不慮の事故は家庭内で起きている!最期まで自宅で住むために準備しておきたい3つのこと
シニア期の家をどうするか…。「元気なうちから準備をした方がいい」と語る住宅ジャーナリストの中島早苗さんが、快適な住まいは何かを取材した事例を紹介する。今回は、高齢者住宅の専門家に話をきいた。
交通事故より家庭内での不慮の事故で亡くなる高齢者が多い
平均寿命が延び続け、100歳以上の人の数も年々増える現状、最期まで自分の家に住めればそれが一番いいのかもしれません。
しかし、若い時、子育て期に建てた、あるいは買った家のままでは高齢期、特に平均寿命を超えて80代、90代ともなると、安全に暮らすのは難しいのです。
度々報道されている通り、年間多くの高齢者が、転倒や溺れるなど不慮の事故で亡くなっています。厚生労働省によると、例えば2018年では、家庭内の不慮の事故による死亡者数約1万5千人のうち、8割以上を65歳以上が占めています。
消費者庁ウェブサイト「みんなで防ごう高齢者の事故」というページでは、室内や身近な場所で起こる死亡事故の原因になるものを、イラストを使ってわかりやすく解説しています。
この消費者庁「みんなで防ごう高齢者の事故」のデータにもある通り、近年は交通事故の死亡者数が減っていることもあり、転倒や、誤嚥等の窒息で、あるいは溺れて亡くなる高齢者は、交通事故で亡くなる高齢者よりもずっと多くなっています。
高齢になってもできるだけ長く元気で自宅で暮らすためには、次のような準備が必要です。
1. 自宅で転倒・転落をしない工夫を施す
2. ヒートショックを起こさない浴室・脱衣室に
3. 訪問ヘルパーや診療医が入れる1部屋を用意
特に1、2の具体的な注意点は、上記の消費者庁ウェブサイトでも解説されていますので、参考にしてみてください。
ケガをしない住まいで暮らす準備を
「在宅で最期まで暮らそうと思うなら、ケガをしない住まいにしておくことが肝要です」と話すのは、在宅介護についての相談も多く受ける「介護情報館」の館長、今井紀子さん。
多くの介護現場を経験してきた今井さんは、相談に訪れる人に、実体験に基づくアドバイスをしています。相談は基本的には無料で、希望する人には高齢者施設の紹介もしています。
今回は今井さんに、在宅介護を受けながら暮らす準備について教えてもらいました。
「高齢期に一人あるいは高齢者だけで、介護が必要な状態になると、何も準備をしていない自宅に住み続けるのはほとんど不可能でしょう。必要が生じたら介護も受けながら、最期まで自宅で住み続けるためには、それなりの準備が必要です。体が動き、判断ができるうちに、早めに準備しておいた方がいいでしょう。
例えばありがちなのは、『どうしてここでケガをするのかな?』と思うような、ちょっとした段差でつまずいて転んでしまうこと。そうなると、骨折して入院、認知症が進み、寝たきりになってしまうケースも見受けられます。
あるいは、ヒートショックにより、お風呂で急死してしまうケースもあります。実は私の身近な人も、お風呂の浴槽で浮いた状態で亡くなって見つかりました。熱いお湯が好きだった人で、暖かいリビングから移動して、寒いお風呂場で体がいったん冷え、その後熱いお湯に入るというヒートショックがいけなかったようです。
寝たきりや死亡につながりかねない、こうした危険因子を避ける家にしておくことが、自宅で長く安全に暮らすためには重要です」
以前にもこのシリーズでお伝えした通り、国土交通省でも「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」を策定しています。
参照:https://www.mlit.go.jp/common/001282248.pdf
上記ガイドラインに関連し、住まいのどこをどう改修するとリスクを下げて快適に暮らせるのかと、そのための資金計画の資料についても今井さんが紹介してくれましたので、参考にしてみてください。
参照:http://www.shpo.or.jp/_uploads/news/536/attachments/2_user-booklet_201909.pdf
http://www.shpo.or.jp/_uploads/news/536/attachments/5_support-booklet_202103.pdf
また、在宅介護の準備についてはこんなアドバイスをくれました。
介護サービスを受けやすい地域か
「在宅介護を想定していない、高齢者だけのお宅で、ヘルパーさんなど未知の他人に『どうぞどうぞ、お入りください』と言える方は見たことがありません。ほとんどの方は、たとえヘルパーさんでも家に入って来られるのを躊躇すると思いますので、事前に、入ってもらっても大丈夫な1部屋を準備しておくといいでしょう。住む人のプライバシーを守りながら在宅介護用の1部屋を用意したり、先にお話しした転倒や転落、ヒートショックを防ぐためには、リフォームも必要になるかもしれません」
また、介護に携わる事業所が近くにあることや、訪問看護・診療が受けやすい地域かどうかも重要なポイントだと今井さんは話します。
「自分の住むエリアが、在宅介護サービスを受けやすい地域であるかどうかを事前に調べておきましょう。それらも含めて早めに検討し、下準備しておくことが必要になります」
筆者の父も脳梗塞を起こし、その後要介護になってから亡くなるまでの約半年間、私の弟夫婦と自宅で暮らしていました。父が入院している間に弟が、手すりを付けるなどの簡単なリフォームを手配し、リビングダイニングだった場所にレンタルの介護用ベッドを置き、入浴はデイサービスを利用していました。
弟夫婦が日々父の手助けをしてくれたことと、すぐ隣のキッチンとトイレまでは杖をついて歩けたこと、食事や排せつが自力でできたことで、訪問介護や診療を受けることなく、在宅でも何とかなりましたが、少しでも条件が違ったら自宅で住むのは難しかったと思います。
何より、手助けしてくれる家族が身近にいたからできたことだったのでしょう。しかし当然ながら弟と義妹にはかなり負担がかかり、在宅介護の家族との同居は、誰でもができることではないとも思いました。
介護施設の方が快適に暮らせる場合も
これは父とは別の例ですが、特別養護老人ホーム(特養)と自宅介護、両方を経験した人に、どちらが快適かと尋ねた話を聞いたことがあります。するとその高齢者は即座に、「特養の方がいい」と答えたのだとか。「だって、暖かいし…」という理由だったそうで、高齢者住宅は全体的に床も温度もバリアフリーなので、体が弱っている人には優しい環境なのでしょう。
加えて、プロに介護してもらう方が気が楽、ということもあるのかもしれません。家族には気兼ねもするでしょうから。自分だったらどちらがいいか。想像し、リサーチし、少しでも希望に近い終の棲家を準備したいものです。
教えてくれた人/今井紀子さん
介護情報館館長、ニュー・ライフ・フロンティア取締役。医療機関の副事務長、有料老人ホームの施設長、老人保健施設の事務長などを経て現職。高齢者向けの住まい・施設を探す人や、自宅に住み続けるか住み替えるか悩む人、住み替えに不安を感じる人から寄せられる多数の相談に応じている。
介護情報館
住所:東京都中央区日本橋茅場町1-8-3 郵船茅場町ビル2階
HP: https://kaigo-jyoho-kan.com/
文/中島早苗(なかじま・さなえ)
住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。