毒蝮三太夫が高齢者の運転を語る「年寄りは自分の老いを認めるのが苦手」|マムちゃんの毒入り相談室第34回
親が高齢になると心配なのがクルマの運転である。周囲から見れば危なっかしい状態でも、本人は「まだまだ大丈夫」と思いたい。長年慣れ親しんだ移動手段を奪われたことで、張り合いをなくして一気にガックリ来てしまうこともある。80代の父親に免許の返納を勧めても耳を貸さないと悩む娘の相談に、マムシさんが親身に答える。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「80代の父親に運転免許証を返納させたい」
俺もクルマとは長い付き合いだ。昔、『ウルトラセブン』のロケを千葉県の館山でやったんだけど、当時乗ってたいすゞのベレットを運転して行った。あのときはアンヌ隊員(ひし美ゆり子)とソガ隊員(阿知波信介)を乗せて、3人で東京まで帰ったんだよな。あれは楽しい思い出だ。前にアンヌが、そのときの写真をブログに載せてたな。クルマに寄りかかってるアンヌの写真は俺がシャッターを切ったんだけど、それがまたかわいいんだよ。
クルマっていうのは、俺たちの年代はとくにそうかもしれないけど、たくさんの思い出と結びついてる。運転する機会は減ったけど、今もクルマは大事な相棒だ。
「高齢者は免許を返納すべきだ」って声が高まっていて、もっともだとは思うんだけど、複雑な気持ちなんだよな。今回は、運転をやめない父親に悩んでいる43歳の女性からの相談だ。
「先日、80代の父が交通事故を起こしました。単独の物損事故だからまだよかったんですが、もし人をひいてしまったりしたら取り返しがつきません。運転免許証を返納させたいけど、まったく聞く耳を持たず、まだまだ運転を続ける気でいます。どうしたら返納してくれるでしょうか?」
回答:「トシなんだからと年齢で決めつけないで。運転しないほうがいいと思う理由を、根拠をあげて説得してみよう」
事故を起こしちゃったか。そりゃ、娘としては心配だな。どういう原因だったのか、そこはお父さんに詳しく聞いたほうがいいね。「自分でもよくわからないけど、いつの間にかぶつかってたんだよ」という話だったら、もう運転はやめたほうがいいかもしれない。
ただ、俺としては「〇歳になったから、もう運転は無理だ」と決めつけられるのは、勘弁してほしいという気持ちがある。俺は今86歳だけど、86歳にせよ80歳にせよ、同い年でも体や頭の若さは大違いだ。一人ひとりの状況をしっかり見て、そろそろ運転はやめたほうがいいかどうかを判断してほしいね。
俺のまわりでも、まだ70代で体も元気なのに、子どもに言われて運転免許証を返納した例がいくつかある。子どもは親のためを思って返納を勧めて、親も子どもに迷惑をかけちゃいけないと納得した。それはいいんだけど、一気に行動範囲が狭くなることの弊害が出ることもある。体力が衰えるだけじゃなくて、認知症が始まったなんて話もあるみたいだ。
もちろん、事故は起こしちゃいけない。細心の注意をはらって運転しなきゃいけないのは、高齢者だけじゃなくて若者も同じだ。「リスクがあるんだから高齢者からは免許を取り上げればいい」というのは、いささか乱暴な話に思える。だったら、世の中からクルマをなくせばいいって話になっちゃう。
高齢者は免許の更新のときに、頭や体の働きは大丈夫かどうかしっかりチェックしてるし、最近は運転ミスを防ぐ機能が付いたクルマがいろいろ出てきた。足がなくなったら生活できないってことなら、そういうクルマにするのがいいかもしれない。
相談をくれたあなたの悩みは、きっと「お父さんが自分の老いを認めてくれない」ってとこだよな。たぶん傍目には、危なっかしい運転をしているように見えるんだろう。年寄りがもっとも苦手とするのが、自分の老いを素直に認めることだ。さっきの話じゃないけど、「もうトシなんだから運転しないで」と年齢で決めつける言い方をしたら、意固地になってますます聞く耳を持たなくなるだろうね。
どうして運転しないほうがいいと思っているのか、具体的な根拠をあげて説得してみよう。さっきの事故の原因もだけど、助手席に乗っていてどういうところが怖いと感じるのかを伝える。しょっちゅうセンターラインをはみ出すとか、ブレーキのタイミングが遅いとか、気になる部分があるはずだ。
言い方も大事だな。「お父さんはまだまだ元気だし頭もはっきりしていて、すごいなと思うんだけど」とか何とかおだててから、穏やかな口調で「だけど、最近は助手席に乗っていて不安に思うことが増えたの」ってな話をする。本人としても、いちばん身近で見ている家族から「もう運転はやめたほうがいいんじゃないか」と言われたら、潮時だと思って従ったほうがいい。
運転をやめさせるだけじゃなくて、買い物や病院通いの手伝いをしてあげるとか、不便になった分をカバーしてあげる必要もある。運転免許返納をきっかけに、親子の絆が強まればそれに越したことはないよね。
いっそのこと、国が「シルバードライブランド」みたいな施設をあちこちに作るのはどうだ。広い敷地に道路があって、安全装備が付いたクルマが用意されてる。免許証を返納した高齢者には、そこで自由に運転を楽しんでもらう。いわば運転が好きなジジイとババアのための遊園地だ。そういう場所があったら、返納を決断する高齢者が増えるんじゃないか。ハハハ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。