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認知症の母を娘が自宅でヘアカットしたら…母の勘違いと理美容対策

 作家でブロガーの工藤広伸さんは、岩手・盛岡に暮らす認知症の母を東京から通いで介護を続けている。これまでは美容室に通い白髪染めをこまめにしてきた母だったが、コロナ禍と認知症の進行で美容室が遠のいてしまった。そこで「訪問美容」を検討していたら妹さんがヘアカットをすることになり――。

コロナ禍で美容室に行く機会が減ってしまった

 母は昔から身だしなみを気にする人で、認知症初期の頃は白髪がきちんと染まっていないとデイサービスに行くのを嫌がるほどでした。重度まで進行した今は、昔ほどではありませんが、それでも白髪は気になるようです。

 デイサービスには行ってもらいたいので、母の頭が白くなってきたらすぐに美容室を予約し、タクシーで連れて行っていたのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大してからは感染リスクを恐れ、美容室へ行く機会が減ってしまいました。

認知症の母が美容室で困ること

 通っていた美容室は、母が認知症で同じ話を何度もすること、髪の毛を洗うために席を立つ際は、歩行介助が必要なことなどを伝えていて、問題なく対応してもらえました。

 しかし母の認知症が進行し、同じ話を繰り返す間隔が短くなった今、いくら理解のある美容室であっても、施術中に何十回も同じ質問をされたら、きっとストレスに感じてしまうでしょう。

 また施術中にマスクを着用してもらおうと思っても、母は新型コロナウイルスの感染状況もウイルス自体も理解していないので、すぐに外してしまいます。母自身の感染リスクだけでなく、他のお客さんからクレームが来るかもしれません。

 さらに歩行介助も以前より強い力で支える必要があったので、ますます美容室が遠のいてしまったのです。連れて行くのが困難なら家に来てもらえばいいと考え、調べ始めたのが訪問美容でした。

母のカットと白髪染めに「訪問美容」を検討

 訪問美容は美容師が介護施設や病院、自宅などに来て、カットやパーマ、白髪染めなど通常の美容室とほぼ変わらないメニューで施術を行います。訪問美容師の中には、ヘルパーの資格を持っている方や、定期的に介護施設を訪問してカットしている方もいます。

 訪問美容は、介護保険サービスは適用外で自費になりますが、自治体によっては助成を行っているケースもあるようです。

 わが家では亡くなった祖母が病院に居たとき、病室まで美容師さんが来てくださって、カットしてもらいました。髪の毛がうっとうしいと訴えなかった祖母でしたが、髪を切り終えたあとの笑顔は今でも忘れられません。

 母もそろそろ訪問美容に切り替える時期が来たと思いながら、母の通うデイサービスでこの話をしたところ、美容師さんがたまに来てカットしてくれるというのです。

 デイサービスにいる間にカットや白髪染めまで終わるなら一石二鳥と思い、利用するかもしれないと伝えました。わたしの妹にこの話をしたところ、「お金がもったいないから、お母さんの髪の毛はわたしが切る」と言い出したのです。

髪をカットする妹と母の会話

 わたしとしては白髪が染まっていて、髪の毛が伸び過ぎていなければ誰が切っても構わないと思っていたので、妹にお願いすることにしました。あとから思い出したのですが、亡くなった父の髪も妹がカットしていました。

 実家の台所にある長鏡の前に椅子を置き、母を座らせます。ヘアカット用のケープがなかったので雨合羽を母に着てもらい、素人の妹によるカットが始まりました。

妹:「お母さん、髪の毛切るからね」

母:「はいはい、お願いします」

 チョキチョキ、チョキチョキ。ハサミの音が台所に響き渡ります。

 手際よく、母の髪の毛を切る妹。わたしは隣の居間でテレビを見ながら、母と妹の会話を聞いていました。すると数分経った頃に母が、こんなことを言い出しました。

母:「今日は何軒目ですか?」

 これは母の口癖で、自宅に来る介護職の方に必ずする質問です。しかし髪の毛を切っているのは、自分の娘。なぜそんな質問をするのでしょう? さらに母は娘に向かって、

母:「1番遠いところだと、どちらまで行かれるのですか?」

 完全に、自分の娘を介護職の方と勘違いした会話でした。介護職の方の訪問先について、質問しています。

妹:「お母さん、ヘルパーさんじゃないから。娘、あなたの娘です」

母:「あらあら、ごめんごめん」

 娘に指摘されて、自分の勘違いに気づいたようです。しかし2分後にはまた、

母:「今日は何軒目ですか?」

娘をヘルパーさんと勘違いしてしまう理由

 こんなやりとりが何回も続き、カットが終わって髪を洗い、家族3人が居間に揃うまでの間ずっと、娘はヘルパーさんになっていました。母は誰かに世話されると、すべて介護職の方と思ってしまうようで、それで娘を介護職の方と勘違いしたようでした。

 ただ、わたしが母の髪の毛を洗ったときは、しっかり息子だと理解できていました。わたしの推測ですが、おそらく男性だから息子と理解できたのかもしれません。

 というのも、母がお世話になっている介護職の95%くらいは女性です。男性はほとんどおらず、しかも母と接している時間はわたしが圧倒的に1番長いので、息子と認識できているのだと思います。

 しばらくは妹に母の髪の毛を切ってもらい、白髪を染めてもらうつもりですが、たまにはプロの訪問美容師さんにお願いして、髪型を整えてもらおうと思っています。どんなに認知症が進行しても、身だしなみは大切ですね。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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