毒蝮三太夫「知り合いの訃報は夫婦で死を話す機会」と終活を悩む男性にアドバイス|マムちゃんの毒入り相談室第33回
「早めの終活が大事」「終活をしていないと悲劇を招く」などなど、あちこちから終活を勧める声が聞こえてくる。「子どもたちのためにも、ちゃんとしておかなければ」と考えて、とり急ぎエンディングノートを買ってきた78歳の男性。しかし、妻は今ひとつ乗り気じゃないとか。終活に対するマムシさんの考えを語ってもらった。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「終活を始めたいが妻は乗り気じゃない」
大沢悠里ちゃんとやってる「GG放談」で、このあいだ子どものころの遊びについて話した。どんなに時代や遊び方が変わっても、子どもは遊びが大好きだし遊びの思い出は宝物だ。楽しく遊んで、いい思い出をたくさん作ってほしいね。
これを言ったら身もふたもないけど、生命力の塊みたいな子どもたちも、やがては年寄りになる。今回は78歳の男性からの「終活」にまつわる悩みだ。
「そろそろ『終活』が必要な歳になりました。先日、エンディングノートを買ってきました。妻に『いっしょに書こう』と言いましたが、『私はいいわ』とあまり乗り気ではありません。子どもたちのためにも、ちゃんとしておきたいと思ってるんですが、妻をどう説得すればいいでしょうか。マムシさんは、終活についてどう考えてらっしゃいますか」
回答:「こういうことは、格式張らずに日常の何気ない会話でするのがいいよ」
エンディングノートか。流行ってるみたいだけど、俺はそういうのは書いてないな。おとっつぁんは、たぶん真面目な人なんだろうね。物事に真面目に取り組むのはいいことだけど、格式張って「いっしょに書こう」と切り出されても、奥さんだって尻込みしちゃうよ。
こういうことを夫婦で話すとしたら、日常の何気ない会話の中で、明るくしゃべったほうがいい。ふたりとも元気なうちに話しておくことも大事だな。ウチもメシ食ってるときに、知り合いの話が出た流れとかで、そういう話をすることもあるよ。延命治療はやらなくてもいいよなとか、子どもがいないから墓は永代供養にしたほうがいいかなとか。いっそ野ざらしにするかなんて、ふざけながらでもいいんだよ。
あらたまって「さあ、これから終活の話をしよう」と言われると、もともと重い話題なのに、ますます重い雰囲気になっちゃう。話しておいたほうがいいというのは、奥さんだってわかってるはずだ。でも、深刻な調子で話し始めると、「縁起でもないわね」とか「私が死ぬのを待ってるの」って気持ちになるかもしれない。
知り合いの訃報があったときが、自分たちの死について語り合うチャンスだ。あの人はああだったけど、自分たちはどうしたらいいかな。こういうやり方もあるらしいよなんて、いろんな例を知っておくといいよね。葬式なんかも、今はコロナ禍でずいぶん簡単になった。「簡単なほうがいいんじゃない」と一度でも話しておけば、あとから「ほんとは盛大にやってほしかったのかな」なんて思い悩まなくても済む。
ウチのカミさんは、もし自分が先に死んでも世間には発表しないでくれって言ってる。面倒臭いし、何かとややこしいからって。発表されちゃったら、俺と仕事の付き合いがある人が、カミさんのことを直接には知らなくても、何かしたほうがいいのかなって悩むことになる。それは俺としても申し訳ない。
自分が先だとしても、なるべく静かに死ぬのが理想だな。しばらく時間がたってからそっと発表して、新聞とかで記事を見た人が「マムシのヤツ、とうとうくたばりやがったか」と思ってくれたらそれでいい。いろいろ気をつかってもらうのはありがたいけど、カミさんにたいへんな思いをさせることになるからね。
おとっつぁんもエンディングノートを書きたいなら、とりあえず自分で書けるところを埋めればいいんじゃないか。貯金や保険や不動産のこととかは、わかりやすく整理しておけば残された人はありがたい。遺言書なんかも、早めに書いておいたほうがいいっていうよね。あれは何度でも書き直しできるそうだ。俺もそろそろ書いたほうがいいかな。
ただ、遺言書を書くにしたって、奥さんと意見を合わせておかなきゃいけない。あんまり焦らずに、新聞を読んでて「こんな記事があるよ」なんて話をきっかけにするとかがいいんじゃないか。とにかく「終活をしなきゃ」と思い悩まないことが大事だ。今は元気なんだから、まず心がけたいのは毎日を充実させることだよ。せっかく元気なのに、死のことばっかり考えているのはもったいない。死んだあとのことなんて、結局は自分ではわからないんだから。
死についてあれこれ考えるよりも、毎日をいかに明るく楽しく生きることを考えたほうが、上手に死ねる気がするね。明るい人は明るく死ねる。太陽が出てる時間か、夜でも電気がついているところで死ねたら万々歳だ。一生懸命に終活したって、死に方や死んだあとのことを完璧にコントロールできるわけじゃない。開き直って、気楽にやろうじゃないか。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。