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介護施設入居者の不快感やネガティブな感情を見える化 AIを活用して感情を読み取る実証実験を実施

 慢性的に人手不足だといわれている介護業界。高齢者とのコミュニケーションは信頼関係を構築する上で最も重要だが、難しい一面もあり、善意ある行動が相手の気に障ってしまい苦情の元になる場合もある。高齢者の感情が少しでも分かれば、興味・関心がある話題で盛り上がったり、トラブルを避けられるかもしれない。そんな画期的な新サービスの開発に向けた取り組みを紹介する。

高齢者の増加に伴い介護人材の確保が急務に

 日本は少子高齢化に伴い、要介護や要支援の認定者数は増加傾向にある。最新のデータ(※)によると、2024年5月時点の要介護(要支援)認定者数は712万人となっており、今後も増加傾向が見込まれる。

 高齢者が増えることにより、介護ニーズへの早急な対応が求められる一方、生産年齢人口(15~64才)の減少により、介護業界では慢性的な人手不足が喫緊の課題だ。

 介護現場の仕事は肉体的・精神的にも負担が大きい。要介護者の感情を正しく理解できないことにより、適切なサポートやコミュニケーションができず要介護者に不快感やストレスを与え、安心安全の確保への支障や介護スタッフの負担を高めるケースがある。

 そのため、要介護者の感情や状況に応じた適切なケアを提供し、入居者の安心安全の確保と介護サービスの品質維持・向上とともに、介護現場で働くスタッフの負担軽減・効率化が急務となっている。

 そんな中、注目が集まっているのが、AI(人工知能)を使い介護施設に入居している高齢者の感情変化を読み取り、予兆を検知するサービスの開発だ。

(※)厚生労働省の「介護保険事業状況報告の概要(令和6年5月分)」

最先端のAIを導入し介護施設で過ごす入居者の感情を見える化

 介護施設入居者の感情変化における予兆を検知し、サービス向上・業務効率化に取り組んでいるのが、日立製作所(以下、日立)とエヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(以下、NTTBP)だ。今回は、介護施設を運営するテルウェル東日本協力の元、入居者の感情変化に関する実証実験を行った。

 実験では、日立が開発した感性分析サービスによるAIエンジンを活用。「好意的」「中立」「悪意的」の3大分類とさらに細分化した最大81種類の中から感情を特定し、相手の行動を分析・考慮して高精度に感情を分析することが可能だ。

 今回の実験では、入居者の映像・音声データより感情の種類を分類し、介護記録やアンケートの結果などと組み合わせることで、入居者のシーンごとの感情と、その感情の要因を分析した。

【介護記録を組み合わせて入居者の感情変化の予兆を検知する実証実験】

<1>感情の観察 

 介護施設特有の環境を考慮し、下記【1】と【2】のシーンにおける入居者の様子を6日間カメラで撮影。

【1】スタッフと入居者が1対1でコミュニケーションを行い、また、衣服の手入れや薬の管理など入居者の個別のニーズに合わせたサポートが必要となる居室の様子

【2】入居者同士が集まり、会話や交流を行う食堂での食事の様子や、健康運動を行う様子

<2>感情の分析

 AIを活用し、撮影したデータの映像と音声から入居者の感情を分析し、各シーンにおいて入居者が7種類(怒り、悲嘆、恐れ、平静、嫌悪、幸福、驚き)の感情のうち、最も割合の大きかったものに分類。

<3>要因の分析

 入居者のプロファイリング情報、スタッフが記入する介護記録、および入居者の感情に関するアンケート結果(※2)を撮影データの分析結果と組み合わせることで、どのようなシーンでどのような感情になるかを把握し、不快感やネガティブな感情変化を示す要因を分析。

(※2)アンケートはスタッフが入居者にヒアリングしながら各シーンにおける感情を7種類(怒り、悲嘆、恐れ、平静、嫌悪、幸福、驚き)に適切に分類し記録。

 感情分析の結果は対象者の感情と約75%の精度で一致することに成功した。その有用性から、2024年度中のサービスの事業化を推進していくという。

 具体的には、入居者の機嫌を損なう可能性があるワードやケアを予めスタッフが事前に把握することで、入居者の急激な感情変化を防ぎ、入居者の安心安全の確保、ケアの質の向上、スタッフの負担軽減を支援するサービスを目指す。

 日立の担当者は「よりお客さまに活用いただきやすい環境の整備に向け、介護事業者などとの提携を拡大していきます。そして、介護現場における課題解決を通じて、人々の生活の質の向上やウェルビーイングな社会の創造に貢献していきます」とコメントしている。

 高齢者に必要な援助を提供する介護の仕事は、今後さらに必要性が高まる。毎日の生活やビジネスシーンに浸透しつつあるAIやロボットの進化のおかげで、入居者の満足度向上や介護業界の働きやすさにも大きく変化していくだろう。

【データ】

日立製作所
https://www.hitachi.co.jp

感性分析サービス
https://www.hitachi.co.jp/products/it/appsvdiv/service/sentiment-analysis

(調査詳細:参画企業各社の役割)

NTTBP:プロジェクト管理と評価、無線をはじめとする通信インフラの構築および提供 

日立:実証の設計、AIエンジンの提供、データ分析および分析結果の評価 

テルウェル東日本:実証フィールドの提供

※日立製作所の発表したプレスリリース(2024年8月6日)を元に記事を作成。

図表/日立製作所提供 構成・文/松藤浩一

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