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連載

認知症で変わっていく母…10年介護で身に付けた「切なくても淡々と向き合う」メンタル術

 作家でブロガーの工藤広伸さんは岩手・盛岡に暮らす認知症の母を10年に渡って遠距離介護をしてきた。認知症が進行する母に対する感情の揺れ動き、終わりの見えない介護をどう考えるべきか――ブログや講演会で寄せられた声をもとに、介護するときの気の持ちよう、向き合い方について教えてもらった。

10年続けている認知症の在宅介護は「気の持ちよう」

 2012年11月からスタートした、岩手の実家と東京を行き来する遠距離介護生活はもうすぐ丸10年を迎えようとしています。

 祖母の子宮頸がんが見つかり、同時に母の認知症も見つかったのはわたしが40才のときです。当時東京の会社で働いておりましたが、激務とダブル遠距離介護の両立は難しく、介護が始まって4か月ほどで介護離職し、ブロガーに転身しました。

 執筆経験がなかったわたしにとって、また年齢的にも厳しいキャリアチェンジでしたが、介護ブログをきっかけにして執筆のお仕事や書籍の出版、講演会などで全国を回るようになりました。

 こうした介護の発信を続ける中で、親の見守りのコツや認知症介護に関するノウハウなど様々な質問を頂いたのですが、その中で意外と多かったのが、どういう気持ちで介護を続けているのか知りたいという質問でした。

 今回は実際に頂いた質問に対して、介護ブログや講演会、音声配信などで回答した、介護者としての気の持ちようについてご紹介していきます。

介護者としての気持ちに関する質問と回答

Q1.認知症で記憶を失っていくお母さまと長い間向き合ってみて、どんな気持ちになりましたか?

 母に対して戸惑う日もあれば、切ないと思う日、かわいそうと思う日、怒りが込み上げる日など、感情は様々です。特に認知症についてよく分からなかった最初の頃は、戸惑ってばかりだったように思います。

 祖母ががんで入院するために必要な、絶対に忘れてはいけない大事な書類の存在をなんで忘れてしまうのか? 最初は意味が分からず、戸惑いました。また母は認知症なのか、それとも年相応の老いなのかと、認知症である親を認められない時期も続きました。

 認知症になる前の母は、優しくて料理が上手で子ども思いでした。認知症が進行した今も、中身は変わっていないと思っていますが、得意だった料理ができなくなる母の戸惑う姿を見るにつれ、切なさは増していきました。

 ただ切なさや戸惑いを抱えたまま、認知症介護を続けていては介護者のわたし自身が疲弊していきます。介護者として心の安定を保つために何かできないかと考え、自分自身に「しれっと介護しよう」と言い聞かせる、すなわち何事もなかったかのように、淡々と介護を続けることを意識してきました。それでも感情は揺れ動きますし、疲れる日もあります。

 今はなんとか在宅介護を続けられていますが、いつか介護施設に預ける日が来ればまた、違った感情の揺れ動きがあると思っています。
 
Q2. 介護の終わりが見えません。どのような気持ちで介護と向き合っていますか?

 介護の未来については、あまり考えないようにしています。介護の始まりは突然ですが、終わりも突然やってきます。

 例えば悪性リンパ腫(血液のがん)だった父の場合は、介護が始まって3か月後には亡くなってしまいました。一方の母は、気づいたら10年も認知症介護をしていたという感じです。

 先が見えない、終わりが見えないのは、介護に限った話ではなく自分の人生も同じです。いくら考えても答えの出ないものに体力や気力を奪われてしまうのがイヤなので、近くだけを見て介護をするよう意識しています。 

Q3. 介護の準備や心構えはどうしていましたか?

 わたしは正直、介護の準備も心構えも何もないまま、いきなり介護が始まってしまいました。せめて介護の情報収集などの準備をしておけばよかったと後悔しているので、これから介護が始まるかもしれない人に向けて、発信を続けています。

 介護が始まってからの心構えで特に意識しているのは、「介護はひとりで頑張らずに、人に頼る」ことです。遠距離介護になると、どうしても家族だけでは介護ができません。自然と介護のプロに頼らざるを得ない環境ができていきました。

 遠距離介護だけなく同居で介護をしている人も、誰かに頼る意識を常に持っておいたほうが、介護のストレスは大きく減ると思います。

自分自身に集中しましょう!

 今までに頂いた質問の中で特に多かった3つについて、回答をご紹介しました。

 新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ情勢など暗い話題が多くなり、ただでさえ介護で暗い気持ちになりやすいのに、さらに気持ちが落ち込んでしまいます。

 こうした社会情勢を自分の力では変えられませんが、自分自身のメンタルだけはいくらでもコントロールできます。周りがどんな状況であっても、自分のことは自分で守らなくてはなりません。

 介護者は介護という重めの荷物を背負っているわけですから、これ以上重い荷物を背負わないよう、意識しなければならないと思います。社会情勢がどうであろうと何事もなかったかのように、これからも淡々と母親の認知症介護を続けていくつもりです。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

●料理が得意だった母に異変?サラダ油を隠した息子の行動に学ぶ認知症介護の秘策

●認知症介護で活用した貼り紙を10年目にやめた理由「表記はひらがなか漢字か…正解がわからない」

●認知症の母が障子を閉めてくれない! 困った息子が救われたダイソーの100均アイテム

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