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笠井アナが訴える「病室で無料WiFiを」の切実 入院闘病を経てネットの重要性を実感

 フリーアナウンサーに転身した直後に、悪性リンパ腫を罹患したアナウンサーの笠井信輔さん。闘病生活を経て、SNSをはじめとするネットの大切さを知った笠井さんは「#病院WiFi協議会」を立ち上げ、日本全国の病院の入院病棟に無料Wi-Fiを設置する活動を行っている。「2021年9月(今月!)末日までの申請で、各病院に国の補助金が交付される」と訴える。

がん治療は日進月歩!「体験談は罹患3年以内のサバイバーに聞こう」

――昨年11月、ステージ4の悪性リンパ腫が完全寛解なさいました。

笠井 はい。体の中から一切がん細胞が消えました。もう痛くもないし、だるさもつらさもありません!

――闘病中は、抗がん剤を打った後半と打ち終わってから1週間~10日間が辛かったとのことですが。

笠井 そうなんです。私は抗がん剤を5日間投与し続ける治療を6セット行いました。人によってつらい時期や症状はさまざまかと思いますが、経験してみて、がん治療の進化を感じました。現在の抗がん剤は非常に効果的で、体への負担も以前に比べれば軽くなっています。10年前以前はひどい嘔吐に苦しまれたかたが多かったようですが、吐き気を抑える薬も進化していて、私の場合は、4か月半の入院期間中、一度も吐かなかったんです。抗がん剤経験者の先輩たちは驚いていますよ。

――笠井さんの寛解は、がんサバイバーや今後がんに罹患するかもしれない多くの方々の光になりました。

笠井 ありがとうございます。がんサバイバーの多くのかたが言うのは「がんに罹患した先輩に経験談を聞く」ことの大切さです。できれば、治療3年以内のかたの経験を聞けるといいですね。5年、10年前の治療法や体験談では情報が古いし、怖くなってしまいます。本を読むときも同様です。それほどまでにがん治療は進化しているんです。

オンラインで家族や友人とつながって、YouTubeで大笑いして、入院の孤独から救われた

――そういう意味でも、SNSを使って情報を惜しみなく公開してくださった笠井さんに感謝している人は多いですね。

笠井 情報番組を担当してきた私ですから、苦しくても、やはり発信しなければ、と思いました。ありがたいことに入院中フォロワーが30万人を超えて、だんだんと「自分ひとりの生き死にの問題ではない」という気持ちになりました。多くの人に励まされ、それがどれほど力になったことか。何かとマイナス面ばかりが指摘されるSNSですが、入院中の患者にとっては、非常に勇気をもらえるツールだと実感しました。

――笠井さんは、そうした経験から現在「#病院WiFi協議会」を立ち上げて、医療機関、特に全ての病室に無料Wi-Fiが使用できる環境を作る活動をなさっています。

笠井 私もコロナの影響で約3か月半、誰も見舞いに来なかったので、優れない体調と不安の中、病気をさらに悪くしてしまうような孤独を感じました。ただ、ブログ・Instagramでの発信はもちろん、病院に来られない家族や友人とのメールやオンラインで顔を見ながら会話ができたことで、どれだけの安心感を得られたか。YouTubeなどの動画で、大笑いをしてどれだけ免疫力が上がったか。私はネットに救われました。

 しかし、私の病室はWi-Fi禁止だったので、自分のスマホのギガを使って毎月8000円から1万円の追加料金を払っていたんです。一方、協議会で約600人の入院患者の皆さんに「入院中Wi-Fiが使えないときどうしましたか?」と聞いたところ。39%のかたが「我慢した」と。これ以上金銭的負担を家族にかけられないという理由です。これを放置していおいてはいけません。

――確かに長い入院を余儀なくされたかたやお子さんなどはWi-Fi環境が力になりそうです。

笠井 そうですね。Wi-Fiがつながっていれば体調のいい日には仕事もできるでしょうし、病気についての検索も可能です。お子さんの場合は、親御さんから離れて入院するだけでも不安でしょうから、その不安をネットが和らげてくれると思います。オンラインで親御さんやお友達とつながっていれば、安心です。

――入院経験のない読者は「え? 病院にはWi-Fiが通っていないの?」と感じるかもしれません。

笠井 そうですよね。数年前にはホテルでもWi-Fi環境がないところがありました。でも、現在はほぼ全てのホテルがWi-Fiを完備しています。今や、Wi-Fi環境がないホテルには宿泊したくない人がほとんどです。5年後には病院も同じようになるとWi-Fi業者の皆さんは話しています。現在のところ、全病室でWi-Fiが利用できる病院は日本全国で約2割しかありません。海外では、病室でWi-Fiが利用できるのは当たり前なのに、日本ではあまりにも少なすぎます。

各種医療機器への影響、電磁波、治療との兼ね合い。Wi-Fiに対する大きな誤解

――2021年9月末日までの申請で全国の病院のWi-Fi環境整備に国からの補助金が出ることになりました。

笠井 ぜひ、この機会に多くの病院にWi-Fi環境を整備していただきたいと思います。また、多くの方々の声が病院に届き、日本全ての病院の入院病棟でWi-Fiが使えるようになることを目指します。「#病院WiFi協議会」のホームページには、現在Wi-Fiが整備されている病院の一覧がありますので、ご参考になさってください。

――なぜ病院はWi-Fi環境整備を進めないのでしょうか。

笠井 さまざまな理由がありますが、最大の理由は「電子カルテ」に影響を及ぼすだろうという、古い知識による誤解です。病室にWi-Fiが導入されても、電子カルテに不具合が生じることはないとWi-Fi業者の皆さんは口々に訴えています。

――病院の各種電子機器の不具合をWi-Fiが招くのではという話も聞きました。

笠井 それも誤解です。1997年に発表された厚生労働省の調査『不要電波問題対策協議会の医用電気機器作業部会による「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」について』でも、無線LANは「発射される電波による医用電気機器への影響は携帯電話端末と比較して小さいものの、これらの小電力無線局を医用電気機器の間近まで近づけた場合に、ノイズ混入、誤動作等の影響を受けることがあるため、医用電気機器に小電力無線局を 近づけないよう注意することが望ましい」 とあり、間近まで近づけないと電波干渉がないということで、「注意することが望ましい」という注意勧告になっています。実際、病棟内でWi-Fiを使用している病院全てにおいて、医療機器への問題は起きていません。なにより、安全性が確かめられているからこそ、病室Wi-Fi工事に国の補助金がついたのです。病院の上層部のかたたちにはそこを分かっていただきたいです。

――もうひとつ、入院する場合は治療に専念すべき、という見方もあります。

笠井 その意見も理解できます。しかし、一方で、入院経験者としては、それは想像力に欠けた発言に感じます。今、コロナの影響で全国の病院で1年以上面会禁止が続いているんです。外の世界の情報から遮断された状態は精神的に良くありません。さらには、好きなときに家族と友人と関われないストレスは免疫力を下げることもアメリカの調査で分かっています。コロナ禍で面会がままならない状況なら、なおさらです。Wi-Fiは入院患者のQOLを高める一助になっているのです。

 また、あまり気づかれていないことですが、ろう者や障がい者にとっては、外部との通信はエンターテインメントのためだけでなく、生死に関わるコミュニケーションツール、病室Wi-Fiは今やライフラインなのです。特にコロナ禍で家族と連絡が取りにくい場合は、自身で手話通訳者や介護者をネットで探し、依頼しなければなりません。

――入院病棟へのWi-Fi設備の重要性がとてもよく分かりました。最後に「#病院WiFi協議会」の活動を続ける中で、読者の皆さんに伝えたいことを教えてください。
笠井  今回の補助金の締め切りは今月末(9月末)までです。今からでは 間に合わないと諦める病院関係者のかたが少なくないと聞いています。しかし私たち#病室WiFi協議会は今、申請期限の延長を求めています。 締め切りまでに 次々と申請書が届くと、それが1つの民意だということ、省庁を動かすことがあるという話を聞きました。 ですから病院関係者の皆さん。 誰にも会うことができない入院患者さんのために最終日まで諦めずに、とにかくWi-Fi工事の申請書を出してください。それが国土交通省を動かす1番の原動力になると今は思っています。

***

 入院時の通信環境の大切さをご自身の経験と共に語ってくださった笠井さん。お話をうかがいながら、自身がもしも入院をしたときのことを想像した読者もいただろう。ネットが生活の当たり前の一部となった現在、そこから遮断される時間の心もとなさは想像に難くない。ただでも孤独と不安を感じる入院生活なら、なおさらだ。病院の入院病棟で無料Wi-Fi環境が当たり前になる、そんな日が遠くないことを望む。

取材・文/池野佐知子

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