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プロが教える在宅介護のヒント 在宅医・鈴木央さん<第4回>

[肺炎で入院した75歳・男性の患者さんが退院する場合]

 男性は初めて肺炎を起こし、自宅に近い急性期病院に入院しました。

 入院中は、肺炎という命に関わる病気の治療が優先されます。高齢な人の場合、短期間の入院でも生活に必要な機能の廃用(※注1)や障害が起こる可能性があります。しかし、肺炎の治療が終わったら退院しなければなりません。

 退院後も、入院中から始まっている廃用や障害に対するケアやリハビリテーションを切れ目なく続けることが必要になります。そこで、男性が入院した急性期病院では入院直後から“退院後の療養生活”の準備を始めました。

 医師や看護師が、患者さんがこれからどうなるかという予後予測に基づいて「退院計画」をつくり、退院後の療養を支える環境を検討し、環境づくりを助けることを「退院支援」といいます。入院中、治療と併行して退院に向けた調整を行う病院が増えていることは、まだあまり知られていないかもしれませんね。

 男性は治療の甲斐あって、退院が見通せる時期になりました。

 肺炎は治っていますが、安静にしていた期間が長かったため、筋肉がやせて疲れやすく、歩ける距離が短くなり、食事をとる機能(噛み・飲み込む機能 ※注2)が低下し、入れ歯が合わなくなっていて、入院前と同じ生活ができなくなっています。

 治療のための絶食と、病気による栄養状態の悪化から、まだ回復していません。軽度の床ずれがあり、治っていません。自宅に戻って、意識がはっきりする可能性もありますが、認知機能が低下している可能性もあります。

 入院前、男性は介護サービスを利用してデイサービスに通っていましたが、在宅医療は受けていませんでした。そこで、病院は自宅での療養を希望している患者さんとご家族に、在宅医を選ぶ提案をしました(介護サービスを利用していなかった場合は、退院支援の中で要介護認定を受ける手続きをする提案があります)。

 退院のめどがたち、男性は自宅で療養することが決まり、在宅医も決まりました。

 病院から在宅医に患者さんの病状や障害の内容、日常生活に対する評価などが文書で伝えられました。また、病院は患者さんとご家族に対して行う退院前カンファレンスに、在宅医とケアマネジャーも招きました。

 皆が一同に会して“退院後の療養生活”について話し合う席で、在宅医は定期的な訪問診療の他に、

• 介護保険を利用した訪問看護師による看護観察とケア(栄養・服薬管理と床ずれのケア・予防、意識状態の確認、介護者支援など)
• 介護保険を利用した理学療法士のリハビリテーション(生活動作や移動の機能回復訓練など)
• 医療保険を利用した歯科治療(入れ歯修理と嚥下訓練、肺炎再発予防の口腔ケアなど)

 を盛り込んだ在宅医療計画を提案しました。

 ケアマネジャーは在宅医の提案に基づいて、ケアプランの見直しをすることとし、また、男性がやせていても長身で、介護を担う男性の妻との体格差を考慮する必要があることから、介護しやすい環境を整えるため、住宅改修と福祉用具レンタルの手配をすることを提案しました。

 この頃は急性期病院や、回復期病院や療養病床をもつ病院が退院後の療養生活がスムーズに進むように、退院支援の一環として、必要に応じて自宅をバリアフリーにする改修や、福祉用具の手配などの相談にのる場合もあります。

 地域の急性期病院などの主治医も、在宅医も、患者さんに関わる医療・介護のスタッフも、患者さんとご家族の健康と生活を案じ、医療・介護への要望になるべく添うケアを構築しようとする点で同じです。超高齢化社会となって、数年前からとくに連携が加速しています。

 次回は在宅で療養する人を介護する家族が抱えることが多い悩みについてお伝えします。

※注1 廃用とは長い間使わなかったため、体の器官や筋肉、機能が衰えること。 
※注2 摂食嚥下機能と言う。この機能が低下すると食事がとれなくなるため全身の健康、栄養状態に影響し、誤嚥性肺炎のリスクも高くなるため、「摂食嚥下障害」として歯科や言語聴覚士などの専門的なケアが必要。

鈴木央先生

鈴木 央さん:鈴木内科医院(東京、大田区大森)院長、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長。都南総合病院の内科部長時代には在宅診療部を立ち上げ、在宅医療推進の必要性を実感。1999年、日本のがん緩和ケアの第一人者であった父の鈴木荘一前院長と共に「患者の生活を支える町医者になる」と決め、副院長に就任。同院はその数年前から内科、消化器内科、老年内科の外来診療の傍ら、認知症などがん以外の病気も含めて在宅療養を支える診療所として365日、24時間対応している。「長生きをするための情報はたくさんあるが、どのように最期を迎えるかは情報が少ないですね。皆で、穏やかに逝くためにはどうしたらいいか、考える時代に入ったと思います」。

 取材・文/下平貴子

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