再発直腸がんの「重粒子線治療」手術に比べて効果が期待できる
直腸がんはX線治療が効きにくい上、手術後の骨盤内再発症例でも、がんが低酸素状態となるため、より効果が得られにくい。
こうした症例に対する治療としても重粒子線が効果を発揮している。がんだけを狙い撃ちにし、低酸素でも効果を得られる。その効果は局所制御率(治療した部分に再発が起こらない割合)が89%と高い。治療期間が短く、外来診療も可能だ。
放射線治療の一つである重粒子線治療は、事前にCTやMRIなどの画像検査で、がんの位置や大きさ、深さなどを確定する。そのデータをもとにフィルターなどを使って、がんに集中するよう3次元的に重粒子線を照射する。
がんの場所に線量のピークを作るため、がんの周囲にある正常細胞を障害することが極めて少ない。X線は体内を透過するが、重粒子線はがんで線量がピークを迎えると、その後停止、がんの裏側にある正常細胞には影響が出ない。
またX線が効きにくい消化器などに発生する腺がんや低酸素になっている再発がんに対しても、効果を発揮している。
量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所重粒子線治療研究部の山田滋部長に詳しく話を聞いた。
再発直腸がん2年生存率 手術は62~82%、重粒子線は90%以上
「治療が難しい直腸がんの骨盤内再発症例に対し、X線治療を受けた群と重粒子線治療を比較しました。X線治療の局所制御率は28〜74%に対して重粒子線治療では89%と高くなりました。5年生存率もX線治療が20%程度ですが、重粒子線治療は約50%となっています」
手術と重粒子線を比較すると2年生存率は手術では62〜86%に対し、重粒子線治療は90%と同等以上の成績を示した。5年生存率では手術が30〜46%に対して重粒子線は50%だ。直腸がん再発の標準治療は手術だが、重粒子線治療を受けた患者の場合、手術の適応にならない例が多い。身体を切らずに、がんを狙い撃ちし、臓器の機能をできる限り温存できる重粒子線治療は、手術と比べても効果が高い。
重粒子線の特徴として治療回数が少ないことも挙げられる。高い線量をがんだけに当てるため、少ない回数で済む。X線治療は重粒子線に比べ低い線量で照射するので、一般的にX線治療は照射回数が多く、治療期間が長期にわたる。IMRT(強度変調放射線治療)のように、がんに集中的に照射するよう設計された機器を使っても、一部正常細胞にも照射されてしまう。
「直腸がんの骨盤内再発に対する重粒子線治療は、16回実施します。外来での治療も可能で、週4回を4週間実施すれば終了です。ステージⅠの末梢型非小細胞肺がんでは、大半は1回の治療で終了します。体力低下や合併症などを持つ高齢者でも、最小限の身体への負担で治療を受けられます」(山田部長)
直腸がんの重粒子治療は一律314万円
重粒子線治療は骨軟部腫瘍と頭頸部がんと前立腺がんが保険適用になっている。直腸がんの重粒子線治療は先進医療の認定を受けており、治療費は一律314万円だ。診断に必要なCTやMRIなどの検査や入院費、薬代などは保険適用されている。
重粒子線治療は高いといわれているが、治療回数の少なさと通院による治療が可能なことから、通常の放射線化学療法と比べても、大きな差がないという調査結果もある。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2018年11月9日号