すぐに怒る、文句を言う…高齢の親の態度にイラつかず上手に対処する方法
家庭環境は違えども、親の行動や言動にイラッとしてしまうことは、どこの家でも総じて同じ。そこで、75才以上の親を持つ読者の実例をもとに、老年学の専門家に対処法などを聞いた。
ちょっとしたことでもすぐに文句を言う
中学校の教師だった父(85才)からは、「文句は言うな」と教えられてきました。そんな父と、検査のためにタクシーで病院へ行ったときのこと。乗車後、行き先を伝えると、「場所がわからないので、ナビを入れますね」と、運転手さんがカーナビに住所を入力し始めた途端、父がボソッと、「早く出発しろよ、遅いな」と明らかにイライラした様子で呟いたのです。
とっさに私は、「お父さん、そんなに焦らなくてもいいじゃない」となだめました。 そしてタクシーを降りてから、「なんで、あんなこと言ったのよ!」と注意したところ、「道を覚えてないやつが悪い」と反省する気配なし。あんな父ではなかったのに…。(54才・主婦)
専門家からのアドバイス
感情をコントロールする脳の部分が萎縮するため、年をとると本音が口から出ちゃうことがあるんです。
「親が怒りっぽくなったり、暴言を吐くようになったのは、加齢に伴い感情のコントロールが効かなくなったから」と言うのは、日本老年医学会専門医の榎本睦郎さん。
「脳内で感情のコントロールを司る前頭葉は、加齢とともに萎縮します。すると、感情にブレーキがかけられなくなり、不快な感情を瞬間湯沸かし器のように出してしまうんです」
■対処法:親の不快な気持ちを受け止める
「『なんでキレているの!』などと親を否定すると、さらに怒りをあおることに。『ムッとしちゃうよね』などと共感し、微笑みながら『まあ、のんびりでもいいじゃない』と、場を和ませるのがおすすめです」(榎本さん)
デイサービスに行きたがらない
離れてひとり暮らしをしている83才の母。認知症ではないものの、ひとりで暮らしているのは心配で、思い切って「デイサービスに行ってみない?」とすすめてみました。すると、
「あんなところ、認知症の人が行くところでしょ?」と、バッサリ。「そんなことないよ、いろいろとレクリエーションがあって、最初は嫌がっていた人も通ううちに楽しくなって、行くと元気になるらしいよ」と、なんとか説得して、近くのデイサービスを見学しに行きました。
そこは認知症の人もいて、折り紙や習字をしていたのですが、それを見た母は、「やっぱり、あんな年寄りが行くところは嫌だ」と拒否。自分だって83才の立派な高齢者なのに…。同年代の人たちとわいわいおしゃべりしながら楽しく過ごした方が、母も元気になる気がするのに、それ以来、デイサービスと言うだけでムッとされてしまいます。(58才・会社員)
専門家からのアドバイス
お年寄りには、デイサービス=認知症の施設という先入観がある人が多いんです。
デイサービスは折り紙をしたり、お遊戯みたいなレクリエーションをする、まるで幼稚園のようなところだと思い込んでいる人は少なくない。
「そのため、認知症の人が行く施設だと勘違いし、自分には必要ない、行くとみじめな気持ちになると拒否をしてしまうのでしょう。行きたがらない人を無理やり連れて行っても効果はありません。デイサービスに行った人と行かない人、それぞれの認知機能を調べたところ、さほどの差がないことがわかりました。しかし、デイサービスを楽しみに行っている人と、嫌々行っている人の間では大きな差があったのです。つまり、デイサービスに行くのを楽しみにしていない場合は、あまり効果が見られないということです」(榎本さん)
■対処法:無理やり行かせないこと
「デイサービスに行きたがらない親を、必死に説得しようとするとけんかになりやすく、感情もこじれやすいので注意しましょう」
と言うのは高齢者事情に詳しいライターで、老年学研究者の島影真奈美さん。
「親の言い分に耳を傾けるのが先決。『無理して行くこともないけど、どういうところだったら行ってみたい?』『スポーツクラブみたいな場所ならどう?』などと、親の気持ちを尊重しつつ、本音を聞き出せると、その気にさせるヒントが見つかるかもしれません」(島影さん)
デイサービスとは、要介護認定を受けた人が、自宅で生活をしながら身体機能の維持や向上を目指してサービスを受けられるところのこと。特徴はさまざまで、運動がメインのところもあれば、カルチャースクールのような場所もある。親の興味関心に合わせて「習い事をする感覚で行ってみない?」と、提案してみるのもいいようだ。
教えてくれた人
■榎本睦郎さん/日本老年医学会専門医
榎本内科クリニック院長高齢者を中心に地域医療に励む。著書に『老いた親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)ほか。
■島影真奈美さん/老年学研究者
ライター・編集者。夫の両親との別居介護の経験をもとにもめない介護にまつわる情報を執筆。
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/はまさきはるこ
※女性セブン2021年6月10日号