「故人にまつわるデータを保管、呼び出して墓参り」「仮想空間にアクセスし、バーチャル霊園で悼む」… 進化する最新【お墓】事情と注意点、その是非
「多死社会」が進む日本で、墓の管理に苦慮し、墓をたたむ「墓じまい」が注目されて久しい。樹木葬などの自然葬も一般化しているなか、墓はさらに新しい時代を迎えている。データを呼び出して墓参り、仮想空間で故人を偲ぶ――「デジタル墓」はありか、なしか。偲びのスマート化について、専門家に教えてもらった。
教えてくれた人
ジャーナリスト・デジタル遺品を考える会代表 古田雄介さん
スマートシニア株式会社 プロジェクトリーダー 山崎修さん
現代社会で墓の形も多様化
昨年1年間に国内で死亡した日本人はおよそ156万人と、統計を取り始めて以降、過去最多となった。2040年には167万人にまで達すると見込まれており、資産や身寄りがない人の葬祭費を行政が負担するケースも急増。そうした無縁遺骨が増加する多死社会の一方で、墓の数は減り続けている。
政府の統計によると、2021年度の改葬(墓じまい)の件数は、全国で合計11万8975件に上り、20年前に比べ約2倍となった。墓を継ぐ人がいない、管理しきれない、維持費が負担になるなど背景にはさまざまな事情があり、近年では永代使用料が必要ない共同埋葬や納骨堂のほか、樹木葬、散骨など、墓の形も多様化している。
そんな墓事情に新たな一石を投じたのがデジタル墓だ。いったいどのような墓なのか。
スマホで読み取ると遺影が現れる
ジャーナリストでデジタル遺品を考える会代表の古田雄介さんが説明する。
「写真や動画など、故人にまつわるデータをデジタル空間に保管しておくことで、いつでもどこからでもそれらのデータを呼び出して“お墓参り”ができるサービスです」
データの呼び出し方はさまざまあるなか、利用者が増えているのが、決済などでおなじみのQRコードを使った「QRコード墓」だ。欧米では「デジタル墓石マーカー」などと称され、10年ほど前からサービスが始まったアメリカではいまや墓石の2~3%ほどにQRコードがついているという。
「ヨーロッパなどでは、墓参りの際に故人を偲ぶための材料として情報を得るため、またメッセージを書き込むためにQRコードを利用するという感覚だと思います。あるいはデンマークでは骨壺を個人番号で管理するので、違和感なく受け入れられているのかもしれません。
日本ではこれまで、こうしたサービスがなかなか定着しませんでした。しかし、“○○家の墓”という形のニーズが減っていて、永代供養や散骨、共同墓地でもいいという人が増えている。納骨の場所としてではなく、手を合わせて亡くなった人との結びつきを得る場所がほしいという人にとってデジタル墓はフィットするのでしょう。また、墓じまいをする人のなかには、できるならば墓を残したかったという人も少なくない。故人といつまでもつながっていたい、コミュニケーションをとりたいという需要に応えた存在になっていくのかもしれません」(古田さん)
国内で、今年8月にサービスの提供を開始したスマートシニア株式会社は、「先祖に会えるお墓」を提唱。プロジェクトリーダーの山崎修さんが具体的な使い方を説明する。
「故人に割り振られたQRコードをスマホなどで読み取ると遺影や戒名、人柄を伝えるエピソードなどが紹介されるようになっています。基本的には納骨墓(お墓)があることが前提で、それと連携するために墓石にQRコードを貼ります。
ただ、自然葬などで納骨墓がない場合にはQRコードを刻印した小さな石板を自宅に置いたり、アクセサリーとして身につけることも可能です。メンテナンスの必要がなく、オンラインでお墓参りする機能を追加することもできるので、QRコードをシェアすれば遠方に住む親戚や友人も負担なくお墓参りができます」
長い人生を振り返ることができるよう、故人の写真点数に制限はなく、音声や動画も保管できる。
「得意な料理のレシピ、故人の作品である絵画や写真、大切にしていたペットの写真、それから、実際のお墓への行き方を記した地図なども保管できます。本来、お墓には納骨の場と先祖の追憶をする場という2つの意味があります。近年は納骨の場としての意味合いが強くなっていると思い、先祖とのつながりを大切にし、ほかの人と思い出を共有するために追憶の場としてQRコードによる墓を提案しています」(山崎さん)