視覚障害者にかける言葉「大丈夫ですか?」はNG。正しい接し方
コロナ禍で困っている人への接し方を解説
白杖(はくじょう)に慣れている視覚障害者の歩行速度は、健常者とあまり変わらず意外と速い。道に迷ったり、誰かに声をかけて助けを求めようとしていたら、音や人の気配を感じようと立ち止まったり、辺りを見回しているはずだ。その様子が確認できたら、声をかけてみてほしい。
1.コロナ禍では少し距離を取って前方から声かけを
「声をかける方向も大切です。目の不自由な人は音が頼り。後方からの音は方向がわかりにくく、気づかないかもしれません。前方から呼びかけられれば、人が近づいていることがわかり、話の内容にも意識を向けられます。
いまはコロナ禍ですから、飛沫を防ぐためにもお互いマスクをして、少し距離をとって前方から声をかけてもらえると、なお安心感があります。肩を叩くなど、いきなり体に触れるのはやめてください。目が見えない分、見ず知らずの人にいきなり触れられるのは怖いものです」(東京視覚障害者生活支援センター 所長・長岡雄一さん)
2.視覚障害者には大丈夫より別の言葉を…
それがどれだけ怖いか、すぐには理解できないかもしれない。そうした人は一度目を閉じてみてほしい。どんな状況で恐怖を感じるのか想像しやすくなるはずだ。その上で、声をかけるときは、つい口にしがちな“大丈夫ですか?”ではなく、“お手伝いしましょうか?” “何かお困りですか?”と話しかけるといいという。
「“大丈夫ですか?”と聞かれたら、本当は大丈夫ではなくても、遠慮して“はい”と答える人が多いのです。
しかし、“お手伝いしましょうか?”と聞かれれば、皆さん、気軽にお願いしやすくなり、会話もスムーズに。ちょっとした違いですが、ぜひこのことは覚えておいてほしいと思いますね」(日本視覚障害者団体連合の職員・三宅隆さん)
3.緊急時は誰が何をすべきかを言葉に
ただし、それも状況によることは言うまでもないだろう。例えば、冒頭で紹介した、白杖を持った人がホームから転落しそうなとき―必要なのはお手伝いではなく、事故を防ぐために即座に行動することだ。
「そんなときは位置に関係なく大きな声で呼び止めてほしいです。とっさに“危ない!”と叫ぶだけでは、自分に言われているのか、どうすると危ないのか伝わりません。“そこの白杖の人”と言われると自分のことだと気づきますし、止まるのか進むのか次の行動を言ってもらえると自力で対応できるかもしれません」(三宅さん)
4.感覚を司る白杖には触れない
皆さんも、街なかで視覚障害者の人がひとりで歩いている姿を見かけたことがあるだろう。もしもその人が困っていたら、最善は目的地まで一緒に歩いて案内すること。その際に健常者が気をつけるべきは、白杖には触れず、反対側に立って自分の肩などに手を添えてもらい、半歩先を歩いて誘導することだという。
「視覚が使えない分、聴覚や触覚を研ぎ澄ませたいので、触覚の手がかりになる白杖を使い、常に周りの様子を探っています。白杖を誰かに触られると、周りの状況がまったくわからなくなってしまいます」(三宅さん)
5.点字ブロックは左右40cmのスペースを空ける
ちなみに、触覚の頼りになる点字ブロックのどこを歩くかは、人によって違うそうだ。誘導時に点字ブロックがあった場合、真上を歩きたいか、少し触れる程度がよいか、本人に尋ねると、より親切だという。
「点字ブロックの真上を歩くと凹凸を両足で感じられてわかりやすいですが、私の場合は平坦な道より歩きにくさを感じますね。片方の足だけなら煩わしさを半減でき、曲がり角もわかりやすい。点字ブロックをふさがないように歩いたり、自転車を止めてくれたりするのはありがたいのですが、欲を言えば左右40cmほど余分にスペースを空けてもらえると助かります」(三宅さん)
6.支援方法はその場で気軽に聞いて
読者の中には、声をかけたくないわけではなくて、「うまくお手伝いできるか自信がない」「声をかける勇気がない」と思う人も多いのではないか。三宅さんはそうした声に、こう話す。
「私たちは目が見えなくても、言葉は話せます。完璧な誘導をしなければと力まず、わからないことは聞いてもらえればいいんです。駅のホームは特に命がけで歩いているので、明らかに転落するかもしれない危ないとき以外も、“お手伝いしましょうか?”と声をかけてもらえたらうれしいです」(三宅さん)
人ごみでは白杖に気づきにくく、視覚障害者が誰かの足に白杖を引っかけて加害者になることもあるという。もしも誰かが一緒に歩いていれば、周りの人にも認知されやすく、思わぬ事故を防げるかもしれない。
一方、「勇気を出してせっかく手助けを申し出たけれど断られた」という経験をもつ人もいるかもしれない。たしかに、断られるといささかショックかもしれないが…。
「お断りする場合も、決して迷惑に思っていません。存在に気づいてくれただけでもありがたいです。断る場合も、感謝の気持ちは必ず伝えようと私たちの方でも呼びかけています。双方が歩み寄り、気軽に声かけをしてもらえる社会になったらうれしいですね」(三宅さん)
7.女性からの声かけを積極的に
昨今、少し肩がぶつかっただけで怒鳴られたという事例や、道を尋ねられた隙にバッグを盗まれたなど、怖いニュースが後を絶たない。ましてや目が不自由ならば、それがどれほど怖いか。
「ですので、防犯面からも女性のかたに声かけをしてもらえるとありがたいと話すかたは多いです。ある視覚障害者が誤って健常者にぶつかったとき、“お前の家は知っているぞ!”と捨てぜりふを吐かれたようです。目が不自由だと、誰に見られているかわからない怖さもあるんです。健常者でも見知らぬ男性に“どこに行くの?”と声をかけられたら怖いですよね?
親切心から声をかけてくれる男性もいますが、駅構内など人目のある場所以外では特に、男性からの声かけに警戒してしまうのは仕方ないと思います」(長岡さん)
8.横断歩道は声かけのチャンス
視覚障害者に心ない声を浴びせる人がいる一方、信号待ちの際に気遣いを見せてくれる人は老若男女問わず増えている実感があると三宅さん。
「信号が変わったら、小学生もひと声かけてくれます。サポートのきっかけをつかめないでいる人は、信号待ちや横断歩道を渡る間なら、気軽に実践しやすいのでは」(三宅さん)
実際、横断歩道も危険が潜み、手助けが必要な場合が多い。複雑に道が交差して往来が激しかったりと、一瞬だけでも目をつぶってみるだけで、怖さがよくわかるはずだ。
「横断歩道をまっすぐ渡っているつもりでも、斜めに渡って車道にはみ出していることも。音が鳴らない信号機の場合は、人や車の音で判断しますが、人や自転車は信号無視する場合もあり、知らずに赤信号で飛び出していることも。
横断歩道の途中で青信号が点滅してもわからないので、“信号が変わりそうなので、一緒に渡りましょうか?”と声をかけてもらえると助かります。
盲導犬を連れている場合でも、犬は色の識別があまりできませんから。その際、盲導犬は利用者の指示を聞くよう訓練されているので、犬に声をかけたり気をひくのではなく、必ず本人に声をかけてください」(三宅さん)
9.階段での声かけや誘導は?
ほかに怖さを感じるのは階段だという。試しに記者が目をつぶって階段を歩いてみると、手すりを持っていても途端に階段を踏み外しそうになり、転落しそうになった。ひとたび転倒したら大けがにつながるので、エレベーターなどに誘導した方がよい気がするが…。
「行き慣れた場所を通っている場合が多く、階段に慣れている人がエレベーターなどに誘導されると、位置関係がわからなくなり混乱する可能性があります。階段付近で声かけをする場合は、階段を使うかほかを使うか、手伝いは必要か、選択肢を提供しながら尋ねてください。
また、最終目的地の途中までしか誘導できない場合、いまいる場所がどちらに向いて、付近に何があるか、別れ際に教えてあげてください」(長岡さん)
階段を利用する際は、基本的な立ち位置は平坦な道を歩くときと同じ。視覚障害者の横に立ち、健常者の肩やひじに手を添えてもらい、健常者が少し先をリードする。
「普通の速さでテンポよく上り下りしてもらうと助かります」(三宅さん)
10.障害物は少し手前をで存在伝える
歩いている先に障害物がある場合も、少し手前で視覚障害者に伝えることも大切だ。
「あまりに急すぎると間に合わないので、“階段はあと5段ぐらいです”など、先の様子が前もってわかると事故を防げます」(三宅さん)
事故にはならずとも、人間関係のトラブルになりかねないのが行列。コロナ禍では列の間隔も広く、悪気なく列に割り込みやすい。
「最後尾が自分のいる場所より後ろなら、どこまで並んでいるか教え、誘導があるとさらに助かります。また、列は動きますから、都度教えてあげるやさしさを持ってほしいです」(長岡さん)
どれも決して難しいことではない。もしも私だったらどう手助けしてほしいだろうと想像しながら声をかけ、行動に移すだけで、以前よりほんの少し誰しもが住みやすく生きやすい社会になっているはずだ。まずは「お手伝いしましょうか?」という声かけから始めませんか。