高齢者の夏の低栄養対策に「アイスはどうなの?」活用のポイントを管理栄養士が解説
高齢者や介護が必要な人にとって食欲が低下しがちな夏の栄養補給は悩みの種。そこで注目したいのが「アイス」だ。デイサービスの利用者から栄養相談を受けている管理栄養士の川鍋仁美さんに、高齢者の低栄養対策に「アイス」を活用する場合のポイントを教えてもらった。
夏場の栄養補給に「アイス」はどうなの?
「暑くなってから、食事量が減ってしまった」「ご飯は食べないのに、アイスなら食べられる」「熱中症予防に飲み物ばかりで、栄養が足りているか心配」
夏の時期の栄養相談では、こうした高齢者の食欲低下に悩むご家族からの相談も少なくありません。食事量が減ると、エネルギーやたんぱく質など、健康維持に大切な栄養素も不足しやすくなります。
そんなとき、家族としては「3食しっかり食べてほしい」と思ってしまいますが、食欲が落ちている本人にとって、なかなか簡単なことではありません。
夏の時期の栄養相談では、よく「食べられるものを、食べられるときに」という考え方をお伝えしています。「食べられるもの」の選択肢のひとつとして、夏場に活用しやすいのが「アイス」です。今回は、栄養補給源としてのアイスの活用法をご紹介します。
「〇〇なら食べられる」は大切なサイン
高齢者の食欲が落ちたとき、まず大切なのは「どんなものなら無理なく食べられるのか」を見つけることです。
栄養相談で「食欲はありますか?」と尋ねると、「あまりない」「何も食べたくない」と否定的な答えが返ってくるときも、「今、何か食べたいものはありますか?」「昔から好きな食べ物はありますか?」と聞いてみると、「これだったら食べられる」と、具体的な食べ物が出てくることがあります。
とくに夏場によく聞かれるのが「アイスなら食べられる」という声です。
アイスは、ひんやりして口当たりがよく、噛む負担も比較的少ない食品です。もちろん、飲み込む力が低下している人の場合は、溶けたアイスが誤嚥につながる恐れがあるので、本人の嚥下機能や食べる力に合わせた配慮が必要です。
食べる力に大きな問題がなく、本人がアイスを好んで食べられるのであれば、低栄養を防ぐための栄養補給のひとつとして活用する価値は十分にあります。
「〇〇しか食べてくれない」と考えるより、「〇〇なら食べてくれる」と考えてみる。そんな気持ちの切り替えも、介護食を継続していく上では大切です。
市販のアイスで「栄養補給」するときのポイント
「栄養が足りないなら、特別な栄養補助食品を買わないと!」と思う人もいるかもしれません。
もちろん、栄養補助食品は効率よく栄養を補えるものですが、普段食べている市販のアイスを間食として取り入れることも、不足したエネルギーを補う助けになります。
何より、「これなら食べたい」と本人が思えることは、とても大切です。
介護食を用意する側がやりがちなのが、栄養バランスを考えるあまり、本人が食べたくないものを頑張ってすすめてしまうこと。その結果、本人にとっても、食事を用意する家族にとっても、「食べること」そのものが負担になってしまうことがあります。
もちろん、バランスのよい食事をとれるのが理想です。しかし食欲が落ちているときは、まず「食べやすいもの」「食べられるもの」を探して提供すること。そのうえで、少しずつ栄養の中身を整えていけばいいと思います。
どんなアイスを選べばいい?
アイスにもさまざまな種類があり、エネルギーやたんぱく質などの栄養成分は商品によって異なります。
一般的な「アイスクリーム(普通脂肪)」は100gあたり178kcal、たんぱく質3.9g。一方、「ラクトアイス(普通脂肪)」は100gあたり217kcal、たんぱく質3.1gです。
ラクトアイスの方が、エネルギーが高い場合もあれば、アイスクリームの方がたんぱく質が多い場合もあり、栄養価は商品によって様々です。
「アイスクリームだから栄養価が高い」「ラクトアイスだから低栄養対策には向かない」と、種類だけでは判断できません。大切なのは、商品の「栄養成分表示」を確認することです。
まずは「エネルギー」(カロリー)をチェック
食事量が全体的に落ちている人の場合は、まず商品のエネルギー(カロリー)を確認しましょう。とくに「一度にたくさん食べられない」という場合は、少ない量でもエネルギーを補える食品が便利です。
ただし、エネルギーが高ければ高いほどよいというわけではありません。普段の食事量や体重の変化なども含めて、その人にとって必要な量を考えることが大切です。
次に「たんぱく質」をチェック
低栄養が気になる高齢者では、エネルギーだけでなく、たんぱく質の不足にも注意したいところです。乳製品を使ったアイスには、たんぱく質も含まれています。
商品によって差はありますが、200ml程度のカップアイスでは1個あたり5~6gのたんぱく質を含む商品も。もちろん、アイスだけで高齢者に必要なたんぱく質を十分に補えるわけではありませんが、「食事はあまり進まなかったけれど、食後のアイスなら食べられた」という場合には、エネルギーだけでなく、数gでもたんぱく質が摂ることができるわけです。
「アイス=甘くてカロリーがあるだけ」と考えず、栄養成分表示を見てみると、選び方も少し変わってくるのではないでしょうか。
また、バニラ、チョコ、抹茶など「味」によって栄養価の優劣はほとんどないので、好みの味を選ぶのがいいでしょう。
栄養成分表示のチェックポイント
購入する前にパッケージの栄養成分表示をチェックしてみましょう。確認するポイントは、【1】エネルギー、【2】たんぱく質、【3】カルシウムや鉄、亜鉛、ビタミンなどの栄養素です。
ただしアイスは脂肪分が高いものもあるため、脂質を控えなければならない人にとっては注意が必要です。また、栄養成分をチェックすること以上に大切なのが、本人が実際に食べてくれるかどうかです。「栄養価の高いものを食べてもらう」ことばかりに目を向けるのではなく、「食べられるもの」を優先し、その上で栄養を考えていくといいでしょう。
市販のアイスクリームで栄養アップ
市販のアイスを活用してさらに栄養アップに。たんぱく質豊富な大豆製品「きな粉」やカルシウムを含む「スキムミルク」などをトッピングして、プラスアルファの栄養を補給。嚥下機能が低下している人は、粉類とアイスをよく混ぜ、むせないように注意して食べるようにしましょう。
抹茶アイス+きな粉
きな粉を加えることで、大豆由来のたんぱく質や食物繊維、カルシウムなどを補うことができます。
チョコアイス+スキムミルク
スキムミルクを加えることで、たんぱく質やカルシウムを手軽に補うことができます。
バニラアイス+フルーツソース(マンゴー)
フルーツソースを加えることで、果物由来のビタミンやミネラルなどを補うことができます。
効率よく栄養補給できる市販の「アイス」も
最近では、アイスのおいしさや食べやすさをいかしながら、栄養補給も意識して作られた商品もありますので、そうしたものを選んでみるのもよいでしょう。
明治メイバランス アイス/明治
1個80mlで100kcal。たんぱく質、カルシウム、9種のビタミンに加えて鉄、亜鉛、食物繊維なども配合した栄養サポートアイス。6個入り680円(メーカー希望小売価格・税込)
https://www.meiji.co.jp/meiji-eiyoucare/products/nutritionfood/meibalance_ice/
MeICE(ミーアイス)/LacuS(ラコス)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに、33種類の栄養素を配合した「完全栄養食」アイス。1個100ml 209kcal、たんぱく質9.7g(きな粉味)。5個入り2990円~
https://item.rakuten.co.jp/lacus/meice/(楽天市場)
https://amzn.asia/d/0c8uCCtO(Amazon)
アイソカル(R) クリア アイス みかん味/ネスレ ヘルスサイエンス
『アイソカル』シリーズの凍らせてもおいしい栄養補助食品。1カップ(50g)で50kcal、たんぱく質(ホエイプロテイン)4.0g配合。24個セット3696円(公式オンラインショップ価格)。
【ネスレ公式】アイソカル® クリア アイス – ネスレ ヘルスサイエンス オンラインショップ
本人が「食べたいものを」
栄養補助食品というと「特別なもの」と身構えてしまう人もいるかもしれませんが、本人が好きな「アイス」なら取り入れやすい場合もあります。栄養設計された商品は、少量でエネルギーやたんぱく質、ビタミン・ミネラルなどを補えるものもあるので、活用してみるとよいでしょう。
もちろん、好きな市販のアイスがある場合には、まずはそちらを利用してみることから始めても大丈夫です。
高齢者の食事を考えるとき、「主食・主菜・副菜をそろえて、バランスよく食べてもらう」ことはもちろん大切です。でも、食欲が落ちているときに、最初から完璧な食事を求めるのは難しいことがあります。
そんなときは、まず「食べられるものから、無理せず口にすること」を優先して考えてほしいと思います。
「ご飯は食べられない。でも、アイスなら食べられる」。そんなときは、まずアイスを食べてもらう。そこから、少しずつ食べられるものを増やしていけばいいと思います。
「食事をちゃんと食べてもらわないと!」と頑張りすぎるより、市販品や栄養補助食品も含めて、まずは「食べられるものを一つ見つける」ことから始めてもいいと思います。
食欲低下は「低栄養のサイン」かも
もちろん、アイスだけで必要な栄養素をすべて補えるわけではありません。食事量が落ちている期間が長くなっている場合や、体重が減ってきている場合には、低栄養の可能性も考える必要があります。
・食事中によくむせる
・飲み込みにくそうにしている
・食べるのに時間がかかるようになった
・体重が明らかに減ってきた
・水分もあまり摂れない
このような変化がある場合は、「アイスを食べていれば大丈夫」と自己判断は危険です。また、持病などで食事療法を行っている場合も、医師や管理栄養士の指示に沿って取り入れるようにしましょう。
夏の食欲低下は、介護する家族にとっても心配なものです。食べられない日が続くと、つい「もっと食べて」と言いたくなります。一方で、食べることが難しくなっている本人にとっては、家族の「食べてほしい」という気持ちがプレッシャーになってしまうこともあります。そんなとき、アイスなら食べられるのであれば、まずはそこから。
もちろん、アイスでなくても構いません。その人にとって「これなら食べられる」というものが見つかれば、それを入口にしてみましょう。大切なのは、食べられるものを入口にして、少しでも栄養を補っていくことです。
「これなら食べられた」というそのひと口を、暑い夏を乗り切るための小さな一歩として大切にしてみてください。
