若年性がんのサバイバーが通販サイトに込めた想い「がん闘病中、介護中、シニア…すべての人が“私らしく”輝く暮らしを」
若年性がんの発病から治療までのご自身の体験を元に、ケア介護用品のブランド『KISS MY LIFE』(株式会社TOKIMEKU JAPAN)を立ち上げ、若き起業家としても注目を集める塩崎良子さん。「いつだって私らしく」という思いを秘めながら、昨日も今日も、そして明日も、“心ときめく素敵なファッション”を開発・デザインする岩崎さんにインタビュー、開発する商品への想いを伺いました。(聞き手/堀けいこ)
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「病気なんだからしかたがない」のではない
――『KISS MY LIFE』のオンラインサイト、ファッション雑誌のようなおしゃれな写真が並んでいて、とても楽しく拝見しました。
塩崎:25歳でアパレル会社を起業、セレクトショップやドレスのレンタルショップを経営していたのですが、そのとき、お店に来るお客さまを素敵なディスプレイでお迎えしようといつも考えていました。その頃の思いに通じるものがあるかもしれません。
―― 品揃えがとても豊富です。どんな方に向けの商品を扱っているのか、具体的に教えてください。
塩崎:扱う商品のカテゴリは、3つあります。まず、「がんケア」が必要な方に向けての商品。次に、最近、足腰が弱くなったなんて感じているような「シニアの方」や「介護が必要な方」のためのラインナップ。3つ目が「男性向け」の商品です。
―― 最初に作ったのはどういったカテゴリーですか?
塩崎:医療用のケア帽子や乳がん用の下着など、「がんケア」から始まりました。私は、7年前に若年性の乳がんを発病し治療を受けていたのですが、当時、がん患者のためのアパレル商品は一律のものばかりで、素敵だなと思うものがありませんでした。病院の売店などで買ったものを、仕方なく身に着けていたのですが、そのうち「病気だから仕方がないんだ」「このままでは自分らしさがなくなってしまう」と思い詰めるようになってしまいました。
その時の自分を振り返り、患者さんが「ずっと自分らしくいられる」お手伝いができればと思い、まず、ファッションアイテムとしてもおしゃれに被ることができるケア帽子をデザインしたんです。頭の形を綺麗に見せるディティールや被っていることを忘れる自然な被り心地などさまざまな工夫を施しています。
シニアや介護向けの商品の開発・販売も
―― オンラインストアでは、レース使いの乳がん用ブラやプリント地をあしらった素敵なパジャマ、他にも気持ちが明るくなるような「がんケア」用のアイテムが並んでいますね。現在では、「シニア・介護」「男性向け」と扱うアイテムが広がっていますが、きっかけは何だったのでしょうか?
塩崎:「シニアや介護向けの商品も作って欲しい」というお客さまの声をいただくようになったんです。私自身、病院の中で杖をついたシニアの方や車椅子を利用される高齢の方などをよく見かけるのですが、みなさん、同じような介護用シューズだったり、似通った色や形のステッキを利用されているのに気づきました。ケアが必要になった方、そして支える方にも彩りのある毎日を過ごしてほしいそんな想いをデザインにこめて機能性とデザイン性を兼ね備えた商品を作り、もっと、選べる楽しさをみなさんに感じてもらえるといいなと思いました。
―― さらに、男性向け用品の充実もはかられています。
塩崎:「介護用品として販売されている食事用エプロンやパジャマを、威厳のあるお父さんに着せたくない」というお客様のお声が届きました。男性向けの商品は、どちらかというとご本人より、身近にいる方が商品の選択肢が少ないと感じていらっしゃるようです。また、まさに「転ばぬ先の杖」として、機能性を兼ね備えたお洒落な杖も販売しています。「杖をつきたくないという」とおっしゃるシニアは多く、特に男性はなかなか受け入れられないのだそうです。
―― プライドもあるし、見栄えの問題かもしれせんね。
塩崎:じゃあ、ダンディに見えるものを作ろうって、材質にもこだわった木製のメンズステッキも開発したんです。購入された娘さんから、「父の威厳を守れました」という声をいただきました。
自分が自分ががんになって、思い出したことがあるんです。それは15年ほど前になりますが、がんを患っていたおばあちゃんが認知症も発症してしまい、自宅で母が介護をしていた時期がありました。その頃、高校生だった私は、なんとなくですが、おばあちゃんの部屋に入りたくないって思っていたのです。着ているパジャマもいかにも病人ぽかったりして、元気な頃のおばあちゃんとのギャップが大きくて、見たくなかったのかもしれません。そういう気持ち的なところも、ある程度、ファッションの力で解決できるんじゃないかと思っています。
介護用商品は、機能や素材に配慮しながらデザインでおしゃれに
―― 介護が必要な方のための服には、どんな工夫がされているのでしょう。機能性への配慮も必要ですよね?
塩崎:たとえば、介助や介護が必要な方は背中が曲がっていることが多いので、後身頃を長くしています。お肌は、敏感で乾燥しやすいので綿素材を使うとか。横になっているお時間も長いことを想定して、お肌に触れないよう、縫い目を内側に入れないようにしたり、素材も柔らかなガーゼを使ったりします。また、病室や介護施設にいらっしゃる方に向けては、同室の人など、他の人の前でも着替えやすいよう、作りを工夫するなどしています。
―― 環境や状況によって必要とされる機能を持たせるためには、素材選びやカッティング、縫製などに気を使いますね。
塩崎:その部分は、正直、とても大変です(笑い)。でも、機能性、安全性を担保した上で、デザインでどうおしゃれに見せるか、そこが私たちの、腕の見せどころ。すごくこだわっているところでもあるのです。
―― おしゃれに見せるために、例えば、どんな部分でこだわっていますか?
塩崎:そうですね、生地も柄もゼロから作っているところでしょうか。
―― “『KISS MY LIFE』オリジナル”の生地ということですね。
塩崎:はい。この生地にこういう柄をプリントするときれいなんじゃないか、とか。私を入れて3人のデザインチームでアイディアや意見を出し合います。介護用品には、トレンドも季節感もないのが一般的なのですが、私たちは、年間を通して同じ素材を使う製品でも、春には春らしい彩りを、秋には秋っぽい色合いや柄でデザインを起こして、季節を感じられるテキスタイルを使っています。なので、頻繁に柄が新しくなったりします。
さきほど、男性用の杖のお話をしましたが、私どもは、杖の開発にとても力を入れているんです。ボンボンステッキという、とても人気のある女性用のステッキがあるのですが、そのステッキの柄(え)の部分は、塗装ではなく、オリジナルのプリントを施した生地をリボン状にカットして巻き付けてあります。それは、塗装だときれいな色や模様が出ないからなのです。
―― 1本1本そういった思いを込めて、製作されているのですね。一つの商品を開発されるまでの工程も大変ですね。
塩崎:実は、私の母が“杖をつかない事件”ということがきっかけで生まれた商品なんです。
―― 事件、ですか。
塩崎:はい(笑い)。母が膝を痛めて歩行が困難なったとき、頑なにステッキを使わなかったのです。転倒しちゃうんじゃないかって心配でたまりませんでした。その話をまわりの人にしたら、「うちの親もそう」という声がけっこうあったのです。それなら、歩くのが楽しくなるようなステッキを作ろうって、デザインをがんばりました。
―― ステッキに限らず、デザインはもちろん、素材作り、縫製などの製造工程などにもとても手間暇がかかっています。それなのに、価格はリーズナブルです。
塩崎:私はがんになり入院と治療が必要となった段階で、それまで頑張っていた仕事を辞めました。まだ若かったこともあり、あまり貯金もありませんでしたからケア用品にお金をかけることができませんでした。闘病中の方や、ケアを受けている方に役立つ商品をお届けしたと願っていますので、価格は自分たちの都合でつけず、この品質であれば納得できる、お客さまの目線で決めるようにしています。
デパート品質の商品を手に取りやすい価格で
―― 品質と価格のバランスを取るのも大変そうです。
塩崎:品質で目指しているのは、良い物を見極める目がある方も手にとってくれるようないわゆる“デパート品質”です。でも、デパートより求めやすい価格にするための努力をしています。例えば、「ここまでの機能はいらないから、もっと安くして」といったお客さまの声から検討をして、不要な機能は省くなど、かなり考えながら物作りをしています。
また、私たちの会社と連携している商社が、素材の調達や工場などとの生産工程の部分でご尽力してくださることも、価格のコントロールができている理由の一つです。「私たち、けっこう頑張っているかな」と思っています(笑い)
闘病中の自分を変えた「院内ファッションショー」
―― 塩崎さんはここまで頑張れる、その原動力になっている何かがあるのでしょうか。
塩崎: そうですね…。現在のこの仕事をするようになった、ある種、転機の一つとなった出来事があるんです。それは、私がアパレル関係の仕事をしていたことを知る主治医から、患者さんをモデルにした院内ファッションショーをやってみない、と声をかけられたことでした。
闘病生活を送る私は、それまでのいつも謝ってばかり。両親が病院で付き添ってくれれば「ごめんね」。友達がお見舞いに来てくれたときも、わざわざ来てくれたことに「ごめんね」。さらに、働かざる者食うべからずではありませんが、仕事が途絶えてしまっていたので、いつも他人様に迷惑をかけているような気分で惨めな心境にも陥っていたんです。
そんな私がファッションショーの企画をやることになり、そしてそれが大成功だったんです。モデルになってくれた患者さんなど、たくさんの方から「ありがとう」って言われて、そのとき、感じたのです。誰かに「ありがとう」って感謝されることって、なんて素敵なことなだろうと。人って、何かしらの役に立っていたいものなのかな、って。あのときの「ありがとう」が支えになって、今も頑張っていられるんだと思います。
次回は、「見やすく、選びやすく、魅力的」なオンラインストア作りの工夫や、今後の抱負ついてを引き続き、塩崎さんにお話を伺います。さらに、クリスマスや年末年始などの冬の贈り物におすすめの品を紹介します。
取材・文 堀けいこ
【データ】
KISS MY LIFE 公式オンラインストア
https://www.kissmylife.jp/
電話:0120 684 256