もしかして経験ある?認知症介護でふと芽生える「殺意」5つの対処法
岩手県盛岡に住む認知症の母を、東京から遠距離で介護を続けている工藤広伸さん。介護をする中で、感じたこと、得たこと、学んだことを、ブログで公開している。最近では様々なメディアにも登場し、介護中の人に向けてアドバイスを発信。当サイトで執筆中のシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、リアルタイムで介護続ける工藤さんならではの視点が、すぐ役に立つと話題だ。
今回のテーマは、介護中にふと芽生えてしまうネガティブな気持ち、「殺意」について。まじめで一生懸命、介護に取り組む人ほど、苦しい気持ちも多いのかもしれない。気持ちをうまくコントロールする方法を伝授してもらう。
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介護中、認知症の家族に対して「殺意」が芽生えたり、ふと頭をよぎったりしたことがありますか?
毎日新聞の調査で在宅介護者245人にアンケートを取ったところ(毎日新聞2016年4月4日掲載)、介護している家族を殺したい、一緒に死にたいと考えたことがある人が48人と約20%もいたそうです。介護に疲れ果てたとき、将来への不安を感じたときにそういう気持ちになるという結果が出ています。
なぜ「殺意」は生まれてしまうのか、どのように「殺意」を消し去ればいいかについて、わたしなりの解決方法をお話します。
「一生懸命頑張ってもなかなか報われない」という気持ちの先に…
認知症介護をいくら頑張っても、どれだけ自分の時間を犠牲にして献身的な介護をしても、親族や当人から優しい言葉をかけてもらえるわけでも、報酬がもらえるわけでもありません。報われないことだらけの介護環境に、疲弊してしまいます。そんなとき、ふとこんなことを考えたりするのではないでしょうか?
・何を言っても分かってもらえない、いっそのこと殺してしまいたい
・この人を殺せば、介護から解放される
・もう限界だ、1秒でも早くこの介護から逃げたい
「薬を母親に飲ませるとき、グッと口に押し込もうとした」という介護仲間や、「包丁を持っているときに『あんたが盗ったでしょ!』と妄想を言われ、包丁を持つ手にグッと力が入ってしまった」と書き込まれたわたしのブログへのコメントなど、日々の小さな出来事が「殺意」へと変わったという例を耳にします。
こういった行動は、やがて自己嫌悪へと変わったといいます。
「殺そうなんて、どうかしている!」
殺意を持った自分が嫌になり、自殺や心中が頭をよぎったという介護仲間の話を聞いたことがありますし、精神状態がおかしくなったという人もいます。真面目で責任感が強いから、このような葛藤があるのだと思います。
認知症介護殺人・心中事件の悲劇を招かぬために
認知症介護による殺人事件は、依然として後を絶ちません。ニュースを見るたびに、一生懸命頑張った介護者の大変さ、亡くなられた方の無念さを感じずにはいられません。
わたし自身、祖母と母、2人の認知症介護をしていたときに、「死んでくれたら、この認知症介護は終わる…」と思ったことは何度もあります。そう考えたあと、自己嫌悪に陥ったことも数え切れません。
一方で、「人を殺したくない」「自殺で自分の人生を失いたくない」「何より母は死にたいと思ってない」とも思いました。
だから、殺意が生まれても仕方ない、それくらいになることがあっても普通と思えるようになってからは、だいぶ楽になりました。
人生を介護一色にしては、もったいない
人生は認知症介護だけではありません、他に楽しいことはいっぱいあります。
それを認知症介護一色で染めてしまうのは、あまりにもったいないと思いませんか? そうならないよう努力することが、実は認知症介護において最も大切だとわたしは思います。
わたしが考えた殺意を消し去る5つの方法
・孤独にならない
・人に頼る(頑張らない)
・介護仲間を作る
・睡眠時間を確保する
・今を大切にする
孤独にならない
懸命に頑張る介護者は、ひとりでなんでもやろうとするのではないでしょうか。介護保険サービスを使わない、施設に入れる選択肢を考えないなど、とにかく自分で介護を抱えてしまっている人も多いように思います。
人に頼る(頑張らない)
わたしは、介護のプロと話したとき、”こんな介護の仕方があったのか”と驚き、自分ひとりの介護なんてちっぽけなもの気づかされたことがあります。
介護仲間を作る
介護生活では、社会から隔離された気になったり、隠しておきたいという気持ちになったりしますが、同じように苦しんでいる人は想像以上に多いです。隠し事を抱えながら生きるのは辛いですが、オープンにしてみると身近にも同じ境遇の人はいるものです。
親しい友人には介護経験がないし、距離が近すぎて相談しづらいという方も、ネット上にいる第三者には気軽に相談できるのではないでしょうか? また無料電話相談を使って、プロに頼るという手もあります。
睡眠時間を確保する
睡眠不足も精神的に追い込まれる要因の一つだと思います。十分な睡眠を確保するにはどうしたらいいか、これをケアマネージャーと相談してみるといいでしょう。わたしの場合はケアマネージャーだけでなく、医師、訪問看護師、デイサービス相談員など、頼れる人すべてに相談するようにしています。
今を大切にする
将来への不安に押しつぶされるよりも、今この瞬間を大切にしましょう。未来は誰にも分からないし、明日にだって介護が終わる可能性もあります。分からないことにエネルギーを使うくらいなら、今を楽しんだほうがいいです。
人に頼ることは決して恥ずかしいことでないし、自分が倒れてしまったり精神状態が不安定になったりすることは、認知症ご本人も不幸にしてしまいます。
誰でもいい、今の介護について話してみてください。自分が見えている認知症介護の世界が、実はほんの一部だということに気づくと思います。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)