眼圧検査だけでは発見できない!中途失明原因1位の「緑内障」
緑内障は視神経が眼圧などで障害され、徐々に視野が狭くなる病気だ。急激に進行する急性もあるが、約8割は症状が徐々に進む緑内障で、その90%以上は正常眼圧緑内障である。
中途失明原因の1位にもかかわらず、患者が気づかないケースが多い。緑内障発症の危険因子は近視が強い、家族歴がある、加齢などであり、近視大国で超高齢化の日本では患者増加が避けられない。
日本全体で400万人もの患者がいる
人間の目をカメラに喩(たと)えるとフィルムに当たるのが、眼球の奥側にある網膜だ。網膜には約100万本の神経線維が集まった視神経があり、目と脳の間の情報伝達を担うことでヒトは物を見ることができる。緑内障は眼圧(眼球内の圧力)が高くなるなどの原因で視神経が損傷を受け、徐々に視野が狭くなっていく。
治療せずに放置すると最悪の場合、失明するケースもある危険な病気だ。厚労省による視覚障害の原因疾患調査では28.6%が緑内障で、2000年以降は長年トップだった糖尿病網膜症を抜き、1位になっている。
東京慈恵会医科大学眼科学講座の中野匡主任教授の話。
「2002年に岐阜県多治見市で、緑内障の大規模疫学調査結果が発表されました。それによると40歳以上の20人に1人、70歳代では実に10人に1人が緑内障であり、その9割が治療を行なっていないことが判明しました。日本全体では約400万人もの患者がいると推計されています」
緑内障発症の危険因子は3つ
この調査で判明した緑内障発症の危険因子は「近視が強い」、「家族歴がある」、「加齢」の3つだ。
日本人はもともと近視が多かったが、近年スマホの普及拡大などの生活環境の変化が影響したのか、大人になっても近視が進む人も増えている。さらに超高齢化社会を迎えたことで、加齢は避けられない現実として緑内障発症リスクが高まっている。
緑内障を発症すると鼻側から視野が欠けていく。両眼で物を見ているため、片方の視野が欠けても気づかないだけでなく、生活する上で困らないので、一層発見が遅れる原因となっている。症状は早期、中期、後期と進むが、視神経は一度障害されると戻らず、治療で進行を遅らせることはできるが、元通りに視野が回復することはない。
「緑内障は最後まで視力が維持されるので、視力検査では発見することはできません。また日本人は正常眼圧緑内障の方が多く、眼圧を計っても病気の発見には必ずしも繋がりません。
眼底撮影は最も有効ですが、2008年に特定健診制度が開始されたために、それまで会社の健診で行なわれていた眼底撮影が条件付きになり、眼底検査受診率が前年の100分の1にまで激減しています」(中野主任教授、以下「」内同)
確定診断には眼底検査と視野検査が実施される。3次元立体眼底画像解析装置の光干渉断層法(OCT)が登場し、網膜の断層撮影をすることで2次元画像よりも、視神経の状態がわかりやすくなっている。しかし、強度の近視があると緑内障の所見がわかりにくくなるため、画像の診断には豊富な経験が必要だ。
視野検査は暗室で両眼を10分以上かけて行なわれるので、健診への導入が難しかった。それが最近では健診用の簡易視野計が普及、ヘルメットのような装置を頭に付け、視野検査を行なうヘッドマウント型視野計も開発され、健診への導入が期待されている。
失明を防ぐため、自覚症状がなくても点眼継続を
治療は他に原因がある続発緑内障などを除けば、眼圧を下げるのが原則である。まず点眼などの薬物治療を行ない、効果が得られない場合には手術やレーザー治療を行なう。これらも眼圧低下が目的であり、根本治療ではない。自覚症状が乏しく、そのため半数の患者が途中で点眼治療をやめることが問題となっている。
緑内障は急激に眼圧が高くなる閉塞隅角緑内障(急性緑内障)と開放隅角緑内障(慢性緑内障)があり、治療の原則はどちらも眼圧を下げることだ。
眼球は房水という水のようなもので球体を保っており、その量によって固くなったり(眼圧が高くなる)する。さらに房水は眼球を保つだけではなく、角膜、水晶体など血管のない組織に栄養を届ける役割も担っている。
房水は目の中の毛様体で産生され、毛様体から瞳孔と隅角を通り、シュレム管に集められて最終的に静脈へと流れていく。房水の産生と排出のバランスで眼球の固さが決まるが、眼球が固くなりすぎることで眼圧が上がり、視神経に障害が出る。
「眼圧が高くなる原因は房水の過剰産生や循環が悪くなることによる房水の滞留、房水が流れ出る出口が詰まるなど様々な原因があります。
急性緑内障は房水の出口が塞がれるために起こるもので、急激に眼圧が高くなり、放置すると失明に至ることもあります。日本人に多い眼圧の数値が正常範囲の正常眼圧緑内障は、かつて網膜の脆弱性が指摘されていましたが、それだけでなく遺伝的要因や循環の問題など様々な原因によって起こると考えられるようになっています」
緑内障の治療は点眼による薬物治療、レーザー治療、手術治療があるが、すべて眼圧を下げる治療だ。まずは点眼薬1種類で治療を開始し、効果が不十分の場合には薬を変更したり、作用の違う薬を2〜3種類追加する。現在は作用の異なる2種の薬がひとつになった配合点眼薬も開発されている。
一般に眼圧の正常範囲は10〜21㎜Hgとされているが、下限まで下げても症状が進行する場合は今のところ治療法がない。
点眼で眼圧が下がらないケースはレーザー治療や手術を行なう。あくまでも薬物治療の不十分な症例に行なうという位置付けである。
2012年に「チューブシャント手術」が保険適用になった。これは長さ約1ミリ程度の筒状のステントを使用するもので、今後も新たな選択肢が登場する予定だ。これらの術式は従来の手術に比べて患者の負担が少なく、合併症の軽減も期待されている。
「緑内障は自覚症状がほとんどないため点眼治療が面倒になり、途中でやめてしまう方が半数程度います。治療をやめているうちに症状が進行し、視野が大きく欠けてしまった後で治療を再開しても元には戻りません。ですから、主治医の説明をしっかりと聞き、点眼を継続することが重要となります」
眼圧が1㎜Hg下がると視野障害の進行する確率が10%減少するという報告もある。治療の継続が何年後かの「見える」生活を保障する。
取材・構成/岩城レイ子