今回のお悩み「親が留守中に勝手に部屋に入ってくる」vs.「息子が家に来るなと言う」|マムちゃんの毒入り相談室【第27回】
親と子の思いは、とかくすれ違いがちだ。親にとって我が子はいくつになっても「自分の助けが必要な存在」であり、子どもにとっても親はいくつになっても「何も言わなくてもわかってくれる存在」である。家にいきなりやって来ることに対する親子の気持ちのすれ違いに、マムシさんがそれぞれの立場に立ってアドバイスを授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「親が留守中に勝手に部屋に入ってくる」など
今年のゴールデンウィークは、どこの観光地も人出が多かったみたいだ。もちろん、コロナは怖い存在ではあるけど、気をつけながら上手に付き合っていかないとな。まだまだ手探りが続きそうだけど、みんなで力を合わせて、当たり前の「日常」を取り戻したり、離れ気味だった人と人との距離を縮めたりしていこうじゃないか。
今回は、親子の距離感についての悩みだ。たまたま、子どもの側からと親の側からの相談が届いている。この二人は親子でも何でもないんだけど、いっしょに紹介しよう。
まずは33歳の休職中の女性からの相談。
「親が私の留守中にも勝手に家に入ってきます。『そんなことするなら合鍵を返して』と言っても返してくれません。電話もしょっちゅうで、こっちが出ないと何回もしつこくかけ続けてきます。今は事情があって仕事を休んでいますが、私の体や心の状態はお構いなしで、自分の思ったこと感じたことをストレートにぶつけてきます。思いやりや優しさは、まったく感じられません。どう言えばわかってもらえるんでしょうか」
次は55歳の主婦の女性から。
「ひとり暮らしの息子(24歳)が部屋に入れてくれない。車で30分ほどの場所に住んでいるが、ご飯でも作ってあげようと訪ねて行ったら『連絡もなしで、いきなり来るな!』と怒られ、追い返された。親子のあいだで事前の連絡なんておかしい。心配してあげている私の気持ちがなぜわからないのか。親を拒絶するなんて、私の育て方が悪かったのだろうか」
回答:「親子の中にも礼儀あり。お互いの人格を尊重し合おうじゃないか」
見事に合わせ鏡だな。子どもは「なんで来るんだ」と怒ってて、親は「なんで行ったらいけないんだ」と怒ってる。しかしまあ、岡目八目とはよく言ったもんだ。第三者から見ると、どちらの親も「子離れができていない」と感じる。親自身は気づかないんだよな。「親が子どもの心配をして何が悪い」と開き直っちゃう。
ひと言で言うと、子どもの人権を認めてないわけだ。33歳の女性も24歳の息子も、もう一人前の大人だよ。親から見れば頼りない部分もあるだろうけど、親がいつまでも口や手を出し続けるわけにはいかないし、それは子どものためにならない。親だって頭ではわかっていても、「親だから」とか「心配だから」って口実で自分を許しちゃう。
33歳の女性がひとりで暮らしてる部屋に、たとえ母親でも留守のあいだに出入りされたら、そりゃ嫌だよ。24歳の息子だって、いろいろ都合も予定もあるだろう。「事前の連絡なんておかしい」って書いてるけど、いっしょに暮らしてるわけじゃないんだから、いきなり行くほうがよっぽどおかしい。
子どもは成人して独立して、自分の足で歩いて行こうとがんばってるわけだ。大人になった子どもは「親子といえども他人」だってことを自分に言い聞かせて、しっかり子離れしないとな。それが親の務めだ。極端な話、成人した子どもや親のどっちかが刑事事件を起こしたとしても、お互いに「自分は関知しません」でいいんだよ。
親にも若い頃があって、同じように親に反発を覚えたことがあったはずだ。でも、忘れちゃうんだよな。子どもは成人して独立して、自分の足で歩いて行こうとがんばってるわけだ。親のほうも、子どもへの考え方や接し方をがんばって変えていかないとね。
だけど、子どものほうも、相手が親だからと甘えている部分があるんじゃないかな。親が困った行動をしたからと怒りをむき出しにして反発するのは、まさに「子ども」の反応だよ。「親なのに自分の気持ちをわかってくれない」「親なら言わなくてもわかってほしい」と期待するのは、「親離れ」ができていない証拠だ。それこそ「親子といえども他人」なんだから、自分の考えを言葉にして伝える必要がある。
ひとつ目の相談者は、穏やかに「お母さんだって若い頃、自分の部屋に親が勝手に入ってきたら、嫌だと思ったんじゃないの」と諭してあげてもいい。ただ、今はつらい状態にあるみたいだから、話が通じない相手を説得するのは大きなストレスになりそうだ。わかってもらうことより、遠ざけることを考えたほうがいいかもしれないな。
ふたつ目の相談の息子の側も、相手が親じゃなかったら、いきなり怒ったりはしないだろう。連絡なしで来られたらなぜ困るか、どうしてくれたらいいのか、ちゃんと説明しないと親の側は理解できない。なんせ親は親で「私の気持ちがなぜわからないのか」なんて言ってるわけだしな。
いろいろ行き違いはあるけど、親子はお互いに大切でありがたい存在であるのは間違いない。きちんと「子離れ」「親離れ」をして、相手の人格や人権を尊重した大人と大人の付き合いをしていきたいもんだ。お互い、親子だってことに甘えちゃいけない。親子の仲にも礼儀ありだよ。そう言えば昔から、親子ゲンカは猫も食わないってことわざもあるしな。ん? それはないか。ハハハ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月9日からポッドキャストで大沢悠里さんとの80代コンビによる新番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」がスタート。ストリーミングサービス「スポティファイ」で視聴できる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
いしはら・そういちろう 1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。