脳に刺激あり?認知症施設でアニマルセラピーが増加
今、介護の現場で注目を集めるアニマルセラピーについて、公益社団法人日本動物病院協会の吉田尚子さんが解説する。
「正式には『動物介在活動』といい、一定の基準をクリアした動物と飼い主が老人ホームや医療施設などを訪問し、ふれあいプログラムを実施します。1980年代にアメリカで確立して日本に導入されました。メインは犬ですが、猫やウサギなども用いられます。動物とのふれあいによって『オキシトシン』という“幸せホルモン”が分泌され、ストレスが軽減されたり、心が穏やかになったりする。
自分の手で動物に触れたり、話しかけたりすることで脳が刺激され、生活の向上や認知症の予防に役立つといわれています。それまでふさぎこんでいた患者さんが明るく活発になるなど、人間の専門医ができないことを動物は一瞬で成し遂げることがあります」
アニマルセラピー+回想法でさらに効果が
実際、動物は人間の健康に大きく貢献する不思議な力を持つことがさまざまな調査・研究で報告されている。1990年代のアメリカの調査では、ペットを飼っている人は飼っていない人より、年間約20%も病院に行く回数が少なかった。
また、65才以上の高齢者がいる世帯にペット飼育の効用を聞いた一般社団法人ペットフード協会の調査(2014年、524世帯対象)では、「情緒が安定するようになった」「寂しがることが少なくなった」と精神的な効果を認める声が多かった。
介護界の関心も高く、前出の日本動物病院協会が犬などを伴って高齢者施設や病院などを訪問した回数は年々増加している。2013年度は180の施設にのべ1232回訪問した。
向さんは介護現場での創意工夫が大切だと主張する。
「ただ単純に動物とふれあうのではなく、現場の職員と情報交換しながら、入居者みなさんのために何ができるかを考えます。関心を引きつけても喜んでもらえなければ参加してもらえないので、1時間ずっと楽しめることも大事。今回、『とこなめ』では認知症をケアする『回想法』を取り入れたプログラムを実施しました」
回想法とは、過去の出来事や暦などを思い出すことで脳を活性化し、認知機能の改善を計る方法のことだ。
冒頭の「とこなめ」では、向さんがぷぷちゃんに獅子舞の服を着せ、「1月1日は何の日だったでしょうか?」と尋ねた。入居者から「お正月!」の声があがった。
さらに2匹の犬に鬼の帽子をかぶせ、「2月3日は何の日?」と尋ねるが、なかなか返答がない。「ヒントはこの帽子です」と重ねると、別の80代の女性が「節分!」と答えた。いずれも回想法を用いた認知症対策のプログラムの一環だ。
その後、「2月22日は何の日でしょうか?」というクイズを出し、「2=ニャ」という鳴き声から猫の日であることを伝える。さらに、猫に関する○×クイズを出題し、入居者は「○」「×」の札を上げて解答する。正解者は犬におやつを優先的にあげられるため、みんな張り切って札を上げる。
自発性を高めることが認知症対策に
動物を介した有意義で楽しい催しの最中、優しい表情で犬の姿をデジカメに収める女性がいた。8年前に入居した榊原てる子さん(78才)だ。
入居前、家族や友人との旅行風景を撮影することが趣味だった榊原さん。額に入れた風景写真を何枚も自宅に飾る写真通だったが、施設入居後は「撮る機会がないのよ」と愛用のカメラを手にしなかった。
しかし昨年、入居者が犬と散歩する企画の際、スタッフが「榊原さん、ぷぷちゃんの写真を撮ってよ」と声をかけると、榊原さんは意を決した。