介護施設の夜勤で僕が体験した不思議な光景3選「深夜2時の歌声、みつこさんの正体」
介護士として働いた経験をブログに綴っている介護士ブロガーのたんたんさんこと深井竜次さん。夜勤専従で働いていたときに遭遇した不思議な出来事について教えてくれた。たんたんさんは、利用者さんの違った一面を見られるのは、夜勤という仕事の面白さだという。深夜2時に起きた、3つのエピソード。
夜勤専従で働いたときの不思議な光景
介護士ブロガーのたんたんと申します。
僕は6年間介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンではこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って記事を書いてきました。
今回は「夜勤」で僕が見た不思議な光景について書いてみたいと思います。
僕自身、夜勤専従としていくつかの施設で介護をしてきたのですけど、夜の時間帯は「まさかこんな出来事に遭遇するとは!」という体験が非常に多くありました。
そんな体験の中から、3つのエピソードをご紹介します。
深夜2時の巡回
僕が香川県の有料老人ホームで夜勤専従として働いていたある日の晩のこと――。
夜勤では大体2時間に1回ぐらいの頻度で利用者様の状態把握のために巡回をすることになっています。
この巡回は非常に大切な仕事で、過去にも巡回時に利用者様が苦しんでいる姿を職員が早期発見をしたことで一命を取りとめたこともありました。
基本的に僕が巡回をするときに最低限気にしていることは「利用者様が呼吸をしているのか?」ということです。
巡回時に利用者様の呼吸が停止していた場合、いち早く気がつく必要があるため、毎回呼吸音を確認してからその部屋を後にするようにしていました。
この日の巡回では、認知症を患っていた斎藤タカさん(87才女性、仮名)の部屋を訪れたときでした。
日中に勤務しているスタッフからの申し送りで、「タカさんは一日中活気があり、いつもと比べて多弁でテンションが高かった」と、書かれていました。
僕は22時と24時に2度巡回をした後、スタッフが集うステーションで静かに本を読んでいました。
そして深夜2時の巡回の時間がやってきました。
タカさんの部屋の前を通ると、電気が消えていました。22時と24時のときには部屋が明るかったので、「タカさん、やっと寝たんだな」と思い、静かに部屋のドアを開け、呼吸を確認しようと近づいてみると、頭に何かが当たったような感覚がありました。
気になって懐中電灯をつけて確認してみると、ベッドの頭上に設置してある電灯のコードの部分に、脱ぎたてホヤホヤとおぼしき紙おむつがぶら下がっていました。
「もしかして…」と思ってタカさんを観察してみると、下半身に何も履いていない姿で寝ていました。
僕は「着替えをしましょうね」と声をかけ、下着とパジャマを用意しました。着替えを手伝いながら、タカさんに「何がありましたか?」と聞いてみました。
すると、「パンツを干していました」と言うのでした。なんだかその言い方がとても真剣だったので、思わず笑みがこぼれそうになりましたが、笑ってはいけないと思い直しました。
汚れた紙パンツをとても丁寧に干していたタカさんのことを、僕は微笑ましく思いました。
その夜、タカさんは一回も起きることなく朝までぐっすり眠り、翌日も元気に過ごされていました。
真夜中の電話相手「みつこさん」
最近、僕の祖母はスマホを持ち始め、月に数回ラインが来るようになりました。介護施設の利用者様の中にも、スマホを持っていて、家族といつでも連絡を取れるようにしている方もいらっしゃいます。高齢者にもスマホが浸透しているなぁと感じる事も多くなりました。
夜勤中にも家族と電話をしている利用者様を見かけることも多々あり、その中でも印象的だった出来事がありました。
夜勤のときは、基本はステーションで待機をして、コール対応をするのがメインの仕事です。しかし、ステーションから近い部屋にいらっしゃる利用者様の声は、僕らスタッフに聞こえてくることもあります。
夜の9時頃、ステーションのすぐ隣で生活している軽度の認知症があった高田ハルさん(81才女性、仮名)の話し声が聞こえてきました。スマホで誰かと話をしているようです。
ハルさんは、「今日も楽しかったね」「また明日会おうね」などと言っています。
電話の相手がご家族ならそのような言葉は使わないだろうし、その日は誰かと会っている様子はなかったので、「おや?」と思いました。
もしかして「施設内にいる誰かと電話をしているのかな?」と考え、翌日こっそり「昨日は誰と電話をしていたのですか?」と聞いてみました。しかし、ハルさんは「秘密よ」と笑い、真相は謎のままでした。
職員の間でも「ハルさんは誰と話をしているのか?」ということについて話題になっていました。気になっている人が多かったので、他の階で働いていた職員にも尋ねてみたのですけど、その時間に電話をしている利用者様はいないということで、さらに謎が深まりました。
翌日の夜勤でもまたハルさんの話し声が聞こえてきました。
気になったので聞き耳を立てていると、「また明日も会おうね、みつこちゃん」という言葉が聞こえてきました。
施設には「みつこ」という名前の人はいないので、なんだかちょっと怖くなりました。
みつこ、みつこ……光子。もしかして!?
僕はそのとき、ハルさんの情報提供書に明記されていた「森光子が大好き」という一文を思い出したのです。
どうやらハルさんは、森光子さんを友人という設定で空想し、電話でひとりでお話しをされていたようです
その翌日、僕は思わず「光子さんとたくさん話せましたか?」と、声をかけてみました。
するとハルさんは、「あらバレちゃったわね!!」と、ニッコリ。その後も週に1度くらいの割合で光子さんとの電話は続きました。
98才女性の歌声
特別養護老人ホームの夜勤専従で働いていたある日、小林ヤエさん(98才女性、仮名)という方が新たに入所されました。その日の深夜2時――。
ステーションで待機をしていると、ヤエさんの居室から楽しそうな歌声が響いています。
「もしもしかめよ~♪」
なつかしい童謡を歌っているのでした。
ヤエさんの情報には、夜中に独り言などの行動があるとは書かれていなかったので、最初は「気分がよくて歌っているのかな?」くらいに考えていました。
その歌声は、太いガラガラ声でお世辞にも歌が上手とは言えません。1時間経っても2時間経っても歌は続いています。しかも、この歌は4番まであるのですが、すべて覚えていらっしゃって完璧に歌い上げる。
1番から4番までをひたすらリピートし、ひと晩中、歌は続きました。
この歌について深い思い入れがあるのでしょうか。ヤエさんに尋ねてみても、答えはありません。「もうお休みしましょうね」と、たびたび声もかけたのですが、歌はとまりませんでした。
ヤエさんはすっかり昼夜逆転の生活になってしまい、昼間は寝ていて、夜は「もしもしかめよ~」を歌い続ける日々がしばらく続きました。
さすがに昼夜逆転の生活を改善しなければ健康にもよくないので、職員が「ヤエさん、お昼の時間に歌おうね」と声をかけ、昼間に歌うというスタイルへと変わりました。
深夜フルコーラスが聞けないのは、なんだかちょっと寂しい気分になったのでした。
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夜勤専従という仕事をしていると、昼間には起こらないような不思議な出来事に遭遇します。日中とは違った利用者様の姿や行動を見ることができ、面白いと感じることが多かったです。
もちろん、困った出来事も多くあるので大変なこともありますが、それらも含めて、夜勤の魅力だと僕は思っています。
みなさんも「夜勤でこんな面白いことあったよ」というエピソードがありましたら、ぜひコメントしていただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。