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国のトップが代わる今、韓国のドラマ・映画を見て政治を考える おすすめ3選

 混迷する自民党総裁選をニュースやワイドショーで見ながら「国のトップ像」を考えてしまいます。配信で観られる韓国ドラマの政治家、政治を楽しみながら、日本と似ているところや、まったく違うところを見つけることも、政治の季節にふさわしい過ごし方かもしれません、韓国留学も経験したライター・むらたえりかが、そんな視点で韓国ドラマ、映画を三作品、おすすめします。

政治との繋がりを考えるきっかけとなる韓国作品を

 9月17日、自民党総裁選告示、29日投票及び開票。自民党政権下である現在、総裁に選ばれることは日本の新しい総理大臣への就任も意味します。日本では、わたしたち一人ひとりが投票して総理大臣を選べる制度はありません。制度によって何が違ってくるのか、共感できることはあるのか? あります! 今回は、政治との繋がりを考えるきっかけとなる韓国ドラマ・映画を紹介します。

『サバイバー: 60日間の大統領』:真面目な「いい人」に国のトップは務まるか

 政治についてよく知らないのに、ある日突然大統領になってしまったら。Netflixで配信中の『サバイバー: 60日間の大統領』は、国会議事堂の爆破テロで大統領や大勢の官僚たちが亡くなってしまった中で、大統領権限代行の地位についてしまった環境庁副長官パク・ムジン(チ・ジニ)が主人公だ。

 ムジンはもともと学者で、政治にも権力にもまったく言っていいほど興味がない。弁護士の妻と、ふたりのこどもを愛する優しいお父さんだ。そんな彼が、何もわからないまま急に大統領を代行するポジションに就く。当然、野党のユン党首(ペ・ジョンオク)にけん制され、秘書や軍隊には舐められてしまう。代行になったせいで家族の仕事や環境に影響が出てしまう事態にも、ムジンは心を痛める。

 爆破テロで亡くなった元大統領ヤン・ジンマン(キム・ガプス)は、支持率こそ低迷していたものの人柄の良い人だった。ムジンもヤン元大統領に優しく接してもらったり、仕事について気遣いをしてもらったりしていた。支持率の低さは、人の好さが災いして周りに利用されてしまった結果だった。

 そして、ムジンもヤン同様に「いい人」だ。休みの日には出身大学のパーカーを長年大切に着ているのが見てとれる。家族にかける言葉もいつも穏やかで優しい。脱北者差別には強い態度で反対の姿勢を見せる。一度挨拶をしただけの軍人がたったひとり命を落としたときには、軍の作戦の成功よりもその死を悔やんだ。

「いい人は利用されます」と、秘書室長のチャ・ヨンジン(ソン・ソック)は当初呆れていた。しかし、国の一大事に必死に代行として、ひとりの市民として責務を果たそうとするムジンを見て、チャ室長の言葉も変わる。「いい人が大統領になるのを見てみたい」と。

 外交が上手いとかカリスマ性があるとか、政治家にはさまざまな特徴がある。しかし、たったひとりの国民、市民が差別に遭ったり命を落としたりしたときに、その痛みを心から分かち合おうとしてくれる人が国のトップであってほしい。そんな素朴な願いを、このドラマは肯定してくれる。

 会議や記者会見などスーツ姿の登場人物ばかりで一見単調な画面にも感じられるが、政治ドラマの一方で爆破テロの犯人を探すサスペンスストーリーも展開していく。また、ムジンが信頼を得るにつれて、周囲の秘書や広報官らの関係も人間味のあるものに変化していく。この緩急が、本作をついイッキ観させるパワーとなっている。

『サバイバー: 60日間の大統領』
監督:ユ・チョンソン 出演:チ・ジニ、イ・ジュニョク、ホ・ジュノ、カン・ハンナ、ペ・ジョンオク、キム・ギュリ、ソン・ソック、チェ・ユニョン、イ・ムセン

『補佐官』:議員を見る目が変わる。政治の裏側を描いた“デキる男”の物語

 政治の現場を、大統領や国会議員ではなくその「補佐官」の立場から描いたのが、ドラマ『補佐官』だ。本作の中で、国会には300人の議員がいるのに対し、その議員たちを支える補佐官は約2,700人存在している。議員たちが読むスピーチ原稿や答弁の回答などを作るのも、議員のスキャンダルが公にならないように手を回すのも補佐官たちの役目だ。議員は、補佐官なしでは仕事ができない。

 主人公のチャ・テジュン補佐官(イ・ジョンジェ)は、ソン・ヒソプ議員(キム・ガプス )のチーフ補佐官を務めている。補佐官でありながら雑誌のインタビューを受けるなど、世間も注目する優秀な補佐官だ。ソン議員はキレやすく、運転手に物を投げつけたりトイレで煙草を吸ったりと、とても人として尊敬できる政治家ではない。そんな議員の身の回りから仕事までの世話をこなしながら、テジュンはある野心を燃やしていた。

『サバイバー: 60日間の大統領』が主人公の成長を見守る物語だとすれば、『補佐官』は仕事ができすぎる主人公がトラブルをバッサバッサと斬り捨てていく痛快な作品だ。ソン議員がどんな窮地に陥っても、テジュンがいれば大丈夫。そんな安心感を軸に、権力争いや人間関係といった周囲のうごめきを楽しめる。

 見ていてホッとするのは、ソン議員秘書のユン・ヘウォン(イ・エリヤ)と学生インターン秘書のハン・ドギョン(キム・ドンジュン)がいるからだろう。記者出身のへウォンは、テジュン同様に仕事ができる。しかし、弱い立場の労働者の権利のために自ら動く、信念のある女性だ。また、テジュンに憧れて応募してきたインターンのドギョンは、まだ政治の世界の泥臭さを知らない。だからこそ、人情や正義、憧れに突き動かされて懸命に働けている。野心にまみれたソン議員やテジュンは、へウォンやドギョンに支えられている。

 普段、わたしたちがテレビや新聞で見るような政治家、国会議員たちの発言の裏には、彼ら補佐官や秘書たちのような大勢の人間の昼夜を問わない献身がある。その奥行きを想像すると、議員たちを見る目線も少し変わるように思う。

 また、本作で横柄で貪欲なソン議員を演じているキム・ガプスは、『サバイバー: 60日間の大統領』では「いい人」として利用され亡くなったヤン大統領を演じた。いつも口がひん曲がって目をギラギラとさせているソン議員役と、誰にでも優しいまなざしを送るヤン大統領役が同じ俳優だとは。そんな俳優キム・ガプスの演じ分けも、ぜひ見比べてほしいポイントだ。

『補佐官』
出演:イ・ジョンジェ、シン・ミナ、イ・エリヤ、キム・ドンジュン、チョン・ジニョン、キム・ガプス、チョン・ウンイン、イム・ウォニ、キム・ホンパ

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』:実話に基づいた、悲しみと希望の物語

 国のトップ、政治家の補佐官に続いて最後に紹介したいのは、わたしたち市民の物語だ。日本では2018年に公開された映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』。映画『パラサイト 半地下の家族』でも主人公を演じたソン・ガンホが主演を務めている。

 何人かの韓国人から「韓国人は市民一人ひとりの力を信じている」と聞いたことがある。一般市民による民主化運動やデモなど、自分の国の問題を自分の問題として捉えて変えていこうとする活動が実を結び、国を作り上げてきたという自負があるのだ。

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』も、そんな韓国の市民たちによる物語である。1980年に起きた「光州事件」の実話をもとにした映画だ。言論統制や軍による弾圧の厳しさに「おかしい」と気づいた市民たちが、民主化運動を始める。それを、政府が暴力的に弾圧し大勢の死傷者を出していた。しかし、言論統制のために、光州市以外の地域はもちろん海外でもその事件は報道されていなかったのだ。

 主人公のタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、金払いの良い客がいると知って外国人記者のユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)を乗せる。ペーターは、光州市で政府による暴力や弾圧がおこなわれていると知り、その事実を世界に広めるべく韓国にやってきた。報道が規制されているため、韓国に住んでいるにも関わらずマンソプはその事実を知らない。光州市に到着すると、そこはソウルと同じ韓国とは思えないほど荒れ果てていた。

 マンソプが光州市で出会う人びとは、同じタクシー運転手のファン・テスル(ユ・ヘジン)や、歌が好きで英語が得意な大学生ク・ジェシク(リュ・ジュンヨル)たち。言ってみれば、どこにでもいる一般的な市民たちだ。マンソプがデモに悪態を吐きながら平和に暮らしていた頃、テスルやジェシクは暴力を受ける危険に晒されながら民主化運動に参加していた。ソウルに帰れさえすれば、また暴力とは無縁の生活に戻れるマンソプ。けれど、一度知ってしまったからには後戻りはできない。

 わたしたち日本人も、現政権下、コロナ禍で、さまざまな問題が浮き彫りになっていくのを見ているはずだ。コロナ禍より前とあまり変わらない暮らしができている人もいる一方で、助かったかもしれない自宅療養者が亡くなったり、こどもたちや個人事業主、失職者が貧困の中で生きていたりする。そうやって困っている人が増えていくなかで、そのしわ寄せがこどもや女性、障害者、ホームレス、老人など、社会的により弱い者へ弱い者へと向かっている。日々ニュースを見ていれば、それにまったく気づかないではいられないはずだ。

 繰り返しになるが、日本では、国民投票では総理大臣を選べない。自民党総裁選は、見守るだけになるだろう。ただ、社会に問題があると気づいたときに、それを変える手段は「総理大臣が代わること」だけではない。わたしたちも、ひとりの市民、ひとりの大人だ。自分にできる行動は何なのか、自分の住む国がどんな人を守る国であってほしいのか。お隣の国、韓国のドラマや映画を見て少しだけ考えてみる。それだけでも、変化への一歩、政治への参加の一歩になるかもしれない。

 本作の中で、当時の日本はある意味で、彼らの「希望の場所」として登場している。いつの時代でも、希望のまなざしを向けてもらえるような胸を張れる国の一員でありたいものだ。

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』Amazonプライム、Netflix他にて配信中

監督:チャン・フン 出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジョンヨル、パク・ヒョックォン、チェ・グィファ 脚本:オム・ユナ

文/むらたえりか

むらたえりか

ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。

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