「ヘルパーさんにぞんざいな態度をとる父に困っています」嘆く娘に毒蝮三太夫が授けた“3つの言葉”と“3つのベル”|「マムちゃんの毒入り相談室」第64回
人は高齢になればなるほど、自分を変えるのが難しくなる。ヘルパーさんを「おばさん」呼ばわりする昔気質の父親。娘としては申し訳なさでいっぱいだが、何度注意しても態度が改まらない。同い年のマムシさんは父親の気持ちにも寄り添いつつ、介護を受ける側が覚えておきたい「3つの言葉」と、認知症を防ぐ「3つのベル」を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「高齢の父親がヘルパーさんを“おばさん”“お手伝いの人”と呼ぶのを改めて欲しい」
このあいだの総選挙は、自民党と公明党の与党が大敗した。まあ、あれだけ好き放題やってきたんだから、当然の結果だと思うよ。俺は特定の政党を支持しているわけじゃないけど、どこが政権を取るにせよ、とにかく正直者がバカを見ない政治をやってほしいね。
さて、今回は55歳の会社員の女性からの相談だ。父親のことで悩んでいるらしい。
「88歳の父は、現役のころは、小さいですが会社の社長をやっていました。その頃の偉そうな態度がなかなか抜けないのです。私は父の近所に住んでいます。父は独り暮らしで、昨年、病気をしたことをきっかけに要介護認定を受け、今は、要介護1。週に2回ヘルパーさんが来てくれて、食事の支度や掃除のサポートをしてもらっています。ところが父は、そのヘルパーさんのことを『おばさん』とか『お手伝いの人』と平気で言うのです。
父には、『おばさんじゃなくて、〇〇さんと名前をちゃんと言ってください。それにお手伝いの人ではなくて、介護のヘルパーさんだから、お世話になっているのだよ』と事あるごとに伝えていますが、態度は改まりません。ヘルパーさんは、とてもいい方で、そんな父ともうまくやってくださっているようですが、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになります。父にもっと謙虚な気持ちをもってもらうのには、どうしたらいいでしょうか?」
回答:「おとっつぁんに覚えてほしい“3つの言葉”がある」
88歳か。俺と同い年じゃねえか。残念ながら、こういうヤツはいそうだな。ヘルパーさんもきっと腹が立ってるだろうけど、我慢して接してくれてて立派だよ。だけど、こんな失礼な年寄りがいるから、なり手が減っちゃうのかもしれないな。
娘のあなたがハラハラする気持ちはよくわかる。ちゃんと心配してあげてて、よくできた娘だよ。ただ、同い年のよしみで、おとっつぁんの肩を少しだけ持たせてくれ。たぶん昭和11年生まれだと思うんだけど、11年生まれと15~16年生まれじゃ、ぜんぜん違うんだよ。11年生まれは戦争の記憶がしっかり残ってる。いわゆる軍国教育を叩きこまれた世代だ。
そのときに「男はエライ」「男は強くあるべきだ」と教えられた。88歳になってから根本的な性格や考え方を変えるのは、まあ難しいだろうね。もちろん、そのままでいいと言ってるわけじゃない。どんな教育を受けていようが、違う感覚を持った若い世代の、しかもお世話になっている相手に失礼なことを言っていい理由にはならないよ。
俺だって胸に手を当ててみると、時代錯誤な考え方が頭の中にある気はする。ただ、こういう仕事をしていて違う世代ともたくさん付き合いがあるから、早い段階で「今は昔の感覚や常識は通じないんだ」と気づくことができた。ありがたいことだ。でも、会社の社長をやってたっていうおとっつぁんは、気づくチャンスがなかったのかもしれない。
謙虚なジジイになってもらうのは難しいけど、人に対する態度や発言は変えられる。以前、作詞家の阿木燿子さんから、宇崎竜童さんの父親の介護を長くやってた頃の話を聞いた。それこそ昔気質のお義父さんで腹が立つことも多かったらしい。だけど「私はお義父さんの3つの言葉で救われたんです」って言うんだよ。
その言葉は「ありがとう」「すまないね」「惜しいなあ」の3つだ。何かしてもらったら、ちゃんと「ありがとう」と言う。折に触れて「すまないね」とねぎらうことで、相手はホッとできる。介護に失敗はつきものだけど、そんなときには「なにやってんだ!」と怒るんじゃなくて、ニッコリ笑いながら「惜しいなあ」と言えば、お互いに気が楽になるよね。
あなたとしては、おとっつぁんが昔気質であることを逆手にとって「今のままだと男として恥ずかしいわよ。男の意地を見せると思って、3つの言葉を言ってみたらどう?」とすすめてみるといいんじゃないか。「お父さんならできるわよ」とか何とか言って。
この3つの言葉は、これから介護を受けるかもしれない人、つまりはすべての人に、ぜひ覚えておいてほしい。そして、もうひとつオススメしたいのが、認知症を予防する「3つのベル」だ。それは「食べる」「しゃべる」「調べる」の3つ。「食べる」は、生きる喜びや活力に直結している。「しゃべる」っていうのは、人との関りがないとできない。
もうひとつの「調べる」は、好奇心を持ち続けようってことだ。だけどスマホでちゃちゃっと検索するなんてのは、調べるうちに入らない。右から左へすぐに抜けてっちゃう。わからない言葉があったら、せめて辞書を引くぐらいのことはしてほしい。大河ドラマを見て平安時代に興味を持ったら、関係ありそうな本を何冊か読んでみるとかね。
これも、おとっつぁんに教えてあげてほしいし、すべての人に覚えておいてほしい。「3つのベル」を意識することで、自分に警鐘を鳴らしているみたいな気持ちにもなれそうだ。いくつになっても、人生はまだまだこれからだよ。最後の最後まで「昨日よりマシな自分」を目指そうじゃないか。それが、毎日を楽しむ秘訣だと俺は思うな。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『押してはいけない 妻のスイッチ』(青春出版社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
定価:1265円(税込)
青春新書プレイブックス