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最終回【高木ブーのアロハな日々―僕と家族とウクレレと】第100回「100歳で雷様をやるのが目標です」

「僕の人生は紙の上にまっすぐに引いた線みたいなもの。何も考えずに何も悩まずに歩いてきた」と高木ブーさんは言う。そこには、これまでの道のりへの深い思いが込められている。100回を迎えたこの連載は、今回でひと区切り。私たちの大好きな「レジェンド・高木ブー」は、これからも未来に向かって永遠に歩き続けていく。(聞き手・石原壮一郎)

いろいろ思い出すこともあるけど、今大事なのは次のステージ

 突然だけど、この連載は100回目の今回でひと区切りです。残念だけど、物事には必ず終わりがあるからね。この4年、ドリフのことや自分のこと、ウクレレのことをたくさん話せて、とても楽しかった。この連載から『アロハ 90歳の僕 ゆっくり、のんびり生きましょう』という本が生まれたのも嬉しかったな。読者のみなさんに感謝いたします。

アロハ 90歳の僕: ゆっくり、のんびり生きましょう

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 振り返ると、激動の4年間だったよね。2020年3月には志村(けん)が、2022年10月には仲本(工事)が、別の世界に行っちゃった。4人いたドリフが、今は加藤(茶)と僕のふたりしかいない。そうなっちゃったもんは仕方ないんだけど、寂しいよね。4年間うちのほとんどは、世の中が新型コロナウイルスでたいへんだった時期にも重なる。

 いいこともたくさんあった。2021年9月には『ドリフに大挑戦スペシャル』(フジテレビ)で、23年ぶりに雷様のコントが復活した。同じ年の11月には55年ぶりに日本武道館のステージに立った。武道館でも、ももクロの高城れにちゃんといっしょに雷様をやったんだよね。前からサザンの関口(和之)君と「やりたいね」と言ってた「1933ウクレレオールスターズ」の活動も、同じ頃に本格的にスタートした。

 ここ数年、ドリフターズのコントがあらためて評価されて、若いファンが増えているのもすごく嬉しい。17日にも『ドリフに大挑戦』の第4弾が放送されたけど、若いお笑いの人たちがドリフのスピリッツを受け継いで、今の時代に合わせたコントを全力で披露してくれてる。それを今の子どもたちが見て笑ってくれる。ありがたいよね。

 僕も加藤も、今の自分たちの役割はドリフの笑いを未来につないでいくことで、そのためにできることは何でもやろうと思ってる。いつかまた空の上で全員集合したときに、長さん(いかりや長介)たちが「ブーたん、見てたよ」って言ってくれたらいいな。

 そして、今年の3月には90歳になっちゃった。まわりの人は「コントでもウクレレでも活躍して画集も出して、充実した人生ですね」なんて言ってくれるけど、自分ではそんなふうには感じていない。「何もしていないうちに90歳になっちゃった」っていうのが実感かな。それなりに努力を重ねたこともあったし、休みなしのハードな生活を長く続けたりもしたけど、苦労したとか歯を食いしばってがんばったっていう記憶はないんだよね。

 ずっと流されてきたから、何もしていないと思うのかな。音楽にせよコントにせよ、目の前にある好きなことをしてただけだしね。だから僕は、人生とはこういうものであるとか、偉そうなことは何も言えない。僕を見てもし感じてもらえることがあるとしたら、それは「必死になって無理しなくても何とかなる」ってことかな。

 でも、こういうのって性分かもね。同じような経験をしても、どうってことないと思う人もいるし、苦労したと感じる人もいる。どっちも間違ってないんだよ。僕は自分みたいな取り柄のない男が、ドリフというすごいグループで「高木ブー」をやってこられたのは上出来だったと思ってる。だけど同じ立場でも、不満を抱く人はいるかもしれない。

 僕の人生は、紙の上にまっすぐに引いた線みたいなものだと思う。何も考えずに何も悩まずに歩いてきた。脇道にそれて別の線の上を歩いたら、もっといいことがあったのかもしれない。だけど、自分が歩いてきた道に満足してる。90歳になった今、不満もなく毎日を楽しく過ごせているから、自分にはそういう生き方が向いてたってことかな。

 もうちょっと前は「家族に何を伝えておくか」なんてことも考えたけど、いくら頭をひねっても伝えたいことが出てこないんだよね。僕の背中を見て、もし何か伝わるものがあれば受け取ってもらえばそれでいいや。あっ、孫のコタロウには「僕がいなくなったら、家にあるギターもウクレレもみんなあげる。だけど売っちゃわないでね」とは言ってある。

 あと何年、ステージに立ったりテレビでコントをしたりできるかな。この連載の回数と同じ100歳まではがんばりたい。100歳の雷様が出てきたら、それだけで面白いよね。いろいろ思い出すこともあるけど、今の自分にとって大事なのは次のステージ。これからもウクレレやコントでたくさんの人に楽しんでもらいたいし、やりたいことがいっぱいあるから。

 この夏もステージの予定がちょくちょく入ってる。とりあえずは、7月26日(水)から熊本市の鶴屋百貨店で始まる「志村けんの大爆笑展」のオープニングに駆けつけます。毎月の「ドリフ麻雀」でも、7月は調子悪かったけど、来月は「強い高木ブー」を見せたい。そういえば来年はドリフターズ結成60周年だけど、何かあるのかな。何かあるといいな。これからも引き続き、ドリフターズと高木ブーをよろしくお願いします。マハロ!

→高木ブーさんの連載、他の記事はこちらからご覧になれます

高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)、『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。同チャンネルでは期間限定で「ドリフ大爆笑」の名作コントのデジタルリマスター版を続々と配信している。卒寿を記念して出版された『高木ブー画集RETURNS ドリフターズよ永遠に』(ワニ・プラス、2,700円+税)と『アロハ 90歳の僕 ゆっくり、のんびり生きましょう』(小学館、2,200円+税)が好評発売中! 

イザワオフィス公式YouTube新企画「ドリフ麻雀」は、毎週土曜日午前9時に新たな動画を公開。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

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