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健康

猫背だと転倒しやすくなる!? 大学で健康寿命を伸ばす術を学ぶ

 たかが転倒、されど転倒。60歳以上の転倒は、生活能力を削る致命的なダメージになることもあるという。転倒を防ぐための体づくりを目標に開講された「60歳からの体力再生健康体操」は、ちょっとキツいけど楽しい、をモットーに6割のリピーターを誇る人気講座。転ばないためのメソッドとは?

60歳が健康寿命の大きな分かれ道

 各大学のオープンカレッジには、ヨガやストレッチ、ウォーキングなど、健康維持を目的として、基礎体力や柔軟性を向上させる運動教室は多々あるけれど、中央大学クレセント・アカデミーの「60歳からの体力再生健康体操」は、そのネーミングからちょっと異彩を放っている。

 じつは、60歳以下の人も問題なく受講できるそうなのだが、だったらなぜ、60歳!?

 講師の中央大学法学部准教授の村井剛先生(41才)は、中京大学大学院体育学研究科を修了した体育学修士。2005~2007年には、愛知県豊田市ヘルスサポートリーダー養成講座の講師を務め、現在は中央大学アメリカンフットボール部のコーチも兼任している、バリバリのスポーツ指導者。なぜ60歳からと銘打ったのか、その理由を聞いて驚いた。

さまざまなデータから、日常的な運動をしている人も、まったくしていない人も、60歳までは死亡率にそこまで大きな差はありません。ところが、60歳以上になると一変。運動をしているか、していないかで、死亡率に大きな開きが出るんです。

 70歳以上になるとさらに顕著。だから、60歳以上の運動、体力の維持・再生は、健康はもとより生命に大きく影響してくると考えています

“元気で長生き”の大きな分かれ道が、60歳なのだ。

 筋トレや柔軟体操を取り入れているという点では、ほかの運動教室と同じように思えるが、村井先生がプログラムを組むうえで重点を置き、目指しているのが、転倒予防。

「高齢者にとって転倒によるケガは大きなダメージ。リハビリをしても100%本来の機能は戻らないことや、再転倒を恐れて行動範囲が狭くなり、生活能力が低下することが多いのです。転倒から寝たきりになることにもつながってしまう。

 転倒リスクを減らし、体力を維持するということは、寝たきりを予防することにもなるんです

 筋肉をつけたり強くするのはもちろん大切だけれど、一般的な筋トレだけでは転倒予防やとっさの危機回避が必要なときには生かせないと村井先生は言う。

「筋肉をつけても、使い方に慣れていなければ宝の持ち腐れというか、有効に使いこなせないんです。いざというタイミングでとっさに体を動かすには、筋力・バランス感覚・感覚のズレを正す調整力をつけることが肝心。

 この講座では、その3つを強化することに加え、猫背の改善にも力を入れています猫背だと重心が前に偏るので、転倒しやすくなるんですよ」

 私は小さいころからよく転ぶ。足がちゃんと上がっていないせいか、ちょっとした段差につまづいてしまうのだ。捻挫に骨折、階段を十数段でんぐり返りで落ちたこともある。段差を認識しているのに足が上がっていない、ちょこっとつまづいただけで踏みとどまれない…。

 これこそが、村井先生の言う“感覚のズレ”。私はまさにズレまくりなワケで、60歳は少し先だが、一刻も早くこのズレを正さないことにはまずい!!

身近で値段もお手頃なあのアイテムでストレッチ

 朝9時、50代~80代の男女22名の受講生が村井先生の周りに集まり、ウオーミングアップからスタート。両手をまっすぐ上に伸ばしたり、膝を90度に上げて足踏みしたり、ラジオ体操のような、一見なんてことない簡単な動きなのに、やってみると意外にキツい。これだけで、普段いかに動かしていない部分が多いかを実感するのだが、ストレッチが終わると、いよいよ村井先生がこの講座のために開発したバラエティに富んだプログラムが続く。

 筋力、バランス感覚、柔軟性を向上させるために、さまざまなアイテムを使うのが村井先生流メソッド。バランスボールやストレッチポールといったおなじみの器具に加え、この講座ならではのユニークなアイテムも多数登場する。たとえば、80㎝ほどの細い棒。両端を持って前後左右に動かして肩周りの筋肉と関節をほぐすのに使うのだけれど…、コレ、よく見ると突っ張り棒!?

「長さが簡単に調節できるから、柔らかい人は短いまま、かたい人は伸ばせばいい。個々の体の柔軟性に合わせられるし、身近で値段もお手頃なんて器具は、突っ張り棒しかないですね(笑)」

 キック運動に使うボールは、テニスボールよりやや大きめで、やわらかいスポンジ製。サッカーボールよりかなり小さいから、集中しないと空振り(空蹴り?)するし、芯をしっかりとらえて蹴らないと真っすぐ進まない。でも、踏んづけても転ばないし、当たっても痛くないから安全だ。

 ラダーと呼ばれる運動は、床に広げるとはしご状になる器具でおこなう。マス目に合わせて内・内・外、一歩二歩などとちょっと上級ケンケンパのようなステップを踏み、つま先までの足さばきの素早さ、正確さを向上させ、とっさのバランス対応力を鍛えるのだ。これは運動量が大きいだけでなく、ステップのパターンを覚えないといけないので、同時に相当な脳トレにもなる。いきなりやるとあたふた(汗)。

「ちょっとキツイ」と感じるタイミングで

 村井先生のプログラムには、高齢者向けの講座ならではの“続く秘訣”が詰まっている。

「運動能力は個人差があるし、運動の種類によって得手不得手もあります。周りより劣っていると思うと恥ずかしくて運動するのがいやになってしまう。苦手なものばかりずっと続いても、いやになってしまうでしょう? だから、少しすると違う運動に変わります。

 ゲーム感覚で楽しく体を動かせるよう、棒やボール、風船やフリスビーなども使って、1時間半のなかで6、7種類の運動を細かく組み合わせています。競争するのではなく、自分なりの一番いいパフォーマンスを続けることが肝心。どんな人でも必ず運動能力が向上します」

「ちょっとキツイ」と感じるタイミングで、3~10分ほどの休憩と水分補給タイムをこまめに入れるのも絶妙。部屋の壁には、腰から下くらいの部分にクッション材が貼られ、万一転んでしまった場合のリスクにも気を配っている。

 60歳までまったく運動をしてこなかった人も、それなりに運動をしてきた人も、平等にみんなが息を上げながら楽しそうで、村井先生の狙いがどんぴしゃハマっているようだ。

◆取材講座:「60歳からの体力再生健康体操」(中央大学クレセント・アカデミー2017年春期)

文・写真/まなナビ編集室

※初出:まなナビ

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