります」
一方、発熱と痛みがあるときは温めない方がいいかもしれない。季節の変わり目や天気が不安定な日などに片頭痛が起きたら、温めると痛みがひどくなる可能性もある。
「まだ解明されていない部分もありますが、気圧が下がることで血管が広がり、それによって神経の一部が刺激されて頭痛が起きると考えられています。そのため、冷やして血管を収縮させれば、痛みが治まることが多いのです」
目の疲れも、充血がある場合は冷やすことで血管を収縮させ、炎症を抑える必要がある。充血のない眼精疲労は、肩こりと同様に筋肉のこりが起きているので、温めることでほぐれて、ラクになる。温めるか冷やすかの判断は、「痛みや発熱があるかどうか」が、1つの目安になる。
鍼灸師・整体師でTH東洋総合治療センター代表の外山仁さんも、痛みがある場合はまず冷やしてみるべきだと話す。
「頭痛や腰痛など、痛いときはまず、冷やしてみてください。冷やしても痛みが引かない、痛みがひどくなる、心地よくないといった場合は、温めればいい。炎症がある部分を間違えて温めると炎症が広がり、症状が悪化する。そのため、痛みや熱感があるときは、まずは冷やして様子を見るようにしてほしい」
■これが正解!パターン別「体の温め方・冷やし方」
<部位/ケース/対処法>
■頭
・低気圧などによる:痛む部分を冷やす。おでこに貼る冷却シートは気分不快を緩和するが、氷枕などの方が効果が得やすい。
・寝つきが悪い:室温は低めに保ち、体は毛布で保温して鼻呼吸を心掛けることで脳が冷やされ、快眠できるように。
■目
・眼精疲労(充血なし):ホットアイマスクや熱すぎない蒸しタオルなどで温める。
・充血している:冷たいおしぼりなどで冷やす。
■肩
・肩こりが治らない:シャワーや入浴で温める。
・体を動かしたら痛めた(ねんざなど):冷湿布や保冷剤などで2~3日間は冷やす。痛みや炎症が治まってきたら温める。
■筋肉(全身)
・激しい運動をした:水風呂や冷たいシャワーで短時間冷やす。ただし、心疾患や血管系疾患のある人はおすすめしない。
・疲れが取れない:40℃ほどの湯船につかる⇔25℃ほどのシャワーを浴びるのを2~3回繰り返す「温冷交代浴」をする。
■手先・足先
・眠れないほど冷え症がひどい:足湯を習慣にする。できれば湯船にお湯を張ってひざ下までつかるようにする。足の甲は冷やさない。
・冷え症はないが、なんとなく寝つけない:手首や足首、えり元がゆったりした寝間着を選び、就寝時は靴下をはかない。布団に入る90分前までに入浴を済ませておく。
教えてくれた人
片野秀樹さん/医学博士、日本リカバリー協会代表理事、外山仁さん/鍼灸師・整体師、TH東洋総合治療センター代表
※女性セブン2022年10月27日号
https://josei7.com/
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