認知症の人のうたた寝は要注意!少し変わった昼夜逆転顛末
認知症の母を東京ー盛岡の遠距離で介護している工藤広伸さん。介護を通じて得た知識や経験を元に遠距離での在宅介護の心得をブログや書籍などで公開し、その実体験が役立つと評判だ。
当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、さまざまなエピソードとともに、介護中の困りごとを乗り切った対処法やアイデアを紹介してもらっている。
今回のテーマは「昼夜逆転」。認知症の症状として起きやすいといわれる「昼夜逆転」だが、工藤家の場合、少し変わったパターンだという。
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認知症の症状のひとつに、昼夜逆転があります。
昼夜の区別がつかなくなって、夜中に大声を出してしまったり、自宅や介護施設の中を歩き回るなど活動的になってしまったりして、介護する側も睡眠時間が奪われ、ストレスをためてしまうこともあります。
わたしの母も昼と夜が逆転してしまうことがあるのですが、夜中に大声も出しませんし、活動的になるわけでもありません。
ちょっと変わったわが家の昼夜逆転エピソードをご紹介します。
日中に起こる母の昼夜逆転
母は、家の1階にある居間でテレビを見ながら、1日の大半を過ごします。わたしも帰省したときは、母と一緒に居間で過ごすことが多いのですが、仕事は2階にある自分の部屋で行います。
この時注意しなければならないのが、母の昼寝です。昼寝の時間があまりに長いと、夜の睡眠が浅くなってしまい、母は午前3時には起きてしまいます。そのため、わたしが母の昼寝を見つけたときは、可能な限り起こすようにしています。
母の家の居間には見守りカメラがついているので、わたしはどこに居ても、スマートフォンで母の様子を動画でチェックできるのです。
ある日のこと、わたしは仕事に没頭してしまい、居間にいる母の様子を1時間以上チェックするのを忘れてしまいました。
慌ててスマートフォンを見ると、母はぐっすり寝ています。
急いで、1階へ走って起こしに行きました。
わたし:「ほら、起きてください!」
母:「あら、寝ちゃったわ。あれ、今って昼?夜?」
わたし:「テレビ見て、テレビ。『ミヤネ屋』が放送されているということは、午後3時だよね?分かる?」
母:「分かった、お昼なのね。あれ? でも、朝ごはんの準備をしないとだめよね」
わたし:「いやいや、あと30分で理学療法士さんが家に来て、訪問リハビリ始まるから」
母は「午後」3時を「午前」3時と勘違いしていました。昼なのに、夜だと思ったようです。なので、わたしは「午後」3時である証拠を、母にいろいろと提示していきました。
まず、デジタル電波時計に表示されている「午後」の文字を母に見せ、次に新聞のテレビ欄に書いてある『ミヤネ屋』の文字を見てもらいました。それでも母の認識は、夜のままでした。
結局、理学療法士さんが自宅に来てくれたことで、母は「夜中のリハビリはない」と思ったようで、「午後」3時とようやく、理解してもらえました。
また、リハビリで40分間体を動かしたことで、母の体内時計もリセットされたのか、そのあとはいつも通りの生活をしてくれました。
母は夕食後のうたた寝の時にも、ちょっとした異変があります。
午後7時30分から1時間くらいテレビを見ながら寝てしまうことがあるのですが、うたた寝から目覚めると、
母:「あら、あんたずっといたの。ビックリした!」
と息子を見て、必ず驚きます。
母はうたた寝することで、わたしと1時間前に夕食をとったことすら忘れてしまいます。
もうひとつ、わたしが帰省していること自体も忘れてしまうので、「東京に居るはずの息子が、なんで盛岡にいるの?」と思い、うたた寝や昼寝から目覚めるたびにビックリしています。
ちなみに夜のうたた寝の時には、「朝7時なの、夜7時なの、どっち?」とは言いません。
このように、母の場合は、昼寝やうたた寝という、ちょっとした睡眠がきっかけで、直前の記憶を忘れてしまい、時間の感覚がズレてしまうようです。
わが家の昼夜逆転の対処法
認知症の人が、昼夜逆転にならないようにするためには、午前中に日光をしっかり浴びて、日中の活動量を増やすことがいいと言われています。
人間の体内時計は、朝の太陽の動きに合わせて目覚め、日中に活動し、夜に眠るという生活リズムになっていて、そのことによって健康を維持できるそうです。
わが家では、母のデイサービスの回数を週1回から2回に増やしたことで、日中の活動量が増え、昼寝の時間が減りました。
デイサービスに行った日の母は疲れているのか、ぐっすり朝まで寝ていて、夜中に起きることも少ないです。
もし母が、朝早く起きてしまった場合は、ムリにもう一度寝かそうとせず、そのまま母の生活のリズムに、わたしが合わせるようにしています。
例えば、母に朝食を作ってもらう、テレビを見てもらうなど、何か簡単な活動をしていると、自然と眠くなることもあるように思います。
昼寝やうたた寝をするときは、できるだけ熟睡しないように早めに起こしたり、またムリに体をゆすって起こしたりせず、テレビの音など物音で自然と起きてもらうようにして、あまり驚かせないような努力もしています。
わたしが東京に居るときは、見守りカメラで母の様子を確認します。母の昼寝が長時間になった場合は、実家に電話をして「ワン切り」で起きてもらうこともあります。
母の昼夜逆転の話を、他の認知症介護をしているご家族に話したことがあるのですが、うちと同じようなケースは、まだ聞いたことがありません。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
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