急増する介護業界の《スキマバイト》「介護の質は保てるのか?」人気の理由や課題を社会福祉士が解説
限られた時間だけ働くスポットワーク、いわゆる「スキマバイト」が介護業界にも拡大している。業界大手のタイミーでは、介護系の求人掲載数は、前年同月比約2.3倍に伸長(2025年10月時点)。その手軽さから需要が拡大しているが、実際のところ介護現場や介護を受ける利用者にとって、どんな影響があるのだろうか。社会福祉士の渋澤和世さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
スキマバイトが増えている理由や背景とは?
ここ数年、介護業界ではスキマバイト(スポットワーク)で働く人が増えています。1日だけ・数時間だけ働くスタイルです。この現象は、人手不足に悩む現場と、柔軟に働きたい人のニーズがマッチした結果ともいえます。専用アプリを使い、スマホから簡単に仕事を探すことができ、履歴書や面接が不要な手軽さや、働いた当日〜数日以内に賃金が支払われるケースも多く、ちょっとしたお小遣い稼ぎとしても人気のようです。
1000万人以上のユーザーを誇るサービス、介護の有資格者向け、無資格でも働ける求人を扱うサービス、訪問介護に特化したサービスなど、実に多くの選択肢があります。
介護現場でスキマバイトをする人が増えている理由として、介護の資格は持っているが、育児や転職などで一度現場を離れた人、夜勤を避けたい、人間関係に縛られず空いた時間だけ働きたいといったニーズにマッチしています。
また、「生活援助従事者」(旧ホームヘルパー3級相当)、「介護職員初任者研修」(旧ホームヘルパー2級相当)は、国家資格である介護福祉士の資格よりはハードルが低いといえます。これらを習得し、副業として短時間だけ介護業界で働くスタイルもあります。
事業者側がスキマバイトを受け入れる背景には、深刻な人手不足に加え、人材採用のコスト問題などが挙げられます。ある大手有料老人ホームの施設長によると、「介護専門の派遣企業は仲介手数料も高い割に、2、3か月で退職してしまうことも多く困っている」とのこと。派遣依存からの脱却は課題だったといいます。採用コストをかけずに直接雇用契約を結べるスキマバイトは、渡りに船ともいえるでしょう。
介護現場の仕事の内容も見直しが進み、「食事の配膳」「清掃」「レクリエーション補助」など、作業を細かく分けることで、短時間だけでも働きやすくなってきているのです。
スキマバイトが介護現場に及ぼす課題を考察
スキマバイトの需要が増えたことで、介護現場ではどんなことが起きているのでしょうか。課題やリスクについて考えてみましょう。
利用者への心理的影響、ケアの質の課題
・心理的影響(不安や戸惑い)、関係性の断絶
毎回職員がかわることで信頼関係が築けず、不安を感じることも考えられます。慣れていない人や見知らぬ人からの介助を拒絶するケースもあるようです。
・ケアの質(情報不足によるリスク)
その日限りの勤務では、利用者の細かい癖や注意点が引き継がれないこともあるでしょう。食事の飲み込みやすさを把握していない場合には誤嚥につながる恐れも。また歩行特性を理解していなければ転倒のリスクも高まります。
受け入れる介護施設側の課題
・常勤職員が都度、業務を説明・指示するという業務負荷が発生するケースも
・秘密保持などの問題
利用者の個人情報や身体状況などに触れるため、秘密保持誓約書の締結が必要ですが、そのあたりが曖昧になっていないかも懸念されます。
ボランティア派遣のスタイルも
介護の有償ボランティアやお手伝いをマッチングする新たなサービスも登場しています。未経験、無資格でも登録可能で、身体介助以外のレクリエーション、傾聴、囲碁将棋の相手、見守り、食事の片付け、季節行事の手伝い、庭の手入れ、ホームページ作成、介護補助など、多様なかかわり方ができます。
こうしたサービスを活用し、介護施設でベッドメイクを経験した知人は、「利用者の部屋にひとりで入って作業を行った」とのこと。引き出しに鍵がかかっていないので、大事なものが入っていないか心配になった」とも語り、今後の課題や問題点もありそうです。
スキマバイトをする人、雇う側の対策
しっかり対策を行っている施設では、マニュアルの共有を徹底しています。初めての人にも短時間で理解できる写真付き指示書の作成や、信頼できる人を探し、優先的に何回も採用するなど運用の工夫もしています。
スキマバイトの活用は、介護の人手不足を救う一過性のものではなく、これからの超高齢化社会を支えるインフラとして定着していくと考えられます。働く人も採用する側にとってよりよい仕組み作り、そして利用者の尊厳や安全が守られる働き方として発展していくことを望みます。
