介護施設の夜勤は本当に過酷か? 8割が長時間勤務、ワンオペや仮眠室なしの実態
介護施設の夜勤に関する調査(日本医療労働組合連合会)によると、多くの施設で16時間の長時間労働、ワンオペ夜勤だった実態が明らかになった。介護現場で夜勤専従として働いているブロガーのたんたんさんこと、深井竜次さんが、調査結果をもとに「夜勤の勤務実態」について考察。介護現場の夜勤労働の問題点とは。
介護施設夜勤の労働調査に僕が思うこと
介護士ブロガーのたんたんと申します。
介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って記事を書いてきました。
僕は現在、介護施設の夜勤専従として働いています。2月に発表された介護施設夜勤の実態調査をもとに、僕の実体験をふまえ、「介護施設の夜勤は本当に過酷なのか?」ということについて考えてみたいと思います。
日本医療労働組合連合会(日医連)が介護施設の夜勤に関する調査※を公表しています。
※「2021年介護施設夜勤実態調査」結果概要
http://irouren.or.jp/news/f524cbf5956c60b5e34efaf02bb440985c9996eb.pdf
この調査は、介護施設の夜勤業務の改善を目的とし、2013年から今回で9回目となっています。今回の調査数は142施設4075人、調査期間2021年6月23日~11月中旬の約5か月となっています。
2月に公表された最新の調査結果の概要をまとめると以下のようになります。
夜勤の実態
・夜勤形態は、「2交替夜勤」の施設が87.6%。そのうち16時間前後の2交代制の長時間夜勤が80.5%。
・夜勤体制は、特養や老健など規模の大きな施設は複数体制だが、グループホームや小規模多機能型などでは全施設が1人夜勤、いわゆるワンオペだった。
・2交替夜勤の職場で複数体制が行われているのは全体の46.8%、5割以上が1人体制以下。
・仮眠室は、全体の39.2%の施設が「ない」と答えている。
■夜勤形態の比率(職場)
3交替…7.4%
変則3交替…3.2%
2交替・3交替の混合…0.5%
2交替…83.2%
当直と3交替の混合…1.1%
当直と2交替の混合…4.7%
当直…0%
ワンオペ夜勤が半数近くいる!?
この調査で分かったことは、多くの介護施設で「16時間労働、ワンオペ夜勤で仮眠室がない」という実態が明らかになりまりた。
実際、僕の夜勤の仕事は以下のように多岐に渡ります。
・日勤者との引継ぎ
・夕食朝食の配膳、下膳
・服薬の準備、与薬
・排泄介助
・見守り介助
・夜間での巡回
・介護記録の記載
・体位変換 など
・ナースコールの対応
僕がパッと思いつくだけでもこれだけの仕事があります。これらをたった1人で仮眠室もない環境で行うのは、なかなかハードです。半数近くこういった労働をしている職場には大きな問題があると思います。
■業態別の集計(施設単位)
年|3交替|2交替|その他
2013年|6.3%|92.9%|0.9%
2014年|12.3%|86.8%|0.9%
2015年|10.5%|88.1%|1.4%
2016年|6.8%|90.2%|3%
2017年|6.2%|92.5%|1.4%
2018年|10.5%|88.7%| 0.8%
2019年|11.5%|87.5%|1.5%
2020年|16.5%|82%|1.4%
2021年|10.1%|87.6%|2.3%
調査が行われた2013年は「2交替」勤務が92.9%から2021年には87.6%に減っているとはいえ、まだまだ介護施設での過酷な労働環境はそれほど改善されていません。
この先介護を必要とする高齢者の数が増えることを考えると、さらに介護職員の負担も増えていくことが予測されます。
夜勤をしている僕が感じていること
現在僕は、老健(介護老人保健施設)の夜勤専従として働いています。夜勤を経験している僕が感じていることを最初に書いてしまうと、「キツイ時もあるし、ラクに感じることもある」ということです。
僕の施設ではワンオペ夜勤ではなく、何かあった時にもう1人の夜勤のスタッフと協力することができています。
とはいえ、夜勤の間には、利用者の様子がいつもと違ったり、急変したり、さまざまな不測の事態が起こります。また、日勤者がお休みで介護職の人員が少なくなっていることなどもあります。結果的に夜勤の負担が大きくなってキツいと感じることもあります。
コロナ禍では、職員が感染したり家族が濃厚接触者になったりして休みが出てしまった場合、代わりの職員を配置できないこともあり、日によって夜勤労働の過酷さは変わります。
ワンオペ夜勤は過酷すぎる
夜勤の業務がワンオペとなると、僕はこなせる自信はありません。休憩もできず過酷な労働を強いられている場合、夜勤という仕事自体が嫌になってしまうのではないか…。
僕が夜勤専従の仕事を続けていられているのは、複数の職員で夜勤を対応できている施設のおかげともいえます。ワンオペ夜勤の施設だったらすぐに辞めていたかもしれません。
受け入れている利用者様の人数にもよるかもしれませんが、何か起こった時に1人で対応しながら、ほかの利用者様のケアも同時に行うなんて、たいてい無理なのではないかと思うのです。
それでも約半数近くの人たちがワンオペ夜勤をこなしているという実態があり、かなり苦労をしているのではないかと思うのです。
夜勤の仕事は、平和な夜もあるし、いろんなことが起こる夜もある。だからこそ何かあったときに備えて必ず2人以上の人員が確保されるような法整備がなされることを強く望みます。
夜勤で16時間の労働は過酷か?
僕は16時間夜勤をかなり経験してきましたが、労働時間に関しては、そこまでキツいと思ったことはありません。
ただし、長時間働かなければならないため、日勤の職員を充実させて欲しいと感じることは多いです。日勤の遅番や早番で人員が不足していると、夜勤の仕事にその分の仕事を回されることがあります。その場合は、仕事がたまってしまいキツイくなります。
過去に1度だけ3交替の施設で8時間夜勤をしたことがありますが、このときはコール対応や、排泄介助、記録業務などそれぞれの仕事に専念できて、体への負担も少なく働きやすかったと感じました。
16時間夜勤は体力的にはキツイけど、1回の夜勤で2日分働いたことになり、8時間労働のときよりもお休みをしっかり取れているように感じています。
僕は20代でまだ体力もあるせいか16時間勤務をそこまで過酷だとは感じていないのですが、年齢を重ねていくと体力的にキツく感じることも増えるかもしれません。
僕は夜勤専従なので夜勤だけの形態で働いていますが、日勤の仕事もしながら夜勤のシフトを入れて仕事をしている場合は、かなり過酷なのではないかと想像します。
日勤と夜勤を両方している場合、生活のリズムを整えるのは大変ですし、体調不良を訴える人も多いように感じています。
過酷な夜勤は職員の離職につながり、職員が減ってしまうと夜勤はさらに過酷になるという負のサイクルに陥ってしまうのではないか。介護現場では「体調管理も仕事のうち」とよく言われますが、過酷な夜勤を続けていればいくらなんでも体調を崩してしまいます。
さらに夜勤を行う職場には、仮眠室を用意しなければならないとされています。施設側は職員の働きやすい環境を整えることが必要ですし、施設の経営をバックアップする国の施策も必要だと思います。
夜勤の仕事は、利用者様の意外な一面を見たり、夜中に不思議な光景に遭遇するなど昼間とはまた違った利用者様との交流もあり、僕自身は「過酷」というよりは「面白い」と感じているのですけど、ワンオペ夜勤には疑問を感じています。
そしてこの調査では、夜勤手当の実態についても判明したので、その話はまた次回したいと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。
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