小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第124回 初老々介護実施中】

 50代で若年性認知症を発症した兄と暮らすライターのツガエマナミコさんに、60代が近づいてきました。兄も今や63歳。このまま老々介護になるのだろうか…。ツガエさんの胸中は複雑です。

「明るく、時にシュールに」、認知症を考えてきましたが、なかなか“明るく”なれないことも増えてきた!?

 * * *

ハイテク化のスピードについていけない

 兄がデイサービスに週1で通い始めて半年ほどが過ぎました。大きな変化がないことは、お薬が効いていて且つ施設で筋トレや手先の作業などをやってくださっているからにほかなりません。「自分の名前も書けなくなったの?」「パンツの前と後ろもわからないの?」といった落胆は数えきれないほどありますが、家で暴言も愚痴も独り言もこぼさず、機嫌よくテレビを観ていてくれることは、かなりありがたいことだと思っております。

 若年性認知症は進行が速いと読んだことがあったので、兄はずいぶんとゆっくり進んでいるように思っていました。でも57歳での発覚ですから定義上は若年性ですが、実質は初老であり、老人性認知症なのですよね。今はもう63歳ですし……。

 かくいうわたくしも59歳間近。マジか? これはもう初老々介護です。

 先日、ネットで認知症介護の動画を拝見しました。地方のテレビ局が撮影したであろう80代夫婦の老々介護と、100歳の母親を80歳の息子が介護している老々介護の様子でした。頑固だったり、徘徊があったりでわが家よりもうんと大変そうなお2人暮らしでした。わたくしより20歳以上もの先輩方が老体に鞭を打ち、夫のため、母のために献身する様は、自分の怠惰さを浮き彫りにいたしました。わたくしはまだ、楽な介護だと認めざるを得ません。

 わたくしがもう少し才能豊かでサクサク仕事ができたなら、この介護生活ももう少し違ったものになっただろうと思います。余裕があればわたくしだって兄にやさしくできるはず。でもわたくしは仕事が遅いのです。遅いがゆえに時間に追われ、兄の存在にいちいち気が散り、さらに遅れる。今頃になって知的好奇心が旺盛になったところで、基礎がないうえに老化をはじめた脳は思ったほど良くなってはくれません。介護で傷んだ心を立て直す時間も多めに必要で、執筆スピードは落ちるばかりでございます。

 本当に頭がいい人は仕事がめちゃめちゃ速いことを、先日、売れっ子経済アナリストに取材してみて思い知りました。彼のピーク時のお仕事量を聞いてびっくり。なんと一番忙しかったときはテレビやラジオのレギュラーを月10本以上、雑誌や新聞の連載は35本以上、さらに講演も月10本はあったというから殺人的でございます。結果病気になったというお話でしたが、その方曰く「連載も20本ぐらいまではしんどかったけれど、それを超えるといくらでも無限に書ける気がした。どんな原稿も30分あればだいたい書ける」とのこと。

 わたくしはどんな原稿でも1本書くのに1日かかります。ひどいと1週間ぐらい悩みます。そんなときにお便様掃除をさせられたりすると、精神崩壊が起こって「わたくしも認知症になりたい」と思ったりしてしまうのです。

 たまに原稿を早めにあげて、頑張ってお休みを作ったときに限って、急にパソコンの調子がおかしくなって丸一日復旧にかかってしまうことがあります。ちょっと前には、取材対象者に「ZoomじゃなくてTeamsでお願いします」と言われて、Teamsというリモート会議アプリを新たに導入するのに1~2日かかり、せっかくのオフ日を台無しにしました。簡単にできる人には数分で済むことなのかもしれませんが、昨今のハイテク(これは死語?)化のスピードに旧式昭和脳は追いつくのに青息吐息です。

 “死語”で思い出したのですが、先日Youtubeで「“テクシー”は昭和の時代に“てくてく歩くこと”と“タクシー”を組み合わせてできた流行語で今は死語」と紹介されており、昭和生まれ、テクシー育ちのわたくしは思わずのけぞりました。なんなら今でもジョークまじりに「テクシーで行きましょうか」と言ったりする世代でございます。画面の中の高学歴博識青年は「へぇ~、歩くことをテクシーって言ってたんだ。知らない、知らない」と笑っておりました。

 使わないのは当然としても聞いたことぐらいはあるだろうと思っていたわたくしは衝撃を受けました。こうやって人は順番に老人になっていくのですね。

 あと10年もすれば、ここは立派な老々介護現場。いつまでも世の中の中心世代だと思っていたらいつのまにか端っこ構成員。そうです、私たちアラ還(アラウンド還暦)兄妹です!

◀前の話を読む   次の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第106回 アレの掃除ばかりで妹は泣いています】

#介護が始まるときに知っておきたいこと

#介護保険制度の基礎知識

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • りんりん

    介護にも老々介護(私も含め)、初老々介護(ツガエさん)そして認認介護(なんと認知症の老人が認知症の老人介護)もあるそうです。 高齢社会の日本、日本は先進国のハズでしたが最近はそうでもないようで介護制度もまた発展途上にあるような気がしています。介護制度の充実をねがっています。

最近のコメント

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。