連載

そのとき、介護者に迫られる「命の決断」…今からできる準備とは?

 認知症の母を、東京ー盛岡の遠距離で介護を続けている工藤広伸さん。母と祖母のW介護の経験もある。工藤さんが、感じたこと、得たこと、学んだことを、ブログや著書などで紹介し、介護中の人に様々なアドバイスを発信して話題を呼んでいる。当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、介護者の目線で、すぐ役に立つ情報を更新中。

 今回は、介護者が様々な重大な決断をする際、困ったたり、悩んだりしないために、今からできることを伝授してもらう。介護中は、節目節目に大きな決めごとをする機会は多いはず。特に親子の場合、お互いが納得できることがとても大切という。そのために、まず用意すべきはことは…!?

 * * *

 介護歴5年目になりますが、最初の1年は重い決断の連続でした。それは、孫のわたしが、認知症で余命半年と言われた祖母(当時89歳・要介護3)の生命に関する判断をしなければいけなかったからです。自分では判断できない状態だったので、娘である母に決めてもらうつもりでしたが、頼りの母も認知症を発症。そんな経験から学んだことは、「本人の意思を確認しておくこと」の大切さでした。

次々とやってくる命の決断 

 子宮頸がんが見つかった祖母の治療方針を聞くため、病院へ行きました。高齢のため、放射線治療のみを薦めるという医師からの説明でした。また、緊急時の心臓マッサージは、骨が折れてしまうこともありますが、それでも行うか決めてくださいという話でした。

 放射線治療が終わり、緩和ケア病棟のある病院へ転院してからも、重要な判断は続きました。

 ベッドから転落した祖母が、大腿骨を骨折しました。全身麻酔をする際に、1万人のうち7人は死ぬ可能性があるという麻酔医の説明を受けました。骨折後のリハビリでも、歩けるようになるまで頑張るか、車椅子を選択するかという決断、がんの痛みが出た場合にモルヒネを投与して痛みを緩和することに同意するか、延命措置はどうするかといった重い決断が、次々とやってきました。介護が始まったばかりのわたしには、どれも荷が重いものでした。

 こういった重要な決断を、孫のわたしひとりで決められるはずもなく、母の妹であるわたしの叔母と相談しながら決めていきました。車椅子を選択し、モルヒネは投与、延命措置はしないと決めました。

 結局、がんが見つかってから1年で祖母は亡くなってしまいました。その後も、決断は続きました。喪主を務めざるを得なかったわたしは、葬儀をどうするか、誰に声をかけるべきか、戒名やお墓をどうするかなど、代理判断で決めていきました。

命に関わる決断を代理でするストレスを経験して気づいたこと

 こういった生命に関する決断を代理でするというのは、介護者にとってすごくストレスになるのではないでしょうか? もし元気なうちに祖母の意思を聞いておけば、悩まずに済んだのに…と強く思いました。そしてこの後悔は、これから長く介護をしていく母にはしないようにしようと思ったのです。

母の意思を確認するために、エンディングノートを活用

 母も認知症なので、自分で判断できなくなる局面がやってくると考えています。その際に代理判断することは、介護者としてストレスが重いです。なので、祖母の命日付近になったら、エンディングノートを使って母の意思を毎年確認するようにしています。

 ノートには──

・どういう葬儀をしたいのか
・参列者は誰を呼ぶべきか
・棺には何を入れるか
・お墓はどうするか
・余命宣告されたら伝えてほしいか
・延命措置はどうするか
・施設への入居を希望するか

 などの重要な決断についての質問が載っています。

 母は軽度の認知症なので、こういった質問を理解できます。本人がどうしたいのか、その希望を叶えてあげることで、わたしのストレスも軽減されるし、何より母の人生は母自身が決めるべきだと思います。 

介護者の都合になりがちな代理判断

 このような経験から、本人の意思を尊重しようと思うようになったのですが、介護者の都合によって代理判断がなされるケースも多いようです。

 わたしが参加した終末期のセミナーでは、このような例が紹介されていました。

・高齢だし、認知症だから、治療や検査は無駄。医療費もかかるから、何もやらない
・自分(介護者)の仕事を優先したいから、本人の希望を無視して施設に入れよう

 高齢だから何もできない、認知症だから何をやっても意味がないという介護者の勝手な思い込みで、ご本人の意思が尊重されずに終末期を迎える現実もあるようです。

介護が始まっていない人こそ使ってほしいエンディングノート 

 祖母の生前の口癖が「わたしに何かあったら、銀行のお金を使ってくれ」ということでした。いざそのお金を利用しようしたら、どの銀行に預けているかすら、分かりませんでした。わたしはやむを得ず、成年後見制度を利用して銀行口座を探し当て、祖母の介護費用をそこから使うことが出来ましたが、家庭裁判所に申立をするなど大変でした。

 親の財産状況を事前に知っておくことは、とても大切だと思います。親に財産がなければ、介護者による費用負担を考えないといけませんし、ある程度お金に余裕があれば、介護施設や自費サービスの利用も検討できます。

 元気なうちは親に聞きづらいことかもしれませんが、親の財産が分かっていると自分の人生設計もある程度組み立てることができるようになると思います。そういったときにエンディングノートを使って聞き出すことができると、自分の将来設計もしやすくなるのではないでしょうか?

 本人の意思を叶えてあげたという気持ちは、介護の達成感につながるとわたしは考えています。

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

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