健康

”背中”の痛みに隠れた9つの深刻な病 テレワークで腰の痛みも深刻化【医師解説】

「背中」の痛み――喉の後ろに、しみるような痛み。肩から腰にかけて移動していくような痛み。腰全体をとりまく、ずしんとした痛み。これらのどれか1つでも当てはまるなら、今すぐ病院へ行くべきかもしれない。あなたの体のSOSに、じっと耳を傾けてほしい。

背中の痛みは重大な病気のサインかも

「テレワークによる巣ごもり生活が続いて1年以上が経ち、背中や腰が頻繁に痛むようになりました。座りっぱなし、かつパソコンやスマホの使いすぎによる慢性的なこりのせいだと思って、ストレッチやマッサージを取り入れてみたのですが、ちっともよくならない。

 そればかりかどんどん痛みがひどくなり、気がつくと夜も眠れないほどになっていました。だけど湿布や鎮痛剤を処方してもらおうと整形外科へ行っても、特に異常なしと言われてしまって…」

 こう話すのは東京都在住の会社員・丸山裕子さん(48才・仮名)。彼女が自分の病名に気づいたのは、熱を出し、かかりつけの内科医に電話で相談したことがきっかけだった。

「コロナ禍で受診をためらっていましたが、あまりにも背中の痛みがひどくなってきたんです。先生に症状を伝えると、腎臓の病気の可能性があるので、すぐに来てくれと言われました。CTを撮ってみると、腎臓に石があるのが見つかったのです」(丸山さん)

 ステイホームに伴う巣ごもり生活によって、肩や背中、腰などの痛みに悩まされる人は激増しており、2021年3月にケアスタディが行った調査によれば、5割以上がテレワークに伴う体の不調を感じていると回答している。

 しかし、丸山さんのケースのように、その痛みが“こり”によるものとは限らない。きくち総合診療クリニック院長の菊池大和さんが言う。

「腎臓やすい臓をはじめとして、背中周辺には多くの臓器が集まっており、背中の痛みが、それらの臓器の不調のサインであることは少なくないのです」

 痛みをがまんしたり、自宅療養で症状を抑えようと試行錯誤しているうちに病気が進行。最悪、手遅れになってしまうケースすらある。

 あなたのその「背中の痛み」は、深刻な病気のサインかもしれない。

●テレワークで体の不調を感じる人は多い

Q.リモートワーク環境で健康面に関する悩みはありますか?

 2021年3月にケアスタディが行った調査による。棒グラフは円グラフで「はい」と答えた人が感じた体の不調の内訳。

背中の痛みに隠された9つの深刻な病

 ひと口に“背中”といっても、首の下から腰まで、その範囲は広い。「背中のどの場所が痛むかによって、原因となる内臓疾患は大きく違います」

 そう指摘するのは芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏さんだ。

喉の後ろの痛み…逆流性食道炎

 例えば喉の後ろに痛みがある場合、「逆流性食道炎」の疑いがある。胃液や胃で消化される途中の食べ物が食道に逆流し、強い酸性によって食道に炎症が起きる病気だ。

「胃から喉にかけての痛みに加え、背中の上部が痛む場合がある。ものを食べるときに食道に詰まったような違和感があり、しみるような痛みを背中に感じるという人も多い病気です」(菊池さん)

食道がんの初期症状も逆流性食道炎とほぼ同じ

 類似の症状に、より深刻な病気が潜んでいることもある。

「食道がんの初期症状も、逆流性食道炎とほぼ同じ。逆流性食道炎を疑って胃カメラ検査を受けたところ、初期の食道がんが見つかることもあります。喉の裏側や背中の上部にしみるような痛みがあり、かつ飲み物や食べ物を飲み込みづらいようならば一度、検査を受けることをすすめます」(菊池さん)

狭心症や心筋梗塞が原因の痛みも

 肩から背中にかけて痛むときも、一刻を争うような病気にかかっている危険性がある。

「狭心症や心筋梗塞が原因で痛みが起きていることが考えられます。どちらも心臓の病気であるため、胸が詰まったような苦しさに加えて、肩から背中全体に広がるような痛みが伴います。

 なかなか治らない慢性的な肩こりが、実は心筋梗塞だったというケースもあるのです。

 狭心症の痛みは10~15秒でおさまりますが、より症状が悪化し、心筋梗塞になってしまうと数分続きます。肩こりに加えて胸に違和感を覚えたら、早めに受診してほしい」(菊池さん)

痛みが上下に移動する…大動脈瘤

 同じく血流に関する病気では、心臓から出た最も太い血管の大動脈がコブのように膨らむことで起きる大動脈瘤も命にかかわる。初期は自覚症状のないまま進行することがほとんどだが、コブが大きくなるに従って神経が圧迫され、背中の痛みがひどくなっていく。

「背中のどのあたりが痛むかは、コブができている場所によって違います。さらに、もし痛みが上下に移動するようなら一大事。大動脈瘤が破裂し、血管が裂けている可能性が高い。この状態になれば背中に味わったことのないような激痛が走るため、誰でも病院に行くことを検討すると思いますが、一刻を争うため、ためらわずすぐに救急車を呼んでください」(菊池さん)

 大動脈瘤と同様に大動脈の壁の隙間に血液が入り込むことが原因で起きる大動脈解離も、背中の痛みを伴うのが特徴だ。ソージュ山下町内科クリニック院長の中村蓉子さんが解説する。

「背骨の前に沿って下降する大動脈の壁がはがれることで起きるのが大動脈解離です。

 動脈が枝分かれする部分が閉塞して血液が全身をうまく巡らなくなってしまったり、血管の壁が裂けてしまったりと非常に危険な状態です。急性の場合、背中に強い痛みを伴うので救急搬送されてくることが多いのですが、“なんとなく背中が痛い”という状態から、検査で大動脈解離が発見されるケースもあります」

腰の上に激痛が走る…尿管結石

 背中の下部に出る痛みは、腎臓やすい臓の病気に関連しているケースが多い。

「人間の臓器は入るスペースが2か所に分かれています。1つ目がお腹の中にある『腹腔(ふくくう)』という場所であり、胃や肝臓、大腸などの臓器が収まっています。2つ目がその腹腔の後ろ、つまり背中や腰側にあるのが『後腹膜(こうふくまく)』と呼ばれるスペースで、十二指腸や腎臓、すい臓などが入っています。ここに入る臓器に異常がある場合、背中や腰に症状が出やすいのです」(今津さん)

 代表的な疾患は腰の上に激痛が走る「尿管結石」だ。

「腎臓と膀胱をつなぐ尿管の途中で尿が結晶化して固まってしまうことで起きる病気です。

 腎臓は左右に1つずつあるため、石が右にあれば右側が、左ならば左側が痛みます。特徴は朝に激痛が走り、夕方にはいったん落ち着くこと。石が動いているときに痛みが生じ、止まった状態になるとおさまるためです」(菊池さん)

 尿管結石は緊急性こそ低いものの、七転八倒するような痛みが突然発現する。

腰の上に強い痛み…腎盂腎炎

 腎臓内の尿をためる部分である腎盂(じんう)が炎症を起こす、「腎盂腎炎」も腰の上に強い痛みが出るという。

「これも頻度の高い病気で、右の腎臓に炎症が起きていれば背中の右側の横腹に近い部分が、左の腎臓なら左側が痛む。初期症状は風邪に似ているので気づきにくいのですが、38℃以上の高熱が出て、腰の上あたりを軽く叩いただけでも激痛が走ります」(菊池さん)

見分けるのが難しい…腎梗塞

 背中の痛みを伴う腎臓の疾患はほかにもある。中村さんは見分けるのが難しい病気として「腎梗塞」を挙げる。

「脳梗塞や心筋梗塞のように、動脈が詰まることによる“梗塞”は、人体の臓器のどこでも起こり得ます。それが腎臓で起きるのが腎梗塞です。

 脳や心臓と比較すると頻度は低いものの、40代を超えると罹患リスクが上がる病気です。通常は左右どちらかの腎臓に症状が出るため、背中の片側、肋骨の下縁あたりに痛みが出ます。発症は突然ですが、マイナーな病気であるため患者自らが気がつくことは少なく、CT検査などでたまたま見つかる場合もある。放置すると腎臓が壊死する危険性もあるため、早期発見が望ましいです」(中村さん)

みぞおちとその裏側の背中の真ん中に鈍痛…すい臓の病

 胃の裏側に位置するすい臓にまつわる疾患も、早期発見できるかどうかが生死を分ける。

「さまざまな消化酵素やインスリンなどの重要なホルモンを分泌するすい臓は人体にとって大変重要な臓器の1つです。ここに炎症が起きて急性すい炎を発症すると、みぞおちとその裏側の背中の真ん中に鈍痛が起こります。

 胆石によってすい液(消化液)を出す経路が詰まって起きる胆石性すい炎やアルコールによるアルコール性すい炎があるうえ、中性脂肪が高すぎる場合もリスクになるなど、複数の原因があります。重症になると周囲の臓器にもダメージを与えてしまう、恐ろしい病気です」(中村さん)

 恐ろしいのは炎症だけではない。

「すい臓がんの場合も背中にずしんとした重い痛みが表れることが多いのですが、初期は自覚症状がありません。背中に痛みを感じるのはがんがある程度大きくなり、まわりの臓器に広がっていることを意味します」(菊池さん)

 つまり痛みを放置していると手遅れになりかねないということだ。

「痛みや違和感に加え、1か月で体重が大きく減っている場合は、がんを疑って病院にかかってみた方がいいでしょう」(菊池さん)

背中の下部から腰にかけての痛み…子宮の病

 女性特有の病気も、背面の痛みがその兆候であるケースもあり、見逃さずに対処したい。特に背中の下部から腰にかけての痛みは、子宮の病気に関係していることが考えられる。

「子宮の半分はお腹の外にあり、腰の近くに位置しているため、下腹部だけでなく腰まわりにも痛みが及びます。特に子宮内膜症はひどい月経痛に加えて腰痛を感じる人が多いです。悪化すると卵巣がんのリスクも高まるため、早めに体が発するSOSに気がついてほしい」(今津さん)

教えてくれた人

きくち総合診療クリニック院長・菊池大和さん、芝大門いまづクリニック院長・今津嘉宏さん、ソージュ山下町内科クリニック院長・中村蓉子さん

※女性セブン2021年9月9日号
https://josei7.com/

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