熱狂ゴールのその陰で…『FIFAを暴く』など「W杯の裏」に迫る映像作品4選
11月23日、日本がドイツに逆転勝利! 大金星の興奮につつまれているサッカーW杯カタール大会。本日(27日)午後7時からのコスタリカ戦を待ちながら「W杯の真実」に迫る映像作品を鑑賞してみませんか? スポーツライターのオグマナオトさんが4作ピックアップします。
日本代表2大会連続でのベスト16進出へ、ますます熱を帯びるサッカーW杯カタール大会。その盛り上がりに水を差したいわけではないが、今回のW杯は選手たちの華やかなプレーとは裏腹に、世界において過去に例がないほど厳しい視線を向けられている大会でもある。そんな「W杯の裏」に迫る映像作品を紹介したい。
『FIFAを暴く』『The Workers Cup -W杯の裏側-』〜W杯とサッカーは誰のためのものか?
昨年の東京五輪汚職ニュースが続々と報じられているように、「スポーツと金」を巡る問題は世界的に注目され、追及の目が厳しいテーマだ。当然、今回のカタール大会でもその議論は大きい。
Netflix配信『FIFAを暴く』は、まさにそんな招致をめぐるゴタゴタ劇とFIFAの実情について迫ったドキュメンタリーだ。
とくに「エピソード3」はカタール大会招致を巡ってのいざこざがテーマ。このなかで、カタール開催決議のニュースを伝えたキャスターが語った「今日の決定で長い間ゴタゴタが続くでしょう」の言葉が予言のように響く。
また、「これはサッカーの発展です。お金の話ではない」とFIFAのブラッター会長(当時)は火消しに躍起になる一方、開催地決戦投票を巡る裏金問題を追求する側は「彼らにとって投票日は給料日」となかなか辛辣。オリンピックを巡ってIOCの特権意識が問題視されたのと同様、FIFAが今、組織としてどんな問題を抱えているかが見えてくるはずだ。
開催地招致問題以外でも、今大会で議論を呼んでいるのはカタール国内における「労働問題」と「人権問題」について。“最も高額なW杯”と称される今大会、近代的できらびやかなスタジアムや街並みを“作る”ために駆り出されたのは、160万人という外国からの出稼ぎ労働者たち。彼らはカタールの人口全体の60%を占め、工事による死者が数千人も出たと報じられるほど過酷な労働環境であることがヨーロッパを中心に社会問題になっている。
そんな外国人労働者たちにスポットを当てたドキュメンタリーが『The Workers Cup -W杯の裏側-』(Amazon Prime Videoなどで配信中)。労働者たちの不満のガス抜きのため、そして諸外国からの視線をズラすために開催された「労働者たちのサッカー大会」の出場選手たちにスポットを当てる。
週一の休みが法令で決まっているのに7日間働く労働者がほとんど。そんななかでも練習時間を確保しようとする選手たち。あるチームは、大会で勝つためだけにサッカーに秀でた若者をスカウトしたりと、奇妙な現象も発生する。
その光景からは、サッカーという競技が持つ根源的な楽しさと、是が非でも「勝利」を目指してしまうスポーツの性(さが)を再確認できる。そして、これは労働者のための大会なのか? それとも権力者たちのアピールの場なのか? という問題提起も与えてくれるはずだ。
実際、こうした人権問題はカタール大会が始まっても連日ニュースになっている。ヨーロッパの出場7か国は当初、多様性を支持する虹色の「One Loveキャプテンマーク」を着用する計画を立て、慌ててFIFAが待ったをかけたことも報じられた。そんななか、我が日本サッカー協会は「今この段階でサッカー以外のことでいろいろ話題にするのは好ましくないと思う」と、どこか他人事。サッカーの実力で世界に近づくだけでなく、こうした点でもリーダーシップを発揮してほしいのだけれど……。
『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』〜世界最強を目指す裏で生まれる、弱者たちの奮闘劇
サッカー世界一を決める大会、W杯。当然、最強国を決めようとすれば順位付けが発生し、その裏では「最弱国」も判明してしまう。現在のFIFAランク最下位は、イタリア半島にある世界で5番目に小さな国、サンマリノ。だが、10年ほど前まで「不動の最下位」ともいうべきポジションにいたのがアメリカ領サモアだ。2001年に行われたオーストラリアとのW杯予選で0対31という大敗を喫したことがニュースにもなった。
『ネクスト・ゴール!』(Amazon Prime Videoなど)は、そんな最弱のサッカー代表チームが悲願の初勝利を目指すドキュメンタリー。前述の2作品で「金」と「人権問題」に揺れるサッカー界にもし嫌気が差しそうになったら、ぜひともおすすめしたい。どんなに大量失点しても、大敗を続けても、それでもひたむきにボールを追いかける姿の根っこにあるのがまさに「金銭からの解放」と「多様性」だからだ。
まずは、金銭からの解放について。チームに初勝利をもたらすためにやってきたオランダ人監督は、その技術レベルの低さに当初は手を焼くものの、選手たちと交流を続けることで新たな価値観に気づき、印象的な言葉を並べる。
「私は敗北への恐怖に駆られ、勝利だけを目指してきた。真に大事なものを忘れて」
「プロは金で動く。ここの選手は好きだからやってる。報酬ゼロでね」
また、サモアをはじめとしたポリネシア文化圏では、男でも女でもない「第3の性」を持つ人たちが認知され、なんと代表チームにも名を連ねている。「LGBT」への意識の欠如が問題視されているカタール大会とは違い、性別の壁まで飛び越えて、ただただピュアにスポーツを楽しむ姿がそこにはある。
その上で、オランダ人監督の指導によって着実に力をつけ、ついには歴史的な勝利へ。アマチュアが愛と情熱で1勝を目指す姿もまたサッカーなのだ。
『ウェイ・ダウン』〜2010年W杯の裏であったかもしれない!? タイムリミット・エンターテインメント
最後はフィクションからも「W杯の裏」をテーマにした作品を紹介したい。今年6月に劇場公開された『ウェイ・ダウン』だ。W杯開催にあわせ、今月からAmazon Prime Videoなどでのレンタル視聴が可能になった。
ときは2010年。南アフリカW杯の開催期間。「鉄壁の守り」が売りのスペイン銀行地下金庫から財宝を盗み出すため、ターゲットとなったのが2010年7月11日。この日はスペインが決勝戦に挑み、初の世界一を目指した日。スペインの街が熱狂に包まれるなか、決死の強奪作戦が始まる――。観戦に出かけたことをSNSでつぶやいて、その隙に強盗に入られてしまった、なんて事例も実際にあるが、その壮大なスケールアップ版と言えなくもない。
テレビで、ラジオで、カレンダーと時計代わりにスペイン戦の実況が流れているのも楽しい仕掛け。実際の試合映像もふんだんに使用されていて、よく権利関係をクリアできたなと感心してしまう。
決勝戦の前後半とハーフタイムの計110分の間に作戦は成功するのか!? 可能であれば、2010年大会の決勝戦、スペイン対オランダの一戦について復習してからの試聴をオススメしたい。あの決勝戦の試合内容を知っていれば、さらにこの映画は楽しめるはずだ。サポーターの祈りと強盗仲間たちの祈りが同調する構成など、粋な演出の数々を楽しんでいただきたい。
スポーツ界全体もサッカー単体も、あまりにも巨大な存在になってしまったため、社会の闇を映し出す鏡にもなってしまっている。カタールW杯が終わってもサッカー界が動き続けるように、一過性の熱に終わらずに議論し続ける一助にこれらの作品群がなれば幸いだ。
文/オグマナオト
1977年生まれ、福島県出身。雑誌『週プレ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。また、『報道ステーション・スポーツコーナー』をはじめ、テレビ・ラジオ・YouTubeのスポーツ番組で構成作家を務める。最近刊は『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)(2022年5月)。