「早く死んだほうがいい」と言う、免許を返納しない…困った老親へ具体的な対処法
頑固になった、怒りっぽくなった、話を聞かない…。親のイラッとする行動や言動は、どこの家でも総じて同じ。そこで、高齢の親を持つ読者の実例をもとに、どうすれば親と子、お互いのストレスが軽減されるのか、その対処法を専門家に伺った
「私なんて死んだ方がいい」と言い出す
父が亡くなってから7年。同居している母は85才を過ぎてから、「どうせ私なんて、いない方がいい」とか「私が生きているだけでみんなが迷惑をするから、早く死んだ方がいい」とよく言うように。
「そんなことないよ」と最初のうちは言っていたのですが、最近は何かにつけて、ネガティブなことを言うので、思わず、「どうせそんなこと思ってないくせに! 毎回、そんなことを聞かされるこっちの方が滅入るわ!」などと、強い口調で反発してしまいます。母には前向きになってほしいのですが…。(57才・主婦)
専門家からのアドバイス
ひがみっぽくなるのは「大事にして」の裏返し。
「“どうせ私なんか”と言うのは、“私みたいな高齢者は誰も相手にしてくれない、もっと大事にしてほしい”という心の叫びです」(医師・医学博士・平松類さん)
■対処法:存在意義があることを強く訴えること
大事にするイコール何もかも世話を焼くことではない。
「さみしいのは社会的疎外感があるから。自分が必要とされている人間だと認識すれば、さみしさも薄れていきます。そのためにも、親は必要な存在だと感じてもらえるような言葉をかけてください。
たとえば、『一緒に旅行したいから、元気でいようね』『ひ孫の●●ちゃんの成長を一緒に見よう』など、未来ある内容がおすすめです。それが難しければ、何か手伝ってもらったときに、『ありがとう』だけではなく、『助かる!』や『さすが、機転が利く』など、親の存在意義を感じさせる言葉を添えること。自分がいることで誰かの役に立っていると感じられれば、気持ちが前に向くようになります」
スキンシップも効果的。背中をさする、肩をポンポンと軽く叩くだけでも、親は安心できる。
何度ぶつけても車の運転をやめない
車の運転が大好きな78才の父。ただ、最近は駐車場に入れるときもよくぶつけるようになったらしく、車に小さな傷が…。「そろそろ運転免許を返納したら?」とすすめても、「ご近所の○○さんは、80才過ぎても元気に運転していて、なんの問題もない」と聞く耳を持ってくれず、いつもそれがきっかけで口論になります。(47才・会社員)
専門家のアドバイス
現実が見えていないのではないでしょうか?
どんなにベテランで、頭がしっかりしていても、高齢になるととっさの判断力や反射神経がにぶっていきます。個人差と交通事情などの環境にもよりますが、80才が目安です」(日本老年医学会専門医の榎本睦郎さん・以下同)
■対処法:車についた小さな傷を見せながら、穏やかな声で話すこと
「車に小さな傷を見つけたら、どこかでぶつけている可能性がある。それを見せながら『お父さん、ぶつけたみたいね? 芸能人の▲▲さんは事故を起こしたら大変だと75才で返納したんだって。お父さんも考えてみない?』などと、スマホでニュースなどを見せて、説得するのもおすすめ」
「これ何かのときに必要!」と物を捨てない
両親とも80才を過ぎたので、そろそろ家の中の整理をしてほしいと実家の片づけに行きました。すると出るわ出るわ、「これ、いつ使うの?」と、聞きたくなるような不用品の数々。
冷蔵庫の中にはいつからあるのかわからない、小さなしょうゆの容器や、小袋入りの寿司のガリなどがたんまり。引き出しには、コンビニやスーパーのお弁当についてくるような割り箸やストローが50本以上入っていました。私は思わず、「こんなにいらないでしょ!」と、捨てようとすると、80才の母は「誰かお客さんが来たときに必要だから!」と、頑なに捨てません。高齢になると物に執着するようになるのでしょうか。(53才・パート)
専門家のアドバイス
執着ではなく、物を大切にしたいという心があるのでしょう。
「いまの70〜80代は、物を大切にするように育てられた世代。無理やり捨てようとすると、親は自分を否定されたような気持ちになるのです」(老年学研究者の島影真奈美さん・以下同)
■対処法:命の危険にかかわるかどうかで選別すること
「『つまずいて転びそう』『落下してきたらけがをしそう』など、明らかに危ない物以外は目くじらを立てすぎないことも大切です。“なんで、こんな物を大事にとっておくんだろう”と不思議に思っても、親にとっては思い入れがある可能性があります。親自身も『そのうち捨てなきゃ』と思っていた場合、子供から頭ごなしに『捨てて!』と言われると、反発したくなります。まずは親の意思を確認し、尊重する姿勢を見せましょう。ただし、大量すぎる割り箸など、目に余る場合は、『使ってあげないとかわいそうじゃない?』などと言って、日々の食事で使うよう提案してみましょう」
または、「うちで使うから、半分持って帰ってもいい?」と言ってみるのも手。このような言い方なら、物を大切にしたい親の気持ちも大事にできる。
教えてくれた人
■榎本睦郎さん/日本老年医学会専門医 榎本内科クリニック院長高齢者を中心に地域医療に励む。著書に『老いた親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)ほか。
■平松類さん/医師・医学博士 眼科医。のべ10万人以上の高齢者と接してきており、シニア世代の症状や悩みに精通。著書に『老人の取扱説明書』(SB新書)ほか。
■島影真奈美さん/老年学研究者 ライター・編集者。夫の両親との別居介護の経験をもとにもめない介護にまつわる情報を執筆。著書に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)。
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/はまさきはるこ
※女性セブン2021年6月10日号