冷えによる病気を遠ざける!手軽にできる簡単運動
『冷えを取れば9割治る!』などの著書で知られ、患者さんに体の冷えのアドバイスを行っている「イシハラクリニック」(東京都江東区)副院長、石原新菜先生。冷えを解消するためには適度な運動が必要と話す。ハードなトレーニングではなく、誰でも手軽にできる運動で体温を上げることができるという。その運動法とは?
運動によって体が温まるメカニズム
石原先生は、冷えに悩む患者さんから「体を温めるためには何をしたらいいですか?」と聞かれたときに、保温のための服装や食生活の他に、運動法も教えている。
「冷えの解消には血行を良くすることが第一です。漢方では『気・血・水』の流れをバランスよく整えることが、健康につながるという考え方をします。“気”とは全身をめぐっているエネルギーのことで、“血”は文字通り血液、“水”は水分。特に重要なのは、血液が順調に流れていることです。
血流の改善に一番効果的なことは、運動を行うことです。体を動かすと、体の隅々まで張りめぐらされている毛細血管に、血液が行きわたるようになります。その結果、体温が徐々に上がってきます。体温が上がることで代謝が良くなり、血流はますます促されます」
運動によるメリットはほかにもある。体を動かして汗をかけば、余分に摂りすぎた水分や塩分を排出することができるのだ。
「塩分は健康のために摂取を控えようとする人がいますが、筋肉の収縮、神経伝達、骨の形成、消化液の成分として重要です。塩分は摂りすぎても汗をかけば排出されます。また、水分が体のなかにたまってしまうと、肥満の原因になります。不要な水分は代謝の低下も招き、脂肪が上手く燃焼できなくなってくるからです。運動することは、この『水太り』状態の改善につながるわけです」
運動といっても特に難しいことをする必要はないと、石原先生。そこでオススメの運動法を教えてもらおう。
●速い速度で20分歩く
「一番手軽なのはウォーキングです。1時間も2時間も歩く必要はなく、両手を大きく振って、普段よりも少し早い速度で20分歩くだけでも十分です。連続して20分間歩く時間が取れないときは、朝10分、夜10分と分割してもかまいません。体を温めたり汗をかいたりするには連続で歩いたほうがいいのですが、足腰のトレーニングという意味では10分ずつでも効果があります」
●1日30回のスクワット
「寒さや雨で外に出られないときは、スクワットをしましょう。1日30回程度をこなせば、冷え体質が改善してきます」
家の中ですぐできる運動法
ただウォーキングもスクワットも、実際にやってみるとなかなかハードな運動だ。そこで、もっと簡単にできる体操もあるとのこと。
●もも上げ運動
「一つは『もも上げ運動』です。これは立った状態で片足ずつ、太ももを胸に付けるイメージで上げるのです。胸にしっかりと付かなくてもいいので、できるだけ上げてみましょう。腕で抱えてもかまいません。転ぶと危ないので、背中を壁に付けたり、片手をテーブルについて支えたりしながら行ってください。左右合わせて数回行うだけで、うっすら汗ばんでくるはずです。30回を目標に頑張りましょう」
●座りひざ伸ばし
運動を立って行うのが難しいという人は「座りひざ伸ばし」をするといいそうだ。
「これは、イスに座ってひざから下を、前にまっすぐ伸ばしては下ろすという動作をします。テレビを見ながらでもできる簡単な運動です。左右を交互に30回程度行うだけで体が温まり、汗も出てきます。座ったままなので、高齢者の方でもやりやすいと思います」
体を温める生活で体重減、平熱アップ
食事や運動で体を温めることの効果は、石原先生自身が体験している。
「学生時代は体のことなど考えず、いい加減な食生活をしたりお酒を飲んだりしていました。当時は肩こりや頭痛、生理痛、生理不順、切れ痔、便秘、多汗症、めまい、肌荒れといった、色々な症状に見舞われていました。体重は短期間で6キロも増え、平熱は36.2度。このままではいけないと、体を温める生活を送るうちに、自然に体重は元に戻り、平熱は36.9度になりました。それと同時に、不調がすべて改善されたのです」
石原先生が最近、力を入れているのは「温育」。大人も子どもも冷えについてしっかり学び、健康的な生活を送る知恵を広めていこうという活動だ。
「昔は『子どもは風の子』といわれていました。それは、子どもの平熱が36.5~37.2度と高めだったからです。現代では平熱が35~36度台前半という、冷え体質の子どもが増えています。肩こりや腰痛に悩む子どもたちも、冷えが原因と考えられます。温育によって、これを改善していきたいのです」
石原先生は、子どもたちが冷えている大きな原因のひとつは核家族化にあると語る。
「核家族化によって、古くから伝わっていた知恵が継承されなくなりました。そこには体を冷えから守るヒントもあるんです。『寝るときはお腹を出さない』『お風呂は肩までしっかりつかる』など。かぼちゃを冬至に食べる行事も、真冬に陽性食品を摂ろうということを体験的に知っていたのかもしれません。
私は温活を通じて、日本人が長い間実践してきた『おばあちゃんの知恵』を受け継いで、健康的な生活を送ってほしいと思っているんです」
これから冬本番。石原先生のアドバイスを生活に取り入れて、冷えに負けない体を作っていきたいものだ。
石原新菜(いしはら・にいな)
イシハラクリニック副院長。医師。帝京大学医学部卒業後、大学病院での研修を経て、現在、自然医学の専門家で医学博士の父、石原結實氏が院長を務めるイシハラクリニックで、漢方医学、自然療法、食事療法により、さまざまな病気の治療にあたっている。著書に『冷えを治せば病気もよくなる』(Gakken)、『病気にならない蒸しショウガ健康法』(アスコム健康BOOKS)など。
イラスト
22℃(にじゅうにどしー)
https://twitter.com/illust022
取材・文/熊谷あずさ
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