『ドラゴン桜』シーズン1を復習|“バカ”と罵りながらの叱咤激励で生徒はどう変わったのか
「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。今日(4月25日)スタートする『ドラゴン桜』(TBS)は、2005年に大ヒットした同名作の続編、主演も同じ阿部寛、旧作では教え子として登場した長澤まさみが成長した姿で登場するらしい。『ドラゴン桜』とはどういうドラマだったか。大学で教鞭もとるゲーム作家の米光一成さんといっしょに復習しましょう。
阿部寛演じる桜木建二は、元暴走族のリーダー
2021年4月から新日曜劇場で『ドラゴン桜』が復活。主演は阿部寛。16年前は生徒役だった長澤まさみも出演する。16年前の2005年7月期に放送された『ドラゴン桜』は大ヒットし、社会現象になった。何しろ東大模試の受験者数が20%増になったほどだ。
視聴率も、17.5%でスタートし、最終回は20.3%。受験マル秘テクニックと、受験を軸にした人間ドラマの二本柱で人気を博した。原作は、三田紀房のマンガ作品。
阿部寛が演じる桜木建二は、元暴走族のリーダーで、今はつぶれそうな事務所所長の弁護士。倒産寸前の“バカ”学校龍山高校に負債処理をするためにやってくる。が、龍山高校から5人の東大合格者を出して進学校にするとぶちあげ、注目を浴びて虎ノ門に法律事務所を構えようと画策する。このあたりの打算的でありながら、合理的で、隠し事をしないというキャラクター設定が見事だ。
東大進学を目指す「特進クラス」を設立し、希望者を募る。そして、自らが担任に付く。
『GTO」『ごくせん』の流れを汲む
“バカ”高校から東大進学を目指し奮闘するという「受験」をテーマにしたところが新味で、「マル秘受験テクニック」や「勉強法」が開陳される。それまでの学園ドラマは、学校を描いておきながら、授業シーン、テストシーンは、ほとんどなかった。
『ドラゴン桜』ほど、授業や、テストの場面をたくさん描いた学園ドラマはないだろう。
なにしろ最終回クライマックスのひとつが東大受験のシーン。古いサンドイッチのせいで腹痛と戦いながらテストを受ける、利き手をケガしたまま解答用紙に向かう……さらに受験生たちの心の中の声をテストシーンに重ねる。あの手この手で盛り上げる。
と、同時に、元暴走族で弁護士という型破りな先生が、熱く本音で生徒たちとぶつかるという従来の青春学園ドラマのツボもしっかりおさえてくる。
元暴走族のリーダー鬼塚英吉が先生の『GTO』(1988年)、任侠集団・大江戸一家で育った熱血高校教師ヤンクミが活躍する『ごくせん』(2002年、2005年、2008年)、『ヤンキー先生母校に帰る』(2003年)といった大ヒットした学園ドラマの流れをしっかり汲んでいるのだ。
バカとブスこそ東大へ行け!
阿部寛が演じる桜木建二は、とにかく叫ぶ。「バカ!」と罵りながらも、「バカだが大きな可能性があるんだ」と叱咤激励する。鋭く短いキャッチ―なフレーズで、生徒たちを、反抗する先生たちを、親までも、手玉にとり、言いくるめる。
第1話、全校生徒に向かって放つのが「バカとブスこそ東大へ行け!」。以下、桜木建二の名言集。
「つまり、お前らみたいに頭を使わずめんどくさがってばかりいるやつらは、一生騙されて高い金を払わされ続ける!」
「ひとは誰かに使われてる限り、この搾取の迷宮から逃れられないんだ」
(親を集めて)「全員0点です」
「試験とは対話だ。相手との対話であり、そして己との対話である」
濃い顔の阿部寛が、迫力いっぱい矢継ぎ早に、熱いセリフを吐きまくるのだ。1話観ると、なにかやらなきゃとモチベーションがあがる。
長澤まさみ、山下智久、新垣結衣などの生徒役がフレッシュ!
生徒役も豪華。全員、16年たったいまでも活躍している人たちばかり。
小料理屋をやっている母親と2人暮らしの水野直美を長澤まさみ。映画『世界の中心で、愛をさけぶ』が大ヒットした直後で、初々しさもありながらノリにのっている。長澤まさみは2021年の新作にも出演。一浪して、東大に合格。弁護士資格を取得し、桜木事務所に入っているという設定だ。
父親が失踪し借金だらけになっている矢島勇介を山下智久。『ドラゴン桜』のすぐ後、2005年の10月期のドラマ『野ブタ。をプロデュース』で山下智久は亀梨和也と共演。
勇介の恋人のコギャルを新垣結衣。そして、中尾明慶、小池徹平、サエコ(紗栄子)の6人が特進クラスの生徒だ。
脇を固める先生や母親役の役者陣もすばらしい。
金遣いが荒く、何もできず泣きまねばかりしている理事長を、野際陽子。英語教師で、桜木のやり方に反発し、賭けにのせられて負けて「奴隷」としてふりまわされる役を長谷川京子。矢島勇介の母親を石野真子。水野直美の母親を美保純が演じる。新作『ドラゴン桜』で理事長を演じる江口のりこも、ちらっと不良学生役で登場している。
教師と生徒が向き合えなくなった時代に
桜木建二は、打算的で、合理的だ。古典的学園にでてくる友情や優しい気持ちや絆といった曖昧模糊とした情緒を徹底的に否定する。
「だからよ、一時の感情で利益を失うバカにはなるな」と叫ぶ。
詰め込みの暗記勉強も、音楽を使ったり、卓球のポーズでテンポよくしたり、自然とモチベーションがあがる方法を導入する。
だが、第九話。最後の最後。
理不尽なタイミングで起きるどうしようもない出来事にくじけそうになった水野直美に、桜木建二は言う。
「だから、俺は、俺が最も嫌いな言葉を一度だけお前に言う。頑張れ。頑張れば必ず望みは叶う」
合理的な思考の果てに「頑張れ」とエールを送る。
16年前から学校教育のありかたも大きく変わった。ストレートな教師と生徒のぶつかり合いを描いた学園ドラマも、ほとんど作られなくなった。ドラマの中では、人質にしたり、暗殺したりしないと、教師と生徒が向き合えなくなった時代だ。
そんな2021年のコロナ禍のいま、新生『ドラゴン桜』は、どんな物語になるのだろう。楽しみだ。
桜木建二は、当時のように鋭くキャッチ―な言葉で、世界を切り取ってくれるだろうか。
「世の中に超えられない壁なんてねぇんだ。だから、お前ら、どんな事にも出来ないという先入観を持つな」
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。