脳に刺激あり?認知症施設でアニマルセラピーが増加
「榊原さんは、入居してから初めてカメラを手に犬を撮影しました。『上手だね~』と褒めると本当に嬉しそうな顔になり、それからイベントごとにカメラを持ってきます。犬のおかげで昔の趣味を再開できるなんて、私たちも驚きました」(前出・大橋さん)
この日のイベントでも榊原さんはファインダー越しに犬を追い、シャッターを押して「撮れた!」と朗らかに笑った。こうして自発性や自尊感情を高めることも有効な認知症対策となる。
「手を動かせるかな。頑張って動かして背中に触ってみようか」という向さんの声がけに、怖々ながらぷぷちゃんの背中にそっと手をのせたのは、3年前に入居した土居みよさん(89才)。最も重い要介護度5で車いす生活のため引きこもりがちで、犬嫌い。アニマルセラピーが始まってからも、遠巻きに眺めるだけだった。
「ところが、回を重ねるごとに土居さんはだんだんと犬に近づくようになりました。入居者のみなさんの楽しげな顔に魅せられたのかもしれません。あれほど犬嫌いだったのに、やがて膝の上に犬をのせてほほ笑むようになりました」(大橋さん)
硬い表情がほぐれて柔和になるまで最初は30分以上かかったが、最近では犬と向き合って10分で笑顔になれるという。
向さんは回想作用のほかにも、介護現場で動物とかかわる意義は多々あると言う。
「犬を触ったり名前を呼ぶことで五感が刺激され、免疫力が高まったり血圧が低下することがあります。
犬と交流した認知症患者は、自宅に戻ろうとする『帰宅願望』や介護拒否などの症状が減ることもあります。
何より落ち込み気味の表情がやわらかくなり、笑顔でコミュニケーションを取れるようになります。“ワンちゃんのために何かをしたい”というやる気や自発性が増し、精神が安定してストレスが減るといった『癒し効果』も期待できます」
※女性セブン2015年3月5日号