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連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第70回 久しぶりの病院付き添い」

 若年性認知症を50代で発症し、今は特別養護老人ホームで暮らす兄のサポートを長年続けているライターのツガエマナミコさんが綴る日常エッセイ。今回は、先日3回目のてんかん発作を起こした兄と久しぶりに大きな病院を受診したときのエピソードです。

 * * *

1日兄と過ごしました

 久々に兄と病院へ行って参りました。

 入所から1年半、一度もてんかん発作が起こらなかったのに、今年に入ってわりと頻繁に発作がみられるようになったことから、施設の往診医さまとスタッフさまが検討して、「病院で検査をしたほうがいいのでは」ということになりました。

 脳の様子を診て薬の量や種類の指示を得たいというのが、施設側の意向でございます。

 施設職員さまが病院の予約も、介護タクシーの手配もしてくださって、わたくしはただ、朝から施設に行って、兄と一緒に病院へ向かうだけでございました。

「今日は車に乗っておでかけするよ。久しぶりだね~」と興奮気味のわたくしに対して兄は「そうなの?」といつもと変わらぬ落ち着きぶり。わたくしは、施設にしかいられない兄を外に連れ出せることの喜びと、付き添いとして役目が果たせるかという一抹の不安に揺れておりました。

 入所前にはさんざん通った病院ですが、ここ1年半ですっかり当時の記憶を失くし、診療科の場所や病院のシステムがおぼろげだったからでございます。

 快適な介護タクシーに乗ること1時間以上。工事渋滞などがあり到着したのは予約時間ギリギリでございました。兄はうつらうつらしては、ときどきドライバーのようなクールな顔つきをしてフロントガラスから見える景色を眺めていました。突然てんかん発作が起こったらどうしよう…という不安をよそに、無事に病院に着きました。

 病院でのわたくしはちょっとした“浦島太郎”でございました。1年空くと初診扱いになることも知らず、いきなり神経内科の窓口に行ってしまい「ここではなく、まず下の初診窓口に行ってください」と言われ、車いすの兄を押して階下に移動。初診用の書類を書き、施設往診医の紹介状をお渡しし、再び2階の神経内科へ。混みあう待合室で大きな車イスの止めどころに苦労いたしました。そして待つこと1時間半。「ああ、これこれ。病院って永遠のように待つところだった」と思い出しておりました。

 順番が回ってきたのはお昼すぎでございます。相変わらず俳優・柄本佑さま似の神経内科医さまは、以前と変わらぬ柔らかい物腰でお話を聞いてくださいました。

 兄の腕や脚の可動域を確かめつつ、「では、今日は血液検査とCT検査をしましょう。その結果を診て、お薬をどうするか決めましょうか」といわれ診察室を出ました。

 数分後に看護師さまの指示で血液検査とCT検査を順番に回りました。いちいち30分近く待たされるのは大きな病院での宿命でございます。お昼ごはんも食べられず、兄はだんだん不機嫌な顔になって、わたくしが微笑みかけてもニコリともしてくれなくなりました。

「お腹空いたよね。これが終わったらコンビニでジュース買って飲もう」と言っても無表情でございました。
検査が終わってジュース休憩をし、再び神経内科へ移動してさらに30分以上待ったでしょうか。CT画像を一緒に診ながら「脳内の空洞はすこし大きくなっていますが、特にてんかん発作を誘発するような血種や腫瘍はありません」とのことでした。ただ、血液検査の結果でてんかん発作を抑制する薬が以前より足りていないことを指摘されました。「薬をすこし増やしてみて、1か月後、また血液検査をして問題がなければ、しばらくそれで様子をみましょう」ということになりました。今の薬は無限に増やせるわけではないですし、増やした分、他の数値に影響も出るのでバランスを診ながら進めることが必要なようです。

 それでも取り急ぎ異常はなく、薬の量で調整することになり、わたくしとしてはホッといたしました。また1か月後に病院に行けなければなりませんが……。

 帰り際に介護タクシーを待つ間、「プリン食べる?」と訊くと、兄が久しぶりにニコニコしたので病院のコンビニでプリンを買って食べさせました。そのときすでに3時過ぎ。介護タクシーが来て、施設に到着したのは4時過ぎでございました。

 わたくしが施設の看護師さまに診察の報告をしている間に、兄はお部屋に運ばれていきました。わたくしが兄のお部屋に着いたときには、オムツ交換が完了し、兄はベッドで横になっておりました。今日一番のリラックスした表情をしていたので、やはり病院は疲れたのだと思います。

 施設のおやつ(栄養入りプリン×2)をペロリと食べ、ジュースもストローでゴクゴク飲んでくれたので、わたくしはほどなく運ばれてきた夕食とすれ違うように帰路につきました。

 一日兄と過ごしたのは久しぶりで、どっと疲れましたが、家に帰れば気ままな一人暮らし。施設のありがたさをまた改めて実感したツガエでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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