認知症介護の《防災対策》備えや声かけ方法は?家族が覚えておきたいポイントを認知症ケア専門士が指南
近年、地震や豪雨などによる自然災害が頻繁に発生している。認知症を患っている高齢者や介護中の家族はどんな備えをして、どのように対処すればいいのだろうか。日頃から備えておいたほうがいいことや、避難時の声のかけ方など、認知症介護における防災の心得や基本を専門家に伺った。
教えてくれた人/井口千賀子さん
介護福祉士、認知症ケア専門士。特別養護老人ホームやグループホームなどでユニットリーダーとして長年勤務。施設の利用者から「たまにはお出かけしたい」「お墓参りがしたい」などの声を多く聞き、2023年に介護タクシーと訪問介護サービス事業を展開する事業所『羅心盤』を起業。利用者や家族に寄り添ったサポートを続けている。https://rashinban-konpasu.com
認知症介護における「災害の備え」
「阪神・淡路大震災を経験して思うのが、本当に災害時は想定外のことが起こるということ。高齢者はもちろん、認知症の介護をされているご家族は、いざというときにどんな行動を取ればいいのか、日ごろから考えて準備しておきましょう」
こう語るのは、介護福祉士・認知症ケア専門士の井口千賀子さん。グループホームの管理者を務めていたとき、認知症の利用者の防災対策について知識や経験を深めていったという。まず、どんな備えをしておいたらいいのだろうか。
身元がわかるものを備えておく
「薬を服用されているかたは、お薬とお薬手帳、保険証や身分証明書になるものをまとめてバッグに入れておき、できれば手元に置いておくのがおすすめです。
とくに認知症の場合は、家族と離れてしまったときにご本人が住所や名前を言えなくなってしまう可能性もあるので、身元が特定できるものを一緒に入れておくとよいでしょう」
バッグは別の部屋に保管していると、いざというときに持ち出せなくなる可能性もあるので、さっと持ち出せる場所に置いておくのがポイントだという。
避難時の「迷子」対策を考えておこう
「災害発生時、認知症のかたが恐怖を感じて家を飛び出してしまい、そのまま迷子になってしまうケースもあります。災害時に限らず、ひとり歩きや迷子が心配なかたは、普段から対策をしておくと安心ですよね」
具体的には以下のような対策をしておくといいという。
・よく使うものや持ち物に名札をつける
・靴やバッグなどに連絡先を明記したメモを入れておく
・GPS端末など位置情報を確認できるアイテムを活用する
「杖やよく持ち歩くバッグなど普段から身に着けているものに名札を付けておきましょう。本人の位置情報を特定できる『GPS端末』 は、靴に入れるタイプや、杖やバッグにキーホルダーのように付けておくなどの対策があります。
GPSの利用についてはご家族やご本人の考え方はあると思いますが、災害などの非常時には活躍するアイテムだと思います。自治体によっては、認知症の高齢者を対象に、GPS端末を無料で貸し出しをしている、または補助を出しているケースもありますので、お住まいの自治体の福祉課に問い合わせてみましょう」
※大阪・高槻市「行方不明高齢者家族支援サービス」
https://www.city.takatsuki.osaka.jp/soshiki/35/2465.html
神戸市「認知症高齢者などを対象としたGPSサービス」
https://www.city.kobe.lg.jp/a39067/kenko/fukushi/carenet/ninchisyou/ninchishogpssa-bisu.html
災害が起きたときの行動「家族は落ち着いて声かけを」
「まずはご家族が落ち着いて行動することが何よりも大切です。ご家族が慌てていると、とくに認知症のかたは不安になってしまいます。
災害時こそ慌てずに、まず身の安全の確保をした上で、認知症のかたと接するときは、いつもよりもゆっくり話しかけ、落ち着いて声をかけるようにしたいものです。まずは安心してもらうことが先決です」
避難場所には安心できるものを持ち込む
「認知症のかたの場合、環境が変わると不安を感じやすくなります。できるだけ在宅での避難が望ましいですが、避難所に行く場合は普段から使っていて安心できるものをひとつでも持ち込めるとよいと思います。
ご本人が大切にしているものを聞いてみてください。使い慣れたクッションなのか、肌になじんだひざ掛けなのか、いつも持ち歩く杖なのか、日頃からご本人が大切にしているものをよく観察してみてください」
施設介護の場合、家族の対応は?
施設に入居している場合、家族はどのように行動したらいいのだろうか。
「施設によりますが、施設内で利用者やスタッフの避難や安全確保ができてから、ご家族に連絡をする(または連絡を受ける)のが一般的かと思います。
有事の際の対応について入居時に説明を受けていない場合や、説明書に記載がないか、わからない場合は施設に確認しておきましょう。
私が勤務していたグループホームでは、避難行動はマニュアル化していて、避難訓練も1年に1度実施していました。また、水や食料などの備蓄は管理栄養士の指示のもと、数日分の備えをしてありました。ご家族様には利用者様の全員の無事を確認したのち、ご家族に連絡を入れることにしていました」
震災の経験から学んだこと
井口さんは、幼い子どもを抱えていた1995年、阪神・淡路大震災を経験している。介護福祉士として働いていた当時、暮らしていた自宅の1階部分は大きな被害を受けた。井口さんご家族は2階に住んでいたため、家族全員無事だったという。
「『お母さん!』という息子の叫び声、家中の家具が倒れていく光景は、今でも頭から離れません。あの時、息子が2段ベッドで寝ていて、声だけは聞こえるのですが、物が倒れていて近づけなかったんです。
夫とともになんとか息子を助け出し、幸いなことに命は無事でした。今は息子も40歳になりましたが、あの時の記憶は今でも鮮明に覚えています」
ご経験から「災害の備え」について思うことは?
「あの時は、寝室にいたため、防災用品や食料品など備蓄をしていた部屋までたどりつけない状況で、家具や壁が崩れていて必要なものを取り出すのも困難な状況でした。備えていてもそれが使えないこともあるということを学びました。
災害の規模にもよると思いますし、備蓄を置いておく場所がどこがいいのかは、一概には言えませんが、どこだったら持ち出せるのか、避難ルートや避難行動を何パターンか、シミュレーションしておくことが大切かと思います」
取材・文/本上夕貴
