話題の介護ケア「にやりほっと」<後編>家庭で手軽にできる実践方法
「にやりほっと」とは、全国に約40の老人ホームやグループホームを運営する長谷工シニアホールディングスが展開している独自の介護ケアツール。
介護の現場では、危ないから、時間がないからという理由で、利用者の「できること」を取り上げてしまうケースが多々ある。しかし、本来の介護は、利用者の「できること」「好きなこと」を見つけ、サポートしていくことが重要なのではないか? 「にやりほっと」はそんな疑問から生まれた取り組みだ。
後編の今回は、一般の家庭でも実践できる「できることを増やす」介護のコツを、「にやりほっと」の活動をまとめた本「できることを取り戻す魔法の介護」(ポプラ社)から一部抜粋して紹介する。
効果的な実践法、行う際の注意点等について、長谷工シニアホールディングス『にやりほっと』探検隊 山口明子さんに伺った。
* * *
「できること」をリスト化し、増やすためには?
「できること」を増やすために、私たちが現場で作成しているのは「できること」リストの作成です。以下は、私たちが実際に現場で使っているリスト。暮らしのなかで取り組みやすいことから、家事を基準にした「できること」を作成しましたが、リストの項目はあくまでその人の「できること」。
15分程度でできる簡単なものを選ぶのがおすすめです。
15分程度でできる「できることリスト」(一例を抜粋)
●食事
□浅漬けづくり:野菜を切る(ちぎる)→ポリ袋に入れる→袋の外からもむ。
□納豆の下準備:パックを大きな器に移す→からし、タレ等を入れかき混ぜる→人数分の器にわける。
□煮物の見張り:煮物の鍋などが焦げないように火加減を見てもらう→ときどき、適宜かき混ぜる(火を扱うため、そばで見守る人がいるとよいでしょう)。
□食器洗い:食器を洗う→すすぎを行う→食器に残った水分を拭く(片付けは家族やスタッフが行う)。
●掃除・裁縫など
□簡易モップやはたきかけ:道具を使ってホコリを払う→並べたものを拭く(ゴミが見えるので達成感につながりやすい)。
□洋服のほころび、裾上げ:針に糸を通すなど、難しい作業は家族やスタッフが代わりに行います。
□手縫いで小物作り:シンプルな巾着、手作りの雑巾などの手縫い。
リストにある動作が一瞬でもできたら「できること」にします。上手くできなくてもかまいません。1秒でもできたら、それを何度も繰り返し、10秒、30秒と長くしていく。最初は、少しだけだったとしても、繰り返しているうちに昔のようにできるようになる可能性もあるからです。
失敗が少ないものを選び、一瞬でもできればOK
注意したいのは、失敗が少ないことを選ぶようにすること。挑戦したものの、できなかった場合は本人が落ち込んでしまい、せっかくのやる気が削がれ逆効果になってしまうケースも。本人の意思を尊重するのが一番。無理強いは避けるようにしましょう。 大切なのは、その人が「今できること」「日常的には行わないけれどできること」を、介護する側がきちんと把握しておくことです。
変化がわかりやすいよう段階別に記録を
リスト作成するときは、同じ項目でも「何を、どのようにできるか」を段階別に記録するスペースを設けておくとよいでしょう。上達の度合いをきちんと見るのはもちろん「できなくなる」変化を素早くみつけることにも役立ちます。
「できること」は単に、その人の技術ではなく、環境を整えることで増やせます。スムーズに行動できるよう、足元の障害物をどけるなど、安全面にはくれぐれも配慮して行うようにしてください。
家族間はもちろん、訪問介護のスタッフともリストを共有することで、今後のケアプランに生かすこともできます。
その他にも『できることを取り戻す 魔法の介護』では、「頭と身体を同時に動かす脳活性化運動」「表情と仕草から対話をするコツ」など、家庭で簡単にできるケアを多数紹介している。
介護と聞くと、「大変」「つらい」などの言葉が浮かぶが、大事なのは相手の生活に寄り添い、意思を尊重すること。読み終えたあとに心が「ほっと」し、介護へ不安が楽しみに変わる。これからの介護を考える上でぜひ読んでおきたい1冊だ。
撮影/松本幸子 取材・文/綱川晶子
【データ】
長谷工シニアホールディングス:http://www.haseko-senior.co.jp/niyari-hotto/
【関連記事】
●介護の最良の方法!? 毎日を楽しくする「にやりほっと」とは?
●話題の介護ケア「にやりほっと」<前編>できることを取り戻し笑顔に