「若い妻が生活を支えてくれているが肩身が狭い」年金暮らしになった70歳男性を毒蝮三太夫が励ます|「マムちゃんの毒入り相談室」第75回
「男は一家の大黒柱になるべし」という感覚は、まだまだ根強い。3年前に仕事をリタイアして、収入は「雀の涙」の年金だけになった70歳の男性。生活を支えてくれているひと回り以上若い妻の態度が、どんどん冷たくなってきたという。「つまんないプライドは捨てて胸を張れ」と励ましつつ、夫として今できることは何かを説く。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「年金生活になり生活費の大半を妻に頼っていて肩身が狭い」
暑さはさすがにピークを越えたようだけど、これからの時期は台風が心配だ。ちょっと前から「線状降水帯」って言葉も、よく聞くようになった。台風の進路と関係なく発生して、いきなり大量の雨を降らせるんだからタチが悪いよな。
9月1日の「防災の日」は過ぎたけど、台風にせよ地震にせよ水害にせよ、日頃からきちんと「備え」をしておくことが大事だ。何かあったらどこに避難するか、どうやって連絡を取り合うか、折に触れて家族や子どもたちと確認しておこう。備えあれば憂いなしだよ。
今回は、リタイアして収入が減ったことを気に病んでいる70歳の男性からの相談だ。
「お恥ずかしながら相談します。私の妻はひと回り以上若いため、現在もフルタイムで仕事をしています。私は3年前にリタイアしてから、収入は年金だけになりました。ずっとフリーランスで仕事をしてきたため、もらえる年金は雀の涙で、生活費のほとんどは妻が出してくれている状況です。
妻は口に出して文句を言ったりはしませんが、なんとなく態度がどんどん冷たくなってきました。先日もエアコンが壊れ、買い換えに数十万円かかったのですが、妻が全部支払ってくれました。請求書を見て『はあー』とため息を漏らす妻を見て申し訳ない気持ちになりましたが、私もない袖は振れません。
これからも妻を頼って暮らすのかと思うと、とても肩身が狭いのです。私が現役だったころは、二人で折半して払うことが大半でした。じつは妻とは、面と向かって生活費の話をしたことがないのです。暗黙の了解という感じで、妻がいつの間にか全部賄う状態になったので、今さら何を言ったらいいのか悩んでいます。アドバイスをいただけたら幸甚です」
回答:「男のプライドに縛られるのはやめよう。感謝や愛情を言葉にして」
あなたの気持ちは、よくわかるよ。オレも古い人間だから、「一家の大黒柱は男」という感覚はある。でも、あらためて考えると、そんなことにこだわる必要はない。今までずっと養ってもらってたわけじゃなくて、ちゃんと働いてきたんだ。自分が先にリタイアする歳になって奥さんとの役割分担が変わっただけなんだから、下を向く必要なんてない。
奥さんが生活費のほとんどを出してくれてるなんて、幸せな状況じゃないか。だからといって「誰に養ってもらってると思ってんの!」なんて言われるわけじゃない。それなのにあなたは、申し訳ないとか肩身が狭いとか、勝手に自分を卑下している。そんなふうに思っていたら、奥さんだってやりづらいよ。堂々と養ってもらわないと。
あなたが引け目を感じてしまうのは、要するに「男としてのプライド」に縛られているからだ。人間、プライドを持つことは大事だけど、時にはつまんないプライドに足を引っ張られることもある。「男たるもの妻を養う立場でいなければ」なんてのは、自分を高く見せたいという自分勝手なプライドだ。そんなもんは、さっさと捨てちまおう。
口の悪い友だちが「ヒモじゃねえか」なんて言うかもしれない。それはうらやましいからだ。奥さんだって自分が働いてダンナを支えていることに、張り合いを感じているんじゃないのかな。もし不満を覚えているとしたら、もっと文句を言ってくるだろうしね。態度が冷たくなっているように感じるのは、自分がいじけてるからだよ。
ヒモっていうのは昔は嫌なイメージだったけど、近ごろはマイナカードだって「ヒモ付き」だ。ヒモは今流行りだぞ。「嫁さんのヒモやってんだよ。いいだろ!」って自信をもってハッキリ言えるようになるといいな。ハハハ。
あなたが今やらなきゃいけないのは、卑屈になって奥さんの顔色を伺うことじゃない。胸を張って顔を上げて、そして奥さんへの感謝や愛情を言葉にして伝えることだ。「君と結婚してよかった。君のおかげで楽しい毎日を過ごせる」と何度も言い続けよう。綺麗だとか可愛いとか愛してるといった言葉も、積極的にかけたほうがいいね。
ジジイの中には偉そうな態度を取ることで、プライドを保っているつもりのヤツがいるけど、それは大間違いだ。いつもニコニコして、折に触れて「ありがとう」「愛してるよ」「すまないね」と言えるのが、本当の意味でのプライドの高さだとオレは思うな。
それから大事なのは、オシャレで健康で若々しくてチャーミングなジジイでいることだ。いろんなことへの好奇心を持ち続けて、話題が豊富で話していても面白い。若い奥さんに愛されているあなたは、今でも十分にチャーミングな人なんだろうと思うけど、これからもそんなジジイであり続けることが、何よりの“恩返し”になるんじゃないかな。
もしかしたら、元気が有り余っているからいろいろ考えちゃうのかもしれない。どうしても引け目を感じてしまうようなら、シルバー人材センターに登録して月に何万か稼いでみるのはどうだろう。奥さんに「これ、使って」って渡したり、そのお金でおいしいものを食べにいったりすれば、きっと喜んでくれるよ。末永く幸せに過ごしてくれ!
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。