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健康

重症化すると死に至る「高齢喘息」落語家・桂ざこばさんも苦しんだ病の最新情報を医師が解説

 最先端の研究によって、刻々と変わる医療や健康の常識。昔から正しいとされてきたことも、知らないうちに情報が古くなっていたり、間違った理解をしている場合もある。桂ざこばさん(享年76)も苦しんだ高齢者の喘息、そして誤嚥にまつわる最新の情報について専門医に解説いただいた。

教えてくれた人

大橋博樹さん/医師・多摩ファミリークリニック院長

田中裕士さん/医師・医大前南4条内科院長

肺炎死の7割以上が「誤嚥性肺炎」とろみ剤の使い方に注意

 日本人の死因の第4位を占める肺炎。そのうち、70才以上の肺炎死の7割以上が「誤嚥性肺炎」とされる。

 厚労省の人口動態統計(2019年度)では、誤嚥性肺炎による死者は年間4万人以上に及び、2030年には約13万人に達するとの予測もある。

 通常、口にした食べ物は食道を通って胃に入るが、食べ物や唾液などが誤って気管に入ると「誤嚥」が起きる。

 それを防ぐために有効とされるのが、「とろみ剤」で食べ物にとろみをつけることだが、多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹医師はこう指摘する。

「誤嚥は、食事をした際に気道を閉じて食道を開く『嚥下反射』という反応が加齢に伴って衰えることで起こります。嚥下反射が衰えた人でも誤嚥しにくくするために食べ物にとろみをつけますが、とろみの濃さによっては、うまく飲み込みきれずに喉や口腔内にとろみ成分が残留してしまい、かえって誤嚥を引き起こす原因となる場合があります」

 近年、とろみ剤が市販されていることで、自己判断でとろみをつける人も増えている。大橋医師は「塊になるほどとろみがついている場合は要注意。とろみの濃度は個人の嚥下能力に合わせることも重要ですが、自分で嚥下能力を見極めることは難しいので、不安な人は介護士などに相談してほしい」と指摘する。

嚥下機能を低下させないために噛む力を養う工夫を

 さらに、大橋医師は「年を重ねて柔らかい食事を摂りがちになると、嚥下機能が低下しやすくなる」と警告する。

「日本人は固いものを食べなくなったとよく言われますが、日常の食事で柔らかいものばかり食べていると、噛む力が衰えて嚥下機能が低下します。普段の料理のなかで、野菜に火を通しすぎてトロトロにしないなど、噛む力を養う工夫が必要です」

 誤嚥性肺炎は「一度起こした人は繰り返しやすいという特徴もある」(同前)という。

 とろみに頼らない食事を意識したい。

桂ざこばさんも苦しんだ喘息「患者の55%が60才以上で発症」

 落語家の桂ざこばさんが6月12日、大阪府内の自宅で亡くなった(享年76)。死因は「喘息」だった。

 近年、喘息による死亡者数は年間1000人ほど。子供の「小児喘息」を耳にする機会が多いため、子供の病気というイメージが強いが、意外にも高齢の喘息患者は多いという。

 喘息などのアレルギー疾患の治療を専門とする医大前南4条内科院長の田中裕士医師が語る。

「1997年から2023年まで、北海道の3000人の喘息患者に対して6年ごとに実施したアンケート調査によると、喘息患者の55%が60才以上で発症していました。そのなかには、もともとアレルギー性鼻炎や花粉症を持っていた方もいましたが、それまでにアレルギー性疾患がなかった方が年を重ねて発症するケースが多く見られました」

 喘息は肺に空気を送る気道や気管支の炎症によって発症する。風邪をひいた際に気道や気管支に炎症が起きるケースはあるが、一度の炎症では喘息にはならず、放置して数回繰り返した先に発症しやすい。

 そのなかでも、桂ざこばさんのように重症化して死に至る高齢喘息はどのようなケースか。

「喘息の発作が起きて痰が気管に詰まると、そこから菌が侵入しやすくなります。喘息の患者さんには気管支を広げる薬が処方されますが、薬を忘れたり、切らしたりした時に気管が詰まると、窒息で死に至ることがあります。発作によって心臓に負担がかかって心臓疾患を引き起こすこともある。胸の痛みを伴う『胸痛喘息』という症状もあります」(同前)

高齢者の喘息は重症化して死に至るケースも。咳が続くようならすぐに病院へ

 大切なのは、重症化する前にシグナルを見極めることだ。

 田中医師は「咳の出始めに、ただの風邪だと思って放置しないでほしい」と注意を促す。

「一度は薬で咳が治まっても、2~3回繰り返すことで喘息の発症リスクが高まります。日本呼吸器学会が定めたガイドラインでは、8週間以上咳が続いたら喘息と診断されますが、8週間も経っていないからといって侮ってはいけない。風邪のあとにいったんは咳が治まったものの、寒さや乾燥などをきっかけに再び咳が出始めた場合は、かかりつけ医か呼吸器の専門医を受診することを推奨します」

 高齢者が罹患する病気ではないと自己判断せず、早めに医師の診断を受けることが肝要だ。

※週刊ポスト2024年7月12日号

●しつこい咳を止めたい!医師が教える30のシンプルな方法「咳を誘発する食べ物がある」

●病院清掃のプロに習う健康掃除術【アトピー】【喘息】家庭内予防に効果的な場所別対策法 

●「冷凍した手作り介護食をこたつで解凍はNG」介護食のとろみ剤、作り置き、冷蔵・冷凍保存、解凍の注意点を徹底解説

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