寝ないと認知症になる?その因果関係と“睡眠”の役割を脳神経外科医が解説する
「寝ないと認知症になる」──医学的にこうした説がある。ただ、「睡眠と認知症の因果関係を証明するのは難しい」と脳神経外科医の東島威史さんは言う。そもそも、なぜ人は眠るのか。その役割とは? 東島さんの著書『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
東島威史さん
脳神経外科医。医学博士。専門は機能脳神経外科(脳神経外科専門医・指導医、てんかん専門医)。トゥレット症候群やイップスなどの希少疾患をはじめ、パーキンソン病やてんかんに対する脳手術を多数経験。実際に脳に触れ、切除し、電気刺激をする経験から脳機能を学ぶ。臨床の傍ら研究費を取得し、大学の研究員として脳機能研究も精力的に行う。2019年から横浜市立大学附属市民総合医療センター助教、2025年より横須賀市立総合医療センターに「ふるえ治療センター」を設立、センター長を務める。また、プロ麻雀士の顔ももち、脳の機能と活性化について臨床研究にいそしむ。2020年から子ども麻雀教室で行った研究で「子どもが麻雀をすると知能指数が上昇する」ことを示し、心理学のジャーナルに論文を発表した。著書に『頭がよくなる! 子ども麻雀』(世界文化社)がある。
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なぜ人は「眠る」のだろう?
ライオンのたてがみは「メスにモテるための進化」であり、フグの毒は「敵に食われないための進化」だ。生物は基本的に、「繁殖」と「生存」がうまくいくように、カスタマイズを繰り返し、進化してきた。
イルカやクジラが右か左か半分の脳でしか眠らないのも、渡り鳥が大移動中は眠らずに飛び続けるのも、「生存」のためだ(43分は眠るという説もあり)。
では、人間はどうだろう?
「意識がなくなり、体の反応性が低下して動かない」
これが睡眠なのだから、寝ている間は完全に無防備になる。
アフリカ大陸に生まれ、道具も火も知らなかった頃、体が小さく力も弱い僕たちの先祖が草原でぐうぐう眠っていたら、他の動物に食われる確率はぐんと高くなっただろう。それでなくても、ウサギでも眠ってしまえばカメにだって追いぬかれる。眠っている間は、基本的には生産力も低下する。
つまり「生存」を考えれば、イルカや渡り鳥のように、24時間眠らずに動き回っているほうがいいし、「眠らないほうが進化に有利」だと感じる。
それなのに人間は眠る。なぜ、人間ばかりか多くの生物は「眠る」のだろう?
繁殖と生存は進化の大きな動機だが、ときにトレードオフの関係にある。
たとえば、クジャクの美しい羽は、目立つゆえに「異性にモテるチャンス」は増すが、同じくらい「敵に狙われるリスク」も高まる。結局、クジャクは生存と繁殖を天秤にかけて、「モテ」を選んだという説がある。
その例に倣って考えると、睡眠には「敵に食われるリスク」があるが、それを上回るメリットがあるはずだ。
「眠り」の役割と「不夜脳」
睡眠の研究は始まったばかりで、まだ未知の学問分野だ。
そこでほとんどは「仮説」だが、「睡眠の役割」としてわかっていることはある。
1.体のメンテナンス
2.休息
3.老廃物の除去
4.記憶の定着
睡眠中の体内ではホルモン分泌が活発化し、副交感神経が優位になるなど、さまざまな生理的変化が起こる。
日々できている異常コピーされた細胞(がん)を除去したり、DNAを修復したりと、確かに体のメンテナンスは行われている。
「睡眠ホルモン」と言われるメラトニンには抗酸化作用があるし、「成長ホルモン」は骨、筋肉、皮膚を強化・修復する。
あたかも就業時間が終わり、誰もいなくなった暗いオフィスで、密かにメンテナンスが行われているように──というのが「一般的な説明」だ。