世界初の研究開始!潰瘍性大腸炎に「オルガノイド」を移植
潰瘍性大腸炎は原因不明の腸粘膜の炎症で、粘膜に傷ができ、下痢や血便、腹痛などを起こす慢性疾患だ。近年、症状を改善させる薬が次々と登場したが、患者の約1割は難治性で、大腸切除手術に至ることもある。
そこで腸の粘膜上皮から採取した幹細胞を培養し、オルガノイド(3次元的に作られた、臓器に似た組織体)を作成して腸内に戻し、粘膜を再生させる、初の臨床研究が始まる。
若い世代にも多く発症する潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎の患者は毎年約1万人ずつ増えており、20〜30代の若い世代での発症も多く、20万人以上の患者がいると推計されている。近年、腸の炎症に作用する治療薬が登場し、症状が劇的に回復することも珍しくない。しかし、症状が一時的に改善しても、腸に傷が残っていると再発しやすいことが知られている。
再発して重症化した場合、大腸切除の手術に至ることも。そのため、新しい治療として腸粘膜の傷を再生させる治療法の開発が始まった。
東京医科歯科大学大学院消化器病態学の渡辺守教授に話を聞く。
患者自身の大腸粘膜の幹細胞を培養、腸に戻す
「腸の傷に、直接的にアプローチする治療法の開発には15年程前から取り組んできて、たどり着いたのが腸粘膜の再生治療です。再生治療というとiPS細胞やES細胞を使う研究が盛んですが、私どもの方法は患者の大腸から粘膜を採取し、その中の幹細胞を取り出して培養し、大量に増やしてから内視鏡を使い、腸に戻すというものです。腸の傷が修復すれば、極めて再発しにくくなります」
腸粘膜は上皮というごく薄い細胞シートで内側と外側を分けている。内側は多くの免疫細胞があり、外側には膨大な数の腸内細菌がいる。腸上皮は3〜5日という体内で一番短いサイクルで再生しており、傷ついてもすぐに再生できる。ところが、潰瘍性大腸炎は慢性的な炎症により、上皮の幹細胞が活発に再生しても修復に追いつかず傷が残る。
腸粘膜の再生治療は内視鏡で患者の健康な腸を4ミリ程度採取し、その中から幹細胞を取り出して細胞をバラバラにしてから培養する。3次元のコラーゲン・ゲルを足場にして幹細胞を植え、増殖因子とともに約1か月間培養する。増殖した幹細胞は再び内視鏡を使い、傷ついている粘膜のところに留置する。
この時、コラーゲン・ゲルの足場の中で幹細胞は真ん中が空洞の球状に連なった組織となる。これが腸オルガノイド(※)(試験管の中で3次元的に作られた、腸に似た組織)で、球体の表面には腸上皮となる様々な細胞と多数の幹細胞が混在していて、これを内視鏡で傷ついた腸に移植する。
今年中に臨床研究開始
「腸に潰瘍のあるマウスに対し、肛門から腸オルガノイドを移植する研究を行ないました。オルガノイドは潰瘍部分のみに付着し、傷ついた上皮を修復することが確認されました。ヒトに対しては動物とは違うコラーゲン・ゲルや増殖因子を見つける必要があり、多くの時間を要しましたが、ようやく今年度中に臨床研究が始まります」(渡辺教授)
幹細胞をオルガノイドのままでヒトに移植するのは世界初の試みで、臨床研究では3年間で8人程度に移植し、安全性と効果について検証を行なう。増える一方の潰瘍性大腸炎患者にとって、早い段階での実用化が待たれる。
※腸オルガノイドの作成方法
大腸粘膜から幹細胞を採取、コラーゲン・ゲルの培地で増殖因子を入れて培養し、大量に増やす。結果、真ん中が空洞の球状のオルガノイドが作成され、それを腸粘膜に留置する。
取材・構成/岩城レイ子