認知症の母が暮らす実家に帰省中「10分だけ留守番してもらったら…」息子が後悔した理由と活用中のアイテム
岩手・盛岡の実家に暮らす認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。月に2度ほど帰省してしばらく実家に滞在し、料理ができなくなった母のために夕食の準備をしている。東京に帰る前に「母といつもより豪華な食事をしよう」と思ったある日、「10分だけ」と家を留守にしたら――。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(83才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/ Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
実家に帰省中「10分間」外出した理由
遠距離介護のため、岩手の実家に帰省していた最終日の前日のことです。
デイサービスから帰宅した母を、わたしはいつものように玄関で迎えました。台所で手洗いとうがいの介助をしてから、居間のコタツに入ってもらいました。その後、夕食の準備に取りかかりました。
帰京前の夕食は、いつも豪勢にすると決めています。ひょっとしたら「これが最後の夕食になるかもしれない」と考えてしまい、貧相な食事で終わるのがイヤだからです。
そう考えてしまう原因は、亡くなった父の介護です。余命1か月と言われたあとも遠距離介護を続け、帰京する前には毎回「これが最期になるかもしれないから、父の姿をしっかり目に焼き付けておこう」と思っていました。あの感覚が今も残っているせいで、母に対しても同じように考えてしまいます。
この日の豪勢な夕食は、いくらやウニも入った少しお高めのスーパーのお寿司。一時的に冷蔵室に入れて、台所のテーブルには2膳の箸と小皿を並べました。母がよくこぼすので、エプロンも用意しました。
帰京する前には、必ず在庫の確認もします。紙パンツの残り枚数を数え、栄養補助飲料や洗剤などの日用品も見て回り、次回の遠距離介護に合わせてネットで発注します。
在庫管理を徹底しているので、欠品はほとんどないのですが、このときは尿取りパッドが少なくなっていました。数日前に、デイサービスにパックごと持たせたためです。次回の帰省までの2週間で、おそらく底をついてしまうでしょう。
母には、パンツタイプの紙オムツ(紙パンツ)に尿取りパッドを併用し、汚れたらパッドだけを交換するようにしています。なので、パッドがなくなってしまうと紙パンツだけで過ごしてもらうことになり、コストもかさみます。
夕食前で、まだ太陽は沈んでいませんでした。暗くなる前に、近所のドラッグストアへ買いに行こう! そう決めました。
猛ダッシュでドラッグストアへ向かった
母は居間の定位置、座椅子に座ってテレビを見ていました。実家からドラッグストアまでは、自転車で往復10分です。その間、母は動かずにいれくれるだろうか…。
というのも、母が重度の認知症になった今でも「息子のために夕食を作るのは自分の役目だ」と思い込んでいるからです。料理ができなくなってからも台所へやってきて、冷蔵室から食材を取り出し、食器と一緒にテーブルへ並べます。そして、夕食ができたと思っているのです。
あまりに繰り返されるので、最近は冷蔵室の食材は野菜室に移し、冷蔵室はほぼ空にしています。さらに、野菜室と、母が好きなアイスなどを入れている冷凍室には、赤ちゃん用のグッズとして販売している「ベビーガード」で扉を開けられないように対策したり、食器類は鍵がかかる部屋に置いたりしています。
もしも「30分以上」家を空けるとしたら、お寿司も小皿も避難させてから出かけますし、母が階段を昇り降りして骨折などをしないために、階段の入口には「ベビーゲート」も設置してあるので、そちらも閉めておきます。
しかし、たったの10分。テーブルの上の小皿は目立つ場所にあるし、冷蔵室には2人前のお寿司もある。どうする? お寿司や小皿を隠してから出かけるべきか、いや、そのまま行くべきか――。
悩んだ末に、そのままにしてドラッグストアへ向かうことにしました。
10分後に起きたこと
猛スピードで自転車をこぎ、店内でもダッシュで尿取りパッドを手にとってレジへ。会計を済ませると、また全速力で実家へ戻りました。かかった時間は、ぴったり10分。
帰宅後に台所をのぞいてみると、小皿もエプロンも消えていました。冷蔵室を開けると、お寿司もありません。
どこへ行ったのかと見回すと、居間のコタツの上にお寿司と小皿、エプロンまできれいに並べられていました。
「食材を並べるくらい、好きにさせてあげればいいじゃない」と思われる読者さんも多いかもしれません。1度や2度なら、母の好きなようにしてもらいますが、何度となく繰り返すようになり、ただ並べるだけで済むとは限らないのです。
母はお寿司を食材として認識できていないため、引き出しやコタツの中に片付けてしまう可能性もあります。
以前、引き出しから「ちくわ」が出てきて驚きました。ちくわは傷む前に見つけられてよかったのですが、もしお寿司だったら、とんでもないことになるかもしれません。
また、過食や異食の恐れもあります。過去に母は1リットルの牛乳パックを一気飲みしたり、冷蔵庫の脱臭炭を食べてしまったりしたことも…。母の体調にも影響があるため、ロックをしていない冷蔵室には食材を入れないようにしています。
今回は久しぶりに冷蔵室にお寿司を入れていたのですが、わずか10分の間に母は冷蔵庫を開け、居間へ運んでしまいました。まだ食事の準備ができるのは嬉しいことではあるのですが、もし冷蔵室にほかの食材があったとしたら、おそらく母はそれらの食材もすべて取り出し、あちこちに片付けてしまったでしょう。
認知症の母から目を離すと、小さな子どもと同じで、一瞬の隙に何かが起こります。母は子どもほど俊敏ではないので助かりますが、予想外の動きをするところは同じかもしれません。
「わずか10分なら大丈夫かもしれない」と思って外出しましたが、考えが甘かったと少し後悔しています。
とはいえ「一瞬でも目を離してはいけない」と考えながら介護をしていると、自分に大きなストレスがかかってしまいます。だからこそ、母の安全を考慮してベビーガードやベビーゲートを設置してきました。
これからもストレスを溜めずに長く介護を続けていけるよう、介護に取り入れられる便利な道具を積極的に活用したいと思います。
今日もしれっと、しれっと。
